紋切り型の介護現場の労働生産性向上必要論はやめるべき

2018/2/27付日経掲載の記事
「賃金再考 データから 医療・介護は見劣り 官製報酬、財源の壁」

そこでは、毎度のことですが、介護職の賃金の他産業に比べての低さを
取り上げ、介護職の確保が困難な最大の要因として論述しています。

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医療・介護等の社会保障分野は、診療報酬や介護報酬など国が決める制度
で賃金が決まる要素が大きい。
政府は介護士の処遇改善に向けて介護報酬の引き上げを進めてきたが、厳
しい財政状況
での報酬増額にも限りがある。

そして、
公的な報酬制度があるために、生産性を上げる努力が広がりにくく、生産
性の改善を賃金に反
映する仕組み作りが大切になる。

 

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簡単に整理すると、こんな主張になります。

日経記者も、時々、低賃金問題を取り上げる義務がある、という程度の認識なんでし
ょうか。
医療分野と介護分野を一緒にくくって論じること自体、介護業界の厳しい実態をある
意味、隠蔽することになる。
まずその自覚・認識がありません。

看護師・医師の医療分野の賃金実態を取り出せば、製造業と遜色なく、むしろ高いの
ではないでしょうか。
用いている調査データでは、介護業界の低賃金実態にゲタを履かせることになってい
るはずです。

制度の壁を指摘しますが、医療制度と介護制度では、内容も歴史も業界も、まったく
異なります。

そして、必ず持ち出される生産性の問題。
医療現場での生産性と介護現場でのそれとは、一緒にして、あるいは比較して論じる
こと自体ムリがあります。

そして何より、記者は、本気で、介護現場で製造業並みの生産性向上が可能と考えて
いるのか・・・。
もしそうなら、あまりにも介護を知らなさすぎです。

介護保険制度そのものが、低賃金の要因でもある。
それは、もちろんです。
介護現場の介護作業・介護業務自体が、特別の付加価値を持ち、高い料金を要求でき
るものではないことは、介護保険制度とそこで設定する介護報酬・介護費用負担額が
示しています。

その本質的な要素を無視して、賃金レベルを引き上げるには、介護保険料を大幅に上
げる、自己負担額を大幅に引き上げる、財政赤字増を野放しにする・・・。

介護実作業以外の事務的・間接的業務の効率化が、介護現場・介護業界の生産性の向
上に寄与するレベルは知れています。

本気で介護事業の生産性向上を図るには、大型介護施設を建設し、要介護者の収容人
数を増やすことが最も現実的な方法です。
要介護者居住地域の集約化も、同質の政策です。
もちろん、施設適地と建設費の問題はありますが・・・。

在宅介護主義による、訪問介護・訪問看護、通所介護(デイサービス)利用の送迎。
これを現状のまま続ければ、介護業界の生産性向上は、ほとんど期待できません。
掛け声をかけるのは勝手ですが、掛け声をかける人が実際に介護に携わるわけではな
く、責任も持ってくれません。

要介護3以上の介護を、在宅で行うことは、大変なこと。
介護離職を防ぐためにも、要介護3以上は、施設介護主義を強く推し進めるべきと考
えます。

そして、裏を返せば、自宅で介護を受けたい場合は、自己負担を増やすべき。
加えて、批判を受けることは承知の上ですが、要支援レベルは、介護保険適用から外
すといった、思い切った制度改革も考えるべき、と思います。
これは、医療分野における過剰な薬剤処方の抑制政策の必要性と類似した問題です。

介護業界の低賃金問題についての議論から、少々外れてしまいました。
介護職賃金の向上が、生産性向上とつながっているという視点で考えると、現状の介
護政策・介護行政・介護保険制度の転換・変革が不可欠。
今回は、そこに集約しました。

介護職の賃金の本質を在り方については、これまでも何度も述べてきていますが、近
々また改めて、整理したいと思います。

 

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