介護事業者が考えるべき、介護人材資質と採用基準:介護事業経営を考える(1)

前回紹介した、新刊『介護危機 ―「数字」と「現場」の処方箋
宮本剛宏氏著・プレジデント社・2017/6/19刊)。

その構成は、下部に再掲しましたが、第1章の最後のテーマ
「3.介護で働く人の質的問題」
の内容を少し紹介して考えてみたいと思います。

<まさかヘルパーが! 犯罪者となる介護職>
と、少々ショッキング見出しがついている部分です。
少し文章を省略したり、簡略化しています。

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近年増加している介護職の高齢者虐待や殺人事件の報道などで、「介護職の
資質はどうあるべきか」ということが問われている。
と問題提起し、

厚労省の失業者対策で助成金を受けて介護資格を取り、他業界から転職して
介護職として
働き始めた人材は、すぐに辞めてしまうことが多い。
50代以上の男性も多く、訪問介護等の業務内容にうまく適応できず、早々に
退職となったケースが多い

◆人材不足が顕著な介護業界では、介護職の採用基準は低くせざるを得ず、特
に夜勤介護職を継続的に確保することが困難。

◆資質のないスタッフを容易に増やすと、現場でおきるトラブルのために組織
全体の管理負担は大きくなる。
◆それが既存の人材の退職にもつながり、一層人材不足に。

と指摘しています。

詳しくは、同書の62~64ページをお読み頂ければと思います。

 

 

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介護職員の資質については、先日
介護人材不足原因としての介護職員のパーソナリティ(1) (2017/7/25)
介護人材不足原因としての介護職員のパーソナリティ(2) (2017/7/26)
で述べました。

そこで紹介した、『崩壊する介護現場』(2013/9/20刊)の著者・中村敦彦氏
の最近の書『絶望の超高齢社会: 介護業界の生き地獄』(2017/5/31刊)では、
介護職の資質問題を一層過激に描写しています。
そのブログは、以下です。
介護崩壊の意味するモノ:介護関連図書から、崩壊の現実を整理する (2017/7/10)


まあ極端な事例が取り上げられているのですが、そうした類は、何も介護業界だ
けにあるのではなく、業界が未成熟な段階や、一部の心無い経営者の事業所にお
いては、どんな業種・事業体においてもあり得ることと言えると思います。

そうすると、介護事業経営者にとどまらず、すべての事業の経営者、とりわけ中
小・零細企業の経営者に共通して求められる人材の資質に対する考え方・姿勢を、
上述した、宮本氏の発言が示していると考えて欲しいと思います。

「悪貨は良貨を駆逐する」という<グレシャムの法則>があります。
それを、人材・人財に当てはめたのが<人財グレシャムの法則>。
「資質の悪い、低い人材を採用し、増えてくると、良い人材・人財がいなくなっ
てしまう、辞めてしまう」
というものです。

おわかり頂けますね。

そして、それはサービスの質、そして経営の質をも落とすことにつながる。
ですから、いかに人材・人手が不足していても、一定の基準以下と評価する人材
は採用してはいけない。
採用するとその反動として、何倍にもマイナスの事件・事象を招き、組織やチー
ムが壊れていく大きなリスクを抱えることになるのです。

現在は、不況で人手が不足する介護業界に人が流れてくる、などということはあ
りません。
反対に、一応好況とみなされて、どの業界も人材不足で囲い込みに躍起。
トータルでの有効求人倍率は1を超え、介護業界に至っては、3~4倍を超えた
状態が続いています。
まさに、だれでもいいから、数時間のパートアルバイトでいいから・・・。
そうなります・・・。

しかし、ここはぐっと辛抱して、採用基準を下げないようにすべきです。
可能ならば、新規顧客を抑制したり、デイサービス事業は、夜勤が必要なショー
トステイ業務は、態勢が整うまでは休業とするなど、営業面での一時的な縮小や
対策も選択肢の一つと考えてみてもよいのでは、と思います。

現在頑張ってくれている介護スタッフが、なんとか、そうした状況でも、やりが
い・働き甲斐を見出し、将来に対する希望も持つことができるような運営・経営
に努める。

介護事業者に共通の課題です。

 

次回は、もう一度、「3.介護で働く人の質的問題」で指摘してる内容を紹介し
考えてみることにします。

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関連ブログとして、先月から始めたこのシリーズもチェックしてみてください。

◆第1回:介護職員のやりがいを考える(1):介護の仕事と改善について
◆第2回:介護職員のやりがいを考える(2):介護という仕事と適性について
◆第3回:介護職員のやりがいを考える(3):介護事業者をめざす道
◆第4回:介護職員のやりがいを考える(4):人間力、コミュ力を磨き、自分を高める

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【『介護危機 ―「数字」と「現場」の処方箋』構成】

第1章 介護の現場で起きていること -介護職の声と顧客データから何がわかるか-
◆第1節 変わる介護のかたち
1.「介護保険制度」とは何か
2.介護保険制度のしくみ
3.成長する介護市場の今
◆第2節 老人ホームと在宅介護
1.施設サービス
2.居宅サービス
3.地域密着型サービス
◆第3節 トラブル続発 - 介護の大問題
1.介護ビジネスの問題点
2.突然始まる介護の衝撃
3.介護で働く人の資的問題

第2章 なぜ、介護職12万人、財源1.5兆円が不足するのか
◆第1節 人材不足 -誰が足りないのか
1.介護人材不足の構造
2.「現場の担い手」の不足
3.管理者クラスの不足
4.経営者の不足
5.介護人材獲得における誤解
◆第2節 財源不足 -どうなる介護保険財政
1.介護保険の歳入
2.介護保険の歳出
3.介護保険財政は維持できるのか

第3章 毎年5割成長する介護企業の秘密
◆第1節 人材の秘密
1.介護事業の人材戦略
2.人材の獲得
3.人材を育成する
◆第2節 経営の秘密
1.介護事業の経営戦略
2.組織運営
3.ITシステム

第4章 こうすれば介護の人材・財政不足を解消できる
◆第1節 人材不足への処方箋
1.国の人材獲得政策を検証する
2.行政が本当に取り組むべきことは何か
◆第2節 財政不足を解消する戦略
1.国の財政政策を検証する
2.民間が取り組むべきこと
3.行政が取り組むべきこと

第5章 それぞれの「希望」をかなえるビジネスモデル
◆第1節 介護問題を解決する新規ビジネス
1.高齢者向け引っ越しサービス
2.介護職離職防止支援サービス
3.介護事業の経営研究

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【宮本剛宏氏プロフィール】
1979年生。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、大手企業、ITコンサルティング会社
を経て、2008年に、介護事業企業、(株)ケアリッツ・アンド・パートナーズを設立。

現在、正社員数が約1000人、50事業所超の訪問介護事業、デイサービス事業、
ほぼ10カ所の居宅支援事業に、若干のサービス付き高齢者向け住宅などを経営。

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なお、この夏、週刊ダイヤモンドの8月12日19日合併号に
「制度改悪に備える 家族の介護」と題した94ページの特集が組まれました。
保存版としてお薦めします。

週刊ダイヤモンド 2017年8/12・8/19合併号 』

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