下重暁子著『家族という病』は、家族論というより親子論:家父長制と戦後へのアンチテーゼ

あの見城徹さんの幻冬舎が発行で、下重暁子さん著の
家族という病 (幻冬舎新書)

というタイトルの、結構インパクトのある新聞広告を見て
ブログ内の一つのテーマと関係があるのでネットで購入。

薄手の読みやすい本だったので
他の読みかけの合間にサラっと目を通しました。

広告では
・家族ほどしんどいものはないない
・これまで神聖化されてきた”家族”を斬る!
・「家族」はそれほど素晴らしいものなのか?
から始まって
文中の各テーマを列記。

「ほんとうはみな家族のことは知らない」(序章)
から始まって

・家族を盲信する日本人
・夫婦でも理解し合えることはない
・女は子供を産むべきか
・家族という名の暴力

・・・・

家族の実態をえぐりつつ、「家族とは何か」を提起する一冊
というウリでしたが・・・

感じたところの一部を記してみたいと思います。

1.昭和11年生まれの下重さんとご両親との親子関係が
この書の原点。
なので、「家族論」と言うよりも「親子関係」の書。
一応、義兄も登場するが、やはり父と息子の親子関係の記述が多い。

2.しかもその父は、軍人であり、日本の家父長制の権化のような
存在であり、母もその時代の社会基盤における妻であり母であった。
そうした時代背景を原点とする家族論であることが、今ひとつ
説得力を欠く。

3.下重さんご自身は、親としての経験をお持ちにならず
この書での家族論は、自分の親との2世代家族に限定されている。
その前提での書であり、幅・奥行きとも家族論として適切かどうか、
多少の疑問というか、残念さがある。
(他の係累についての記述もあるが、家族論に含めるべきか
どうか・・・。)
あとは、知人・友人を通しての家族論です。

4.彼女がいう
「私は家族という単位が苦手なのだ」という家族は
あまたある家族の形の、ほんの一例に過ぎない。
家族形態の代表、みたいなものでもない。

5.下重さんが体験したような親子関係における家庭環境は
今の時代の家族・家庭では、あまりというか、ほとんどと言うべきか
ありえないものであり、それを前提とした彼女の価値観・家族観で
種々断定することには、違和感がある。

そんな感じです。

 

とは言っても
私個人の家族観や生き方との共通点、類似点は極めて多く、
共感を覚えるところ、表現も多々あります。

例えば
・家族のことしか話題がない人はつまらない
・家族の話はしょせん自慢か愚痴
・家族社員入りの年賀状は幸せの押し売り
など・・・。

でも
・大人にとってのいい子はろくな人間にならない
・介護で親子は互いを理解する
・遺産を残してもいいことは一つもない
と断定されると
そうとも限らないでしょう、と・・・。

それらは、断定・断罪すべきこととではなく
家族や夫婦や親子関係の多面性・多様性の表れと思っています。

 

この書の中で、下重さんは

「子は親の価値観に反発することで成長すると信じている。」
「正直に向きあえば、いやでも親子は対立せざるを得ない。」
と、言い切っています。
そういう親子関係もあるでしょうが、そうでなきゃいけない
とするのも、おかしなもの・・・。

また
「心がつながっていなければ家族ではない」と断定する一方
「私の家族は今のところ、つれあい一人。
そのつれあいと心が通じあっているかといえば、それはわからない」
とも言っているのです。

「日本人は家族を盲信している」という断定表現も
いかがなものでしょう・・・。
「盲信」?
そんな感覚を抱いて私たちは生活しているでしょうか・・・。
夫や妻、親や子を「信じている」
と毎日しっかり意識して暮らしているわけでもない・・・。

彼女は、理想を求めるが故に
自分の家族を持とうとしなかったのかな?
あるいは、穿った味方をすると
そういう親子関係にならざるを得ないのを避けたかったのか・・・、
とも。

元軍人の父の戦後の生きざま(再変節?)を非難していることで
S女史のように下重さんがならなかったことは
私にとっては嬉しいことでした。

しかし
最終的に、自分の亡くなった父母や義兄や叔母さんを
存命中に理解しておけば良かった、と自省しているかのよう・・・。

読者にもそうあって欲しいかのように思わせるのは
厳しい親子関係を経たことなど知らずに見ていた
NHKアナウンサー時代の一見冷たさを感じさせた才媛が
結局は、やはり
旧き過去を懐かしむ人になってしまったかと、
ちょっぴり、悲しく・・・。

「知的な家族ほど消滅する」

それはご自身のことをおっしゃっているかのようでもあるのも
象徴的と言えば象徴的でした・・・。

 

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しかし、こういう本の売り方、幻冬舎さん、さすがにうまいなぁ!
内容よりも、そんな思いの方が強かった書でした・・・。

関心をお持ちになりましたら読んで頂き
あなたの「家族論、家族観」を読み進めながら、
サラッと、確認や整理をしてみては、
と思います。

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そもそも、私は
「家族が完全に理解し合うことなどムリですし
知る必要もない。」と考えています。

ただ一つ
家族がお互いに個人を尊重し合えること。
これが理想と考えています。
困難ではありますが・・・。

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香山リカ氏著

☆☆☆『親子という病』(2008年9月20日刊・講談社現代新書・¥756)

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岡田尊司氏著

☆☆☆『母という病』(2014年1月7日刊・ポプラ新書・¥842)

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☆☆☆『という病』(2015年1月5日刊・ポプラ新書・¥864)


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白河桃子氏著

☆☆☆『専業主婦になりたい女たち』(2014年12月1日刊・ポプラ新書・¥842)

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☆☆☆『「専業主夫」になりたい男たち』(2016年1月5日刊・ポプラ新書・¥842)

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下重暁子氏著

☆☆『家族という病』(2015年3月25日刊・幻冬舎新書・¥842

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☆☆『家族という病2』(2016年4月1日刊・幻冬舎新書・¥842

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筒井淳也氏著

☆☆☆☆『仕事と家族 – 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(2015年5月15日刊・中公新書・¥842

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