訪問介護におけるセクハラ・パワハラ問題:在宅介護政策の裏表


要介護高齢男性への訪問介護のイメージは?

在宅介護を重点とするわが国の介護政策。
特養など入居型介護施設の建設にかかるコストを最大の課題として、訪問介護とデイ
サービス利用による在宅介護を推し進めます。

サ高住や有料老人ホームなどが、老健や特養に比べ利用者に大きな負担をかけること
も、訪問介護主義の要因。

しかし、1戸1戸介護スタッフが、車で要介護者の自宅を訪問し介護作業を行うこと
の非合理性は簡単に想像できることです。

加えて、要介護者の暮らす環境がみな清潔で、安全かどうか・・・。
単身高齢者で介護を必要とする生活では、ついつい掃除や台所の整理など疎かになり、
衛生面での不安も想像の範囲です。

そして・・・。
男性要介護者ひとりの家・部屋を、女性介護士が訪問し、介護保険で決められた生活
介助サービスを行う・・・。

正直なところ、私が女性で介護士ならば、好んで行う仕事ではありませんね。
セクハラ、パワハラのリスク、絶対感じます。
非衛生的な部屋やキッチン、トイレの家も・・・。

もちろん、衛生的にしており、紳士の態度振る舞いの高齢要介護者もいるでしょうが
・・・。

仮に介護事業所の経営者ならば、そういう場所に、大切な女性スタッフを派遣したい
とは思わない、というか、そういう事業はやりたくない・・・。
やるとしたら、できることなら利用者を選びたいですね。

一方、特養や老人ホームなど、個室を持ちますが、一応集団での生活、複数の介護ス
タッフから受ける介護サービスにおいては、セクハラ・パワハラのリスクは一気に減
ります。

超高齢化社会は、単身高齢者世帯、そして要介護単身高齢者・高齢夫婦世帯高齢者を
激増させます。

それは、訪問介護スタッフの仕事のリスクをますます増やすことも意味します。
それらは、すべからく想定可能な事象・リスクです。

 

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日本介護クラフトユニオンが行った「ハラスメント調査」

こうした不安は、介護事業が始まったときから存在し、日常化しているはずです。
日常的にそのリスクを経験しているはずの介護士は、そういう仕事ゆえ、顧客ゆえ、
と声を上げることなく、我慢し続けている・・・。
低賃金ながらも、生きていくために、食べていくために・・・。

この時代、看過できないはず・・・。

介護に携わる弱い立場の人々を組織化し、労組化した<日本介護クラフトユニオン>
が、今年2018年の4月・5月に
「ご利用者・ご家族からのハラスメントに関するアンケート」を実施。
その調査結果報告書を公開しました。

要介護者本人からだけでなく、その家族からもハラスメントを受けることも多いと
報告もしています。

聞きたくない、恥ずかしい日本人の一面です。
残念ながら、介護保険を利用して訪問介護を受けていること自体、感謝すべきこと
なのですが、そういう人間もいる。
これも、想定内というべきでしょう・・・。

こちらのPDF資料で報告書をご覧頂くことができます。
⇒ http://www.nccu.gr.jp/rw/contents/C03/20180709000101.pdf

 

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労組、厚労省にハラスメント対策を要請

この結果を踏まえて、同労組は、介護職員などが利用者やその家族から暴言や性的
な嫌がらせといったハラスメント被害に遭っている問題で、その対策を、厚生労働
省に要請しました。

その報道は、2018/8/10付日経の
「介護職員へのハラスメント 労組、国に対策要請
と題した記事で、見て頂くことができます。

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厚労省、介護ハラスメント実態調査実施へ

そして、これに応える形で、厚労省が今年度2018年度中に実態調査に乗り出すと
決定。
それを報じたのが、同紙2018/8/14付日経の

「介護職員被害、国が調査 利用者からの暴言・嫌がらせ、事業者向け指針策定へ」
というレポートです。

恐らく、厚労省スタッフにとっては、こうしたハラスメントが起きることなど
想定外だった、ということになるんでしょうね。
お役所・お役人の想像力のなさは、今に始まったことではありません。
都合の悪いこと、自分に直接責任が及ばないことは、すべて想定外で、当事者責
任に帰すべきこと。
そういうすっとぼけた見解にいつも持ち込みます。

同記事での厚労省のスタンスや、訪問介護現場でのハラスメントの状況については、
上記記事リンクからお読み頂けます。

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ハラスメント問題、各紙報道から

この労組・厚労省の動きを受けて、各紙でもこの問題を取り上げました。

日経では、2018/9/21付夕刊で
「介護現場 セクハラ横行 利用者や家族から訪問先で 悪質な場合サービス停止も」

と題して。

中日新聞では、2018/10/10付で
「介護職のセクハラ被害が深刻 サービス利用者や家族から」
というテーマで。

同労組の報告に加え、介護事業所の事例や対策なども挟ん

でレポートしています。

その内容を、記事リンクからぜひご覧になってください。

驚くべきは、要介護者からではなく、同居するその男性家族から職員に
対してハラスメントがあったという事例。
訪問介護・看護の危険性。
密室・密住宅でのリスクは、犯罪リスクと表裏一体でもあるわけです。

<日本介護クラフトユニオン>の調査報告書資料はこちらです。
⇒ http://www.nccu.gr.jp/rw/contents/C03/20180709000101.pdf

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在宅介護主義から施設介護主義への転換を!

1)セクハラ・パワハラ介護のリスク回避だけでなく、
2)要介護者個々人の住宅・部屋への訪問介護の非効率性・非安全性、
高コスト性回避策として、
3)不足し、低い労働条件・労働環境で従事する介護スタッフの地位
と業務質の向上のためにも、
現在の介護政策である在宅・居宅介護主義から、施設介護主義への転
換を図るべき。

常々、そう思い、提案してきています。

それ以前に、日常的に発生しているハラスメント対策にも取り組むこ
とは当然です。

訪問介護を受託する事業所・事業者が、こうした被害・問題にあった
ときには、自治体に報告。
調査をしたうえで、事実であり悪質ならば、介護制度の利用を差し止
める、あるいは、保険適用外の全額個人負担で介護サービスを受ける
などの強硬措置をとることができる。

認知症や精神疾患などで利用者およびその家族に故意・過失が認めら
れない場合は、施設介護に切り替える。

こうした方策を取ることができるように、介護制度の改訂を速やかに
行うべきとも考えます。

 

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結城康博氏著

☆☆☆『介護 現場からの検証』(2008年5月20日・岩波新書)

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☆☆☆☆『在宅介護 「自分で選ぶ」視点から』(2015年8月20日・岩波新書)

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☆☆☆☆『介護破産 働きながら介護を続ける方法』(2017年4月14日・KADOKAWA)

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河内孝氏著

☆☆☆☆『自衛する老後 介護崩壊を防げるか』(2012年5月20日刊・新潮新書)

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樋口恵子氏著

☆☆☆☆その介護離職、おまちなさい』(2017年10月20日刊・潮新書)

長岡美代氏著

☆☆☆介護ビジネスの罠』(2015年9月20日刊・講談社現代新書)

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和氣美枝氏著

☆☆☆『介護離職 しない、させない』(2016年5月15日刊・毎日新聞出版)

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宮本剛宏氏著

☆☆☆☆『介護危機 「数字」と「現場」の処方箋』(2017年6月19日刊・プレジデント社)

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杢野暉尚氏

☆☆☆『人生を破滅に導く「介護破産」』(2017年6月23日・幻冬舎)

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太田差惠子氏著

☆☆☆『親の介護で自滅しない選択』(2017年2月15日刊・日本経済新聞出版社)

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横井金夫氏著・山田茂生氏氏監修

☆☆☆『失敗しない介護施設選び』(2015年8月25日刊・幻冬舎・¥1,4042)

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中村淳彦氏著

☆☆『崩壊する介護現場』(2013年9月20日刊・ベスト新書)

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☆☆『絶望の超高齢化社会 介護業界の生き地獄』(2017年6月5日刊・小学館新書)

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