厚労省「介護事業経営実態調査」は、介護保険法改定による介護報酬引き下げに利用される?

最近また介護業界におけるM&Aが勢いを増している状況を
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で紹介しました。

人手不足・人材不足が原因で、中小・零細事業者が介護スタッフを確保できない。
それが確かにM&Aの要因にもなっていますが、根本的には、収益構造が、固定
的・限定的であり、介護保険法で決める報酬給付制度に依存しているためとみて
よいでしょう。

その観点からのレポートが、2017/10/27付日経で
介護事業、利益率が低下 昨年度3.3% 報酬下げ・人件費上昇で」
と題して掲載されました。

これは、厚労省が、10月26日に公表した<介護事業経営実態調査>に拠るもの。
介護保険でサービスを提供している約1万5千の事業所の16年度決算から集計。

以下、ポイント絞って紹介します。

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 2016年度の介護事業者の利益率は平均3.3%で、14年度調査の7.8%に比べ縮小。
15年度に介護報酬が引き下げられ、かつ人件費が上がったことが影響した。

利益率はサービスごとにばらつきがあり、特別養護老人ホームは1.6%で7.1ポ
イント下落。デイサービス事業は、前回よりも6.5ポイント下がったが4.9%。
訪問介護事業は4.8%と比較的高い。

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介護事業者の収入となる介護報酬のサービスごとの基準単価等は、3年ごとに
改定
されるが、前回改定では全体的に利益率が高かったため、改定率はマイナス
2.27%に。
人手不足で人件費も上がり、経営の圧迫に繋がっている。

 2000年以降、介護給付費は17年度までに約3倍10兆円超。
費用の抑制策は喫緊の課題である。
 

 

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確かに無駄を省き、事業の効率化を見直しを促す報酬設定が必要である。

しかし、不正請求問題もあり、報酬改定が行われれば、そうした問題が一層水面下で
進むリスクもあると考えます。
制度自体の改善も本来課題なのですが・・・

話しを戻して、厚労省のこの調査結果の概要は、同省HPで公開しています。
こちらからPDF資料を入手できます。

平成29年度介護事業経営実態調査結果の概要
平成29年度介護事業経営実態調査結果(各サービス別総括表)
平成29年度介護事業経営実態調査結果(参考表)

その一番上の資料から、2つ選んで、転載します。

 

収支差率は、経常利益率と呼び替えていいかと思います。
全体的に確かに前年比で悪化していますが、改善された業態もあります。

 

これは、収益全体のうちで、介護保険に基づいて給付される報酬が何%占めるかというデータ。
介護報酬に依存する率が高いほど、介護保険法が改定され引き下げられると受ける影響度が高
くなります。

主たる介護サービスの種類の違いが、介護事業所の呼び方の違いと言えます。
この種類の違いを「業態」と呼べばよいと思うのですが、介護業界でも行政でも、用いていま
せん。
量販店、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、専門店などは、小売業の「業態」を示
しています。
こういう概念を介護業界でも用いると良いのですが・・・。

業態ごとの、収益構造や収益率の違いを分析し、その課題を明らかにし、経営改善に努める。
という考え方と実践を広げていく上で、介護事業者は、今回の調査資料を読み、活かしていく
ようになればと思います。

ざっと見て感じたのは、意外とどの業態も、給付費への依存度が低いんだな、ということ。
ただ、これを単純に鵜呑みにするわけにはいきません。
他の収益分野の利益率や人件費率などもしっかり把握する必要があります。

しかし、厚労省調査が、介護保険法の改定に用いるデータとしては、意外に低い給付費への
依存度という感覚は、報酬引き下げの理由・根拠に使ううえで好都合。
経営の中身にまでは、踏み込まずに、引き下げを強行するでしょう。

いずれにしても、中小・零細事業者のみならず、中堅事業者もM&Aの荒波に巻き込まれる
リスク・可能性が今後も増していくことは間違いありません。

ちょうど、今日11月1日付日経に「2016年度サービス業調査」結果が掲載されました。
前回も行ったように、介護業界のランキングもその中にあります。
次回以降、前年にならい、紹介したいと思います。

 

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結城康博氏著

☆☆☆『介護 現場からの検証』(2008年5月20日・岩波新書)

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☆☆☆☆『在宅介護 「自分で選ぶ」視点から』(2015年8月20日・岩波新書)

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☆☆☆☆『介護破産 働きながら介護を続ける方法』(2017年4月14日・KADOKAWA)

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河内孝氏著

☆☆☆☆『自衛する老後 介護崩壊を防げるか』(2012年5月20日刊・新潮新書)

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☆☆☆☆その介護離職、おまちなさい』(2017年10月20日刊・潮新書)

長岡美代氏著

☆☆☆介護ビジネスの罠』(2015年9月20日刊・講談社現代新書)

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中村淳彦氏著

☆☆『崩壊する介護現場』(2013年9月20日刊・ベスト新書)

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☆☆『絶望の超高齢化社会 介護業界の生き地獄』(2017年6月5日刊・小学館新書)

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☆☆☆『介護離職 しない、させない』(2016年5月15日刊・毎日新聞出版)

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宮本剛宏氏著

☆☆☆☆『介護危機 「数字」と「現場」の処方箋』(2017年6月19日刊・プレジデント社)

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杢野暉尚氏

☆☆☆『人生を破滅に導く「介護破産」』(2017年6月23日・幻冬舎)

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太田差惠子氏著

☆☆☆『親の介護で自滅しない選択』(2017年2月15日刊・日本経済新聞出版社)

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横井金夫氏著・山田茂生氏氏監修

☆☆☆『失敗しない介護施設選び』(2015年8月25日刊・幻冬舎・¥1,4042)

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