介護事業者自身が考え、高めるべき経営者としての資質:介護事業経営を考える(2)

前々回紹介した、新刊『介護危機 ―「数字」と「現場」の処方箋
宮本剛宏氏著・プレジデント社・2017/6/19刊)。
◆ 『介護危機』(宮本剛宏氏著)から、これからの介護社会を考える

その第1章の最後のテーマ
「3.介護で働く人の質的問題」
の内容を少し紹介して考えてみたいと思います。

前回は、
<まさかヘルパーが! 犯罪者となる介護職>
と題した項目から
介護事業者が考えるべき、介護人材資質と採用基準:介護事業経営を考える(1)
を投稿しました。

今回は、
<介護職の転職回数が多い理由>というテーマの内容を一簡略化して紹介し、
考えてみます。

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介護職は離職率が高く、転職回数が多いと言われている。

その理由としては、
1)介護業界内であれば組織が変わっても仕事
内容が同じであるため、転職しや
すく、
人手不足が常態化しており、転職回数の多さが問題になることはない。

2)長期的なキャリアパスと教育制度を整備している組織が少なく、長期間働く
人は少なくなる。

また、特に管理職志望でない介護職は、現場で同じ業務を長年継続し、部署移動
もなく、介護業務に飽き
てしまう。

3)安定した収入が得られない組織が多く、介護職給与が上がらず、また下げら
れたり、経営が行き詰まり職を失うことさえある。

このような状況から、それぞれの介護事業所が人材投資できる経営努力をして、
長期における戦略的
な人材育成をしていかなければ、介護業界の人材不足は根本
的に解消されない。

詳しくは、同書の64~66ページをお読み頂ければと思います。

 

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まあ一応体系立てて、転職の多さ=離職の多さの理由を提示しています。
そこに、前回のテーマであった、介護業界に入ってくる人たち自身の資質自体
に問題があることが多い。

資質には、適性と能力と、それに最も基本的な要素である動機と仕事に対する
姿勢などを含みます。
介護という、ほとんどが自立的な生活が困難な高齢弱者や、認知症などで自己
認識によるコントロールがができない高齢者をケアする仕事には、相当の忍耐力
と優しさが必須です。
決してだれでもできる仕事ではない・・・。
そうした仕事が毎日繰り返されるのです。

そこに、夜勤や交替勤務、低賃金、人手不足による負荷、人間関係・・・。

想像以上に厳しく、我慢できない仕事、職場・・・。
あるいは、自分にはできない、向かない仕事・・・。

辞めて当然の理由・条件がゴロゴロしており、複合的な要因となっている。
給料が上がらない、先が見えない、将来に希望が持てない、結婚できない、生
活していけない・・・。

中小零細事業所には、キャリアパスなどという考え方・概念を持たない、知ら
ない管理者・経営者もいるでしょう・・・。

しかし、こうした状況は、何度もこれまでも述べてきていますが、介護業界だ
けに特有のコト、モノではありません。

 

例えば、小売業や外食業もかつてはそうでした。
みなかつては、零細・中小企業だった・・・。
新卒採用者の何割も、3ヵ月、1年以内に退職していった・・・。
大手チェーンストア企業が成長する段階で、そうした課題は、業界と個々の企
業の努力で少しずつ解消され、社会になくてはならない存在になっています。
(もちろん、中には、グレーやブラックの土壌を持ったままの企業もありますが)。

介護業界も、大手他業種からの参入や、大手事業者の成長に伴い、そうした問
題は少しずつ改善・解消されていくでしょう。
本書の著者が経営する企業がそうであるように。

介護現場のスタッフの質・資質を高めうるかどうかは、経営者の質・資質のレ
ベルが決めます。
確かに介護保険制度の厳しい制約はありますが、それはすべての介護事業所に
共通のこと。厳しい見識・認識をもつ経営者ならば、制度改定の方向性の予想も
ある程度可能なはずです。

介護事業経営者が、日々介護スタッフと、人が足りないと仕事に追われていた
り、人材が足りない、人材がいないとこぼしてばかりでは、その事業所の仕事・
サービスの質も、頑張ってくれているスタッフの質も、決して高くなっていくこ
とはないでしょう・・・。

一緒に汗水流すことは大切なことですが、その状況を変えることこそが管理者・
経営者の仕事。
そのために何を、どういう順に行っていくべきか・・・。
そのほとんどは、一日で実現できるものではなく、ある程度の時間、期間をか
ける必要があることばかりです。

一定基準以下の人は採用しない。
採用した人の受け入れが円滑にいくように、組織全員でサポートする。
日々の仕事上の問題や課題を、全員でその改善・解決に取り組みことができる
よう、コミュニケーションの機会・場・方法を考え、実践する。
その成果を喜び合い、共有し、成功体験を増やしていく。
その結果生まれる余裕や利益などを、シェアできるようにしていく・・・。

中小・零細といえども、やれること、やるべきことは多いのです。
管理者や経営者に、その志と使命感・責任感があれば・・・。

他の業種の経営者もみなそうでした。
その中で当然、企業・組織の優勝劣敗があり、生き残り、成長する企業があれ
ば、消え去っていく企業もありました。

介護業界は特殊だから・・・。
どの業種も、昔は、みなそんなことを言っていたのです。

あなたの事業所を変革するのは、管理者・経営者であるあなた次第です。

そう考えると、今介護の現場で、その組織の一員として頑張っているあなた
にも、これから十分なチャンスがあると考えて頂きたいですね。

 

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【参考ブログ】:介護職員の資質について
介護人材不足原因としての介護職員のパーソナリティ(1) (2017/7/25)
介護人材不足原因としての介護職員のパーソナリティ(2) (2017/7/26)
介護崩壊の意味するモノ:介護関連図書から、崩壊の現実を整理する (2017/7/10)

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【参考関連ブログ】:介護職員のやりがいを考える
◆第1回:介護職員のやりがいを考える(1):介護の仕事と改善について
◆第2回:介護職員のやりがいを考える(2):介護という仕事と適性について
◆第3回:介護職員のやりがいを考える(3):介護事業者をめざす道
◆第4回:介護職員のやりがいを考える(4):人間力、コミュ力を磨き、自分を高める

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【『介護危機 ―「数字」と「現場」の処方箋』構成】

第1章 介護の現場で起きていること -介護職の声と顧客データから何がわかるか-
◆第1節 変わる介護のかたち
1.「介護保険制度」とは何か
2.介護保険制度のしくみ
3.成長する介護市場の今
◆第2節 老人ホームと在宅介護
1.施設サービス
2.居宅サービス
3.地域密着型サービス
◆第3節 トラブル続発 - 介護の大問題
1.介護ビジネスの問題点
2.突然始まる介護の衝撃
3.介護で働く人の資的問題

第2章 なぜ、介護職12万人、財源1.5兆円が不足するのか
◆第1節 人材不足 -誰が足りないのか
1.介護人材不足の構造
2.「現場の担い手」の不足
3.管理者クラスの不足
4.経営者の不足
5.介護人材獲得における誤解
◆第2節 財源不足 -どうなる介護保険財政
1.介護保険の歳入
2.介護保険の歳出
3.介護保険財政は維持できるのか

第3章 毎年5割成長する介護企業の秘密
◆第1節 人材の秘密
1.介護事業の人材戦略
2.人材の獲得
3.人材を育成する
◆第2節 経営の秘密
1.介護事業の経営戦略
2.組織運営
3.ITシステム

第4章 こうすれば介護の人材・財政不足を解消できる
◆第1節 人材不足への処方箋
1.国の人材獲得政策を検証する
2.行政が本当に取り組むべきことは何か
◆第2節 財政不足を解消する戦略
1.国の財政政策を検証する
2.民間が取り組むべきこと
3.行政が取り組むべきこと

第5章 それぞれの「希望」をかなえるビジネスモデル
◆第1節 介護問題を解決する新規ビジネス
1.高齢者向け引っ越しサービス
2.介護職離職防止支援サービス
3.介護事業の経営研究

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【宮本剛宏氏プロフィール】
1979年生。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、大手企業、ITコンサルティング会社
を経て、2008年に、介護事業企業、(株)ケアリッツ・アンド・パートナーズを設立。

現在、正社員数が約1000人、50事業所超の訪問介護事業、デイサービス事業、
ほぼ10カ所の居宅支援事業に、若干のサービス付き高齢者向け住宅などを経営。

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この夏、週刊ダイヤモンドの8月12日19日合併号に
「制度改悪に備える 家族の介護」と題した特集が組まれました。
保存版としてお薦めします。

週刊ダイヤモンド 2017年8/12・8/19合併号 』

 


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