
認知症事故賠償責任、大和市が保険料公費支出で賠償肩代わりへ。全国初
もうずいぶん以前の問題となってしまった感がある、認知症高齢者のJR東海踏切
事故を巡る損害賠償訴訟を発端とした、認知症者とその家族のリスク問題。
◆今一度、認知症徘徊事故訴訟 最高裁判決から考える:『もう親を捨てるしかない』から(12) (2016/8/5)
公的な補償制度の必要性も議論にのぼりはしましたが、明確な解決策・方策は示
されないまま、という感じです。
その事情などは、昨年12月のブログで、以下投稿しました。
◆認知症での事故の賠償責任公的救済制度、創設見送り:増える高齢者運転事故。認知症高齢者社会にどう備えるか (2016/12/15)
◆見通せない、認知症高齢者徘徊事故発生と賠償責任リスク:『在宅介護』<認知症高齢者の急増>から(2) (2016/12/21)
むしろ民間の認知症保険で一部でもカバーしようという方向が強まっていること
は、上記のブログでも紹介しています。
◆あいおいニッセイが社会福祉法人の役員賠償責任保険発売と介護保険・社会福祉事業者総合保険改定
そうした膠着状態の中、2017/8/25付中日新聞で
「認知症の事故 公費で賠償へ:大和市、保険で肩代わり」
と題した記事を見ました。
以下、要約を紹介します。
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認知症高齢者が徘徊中に踏切事故に遭うなど、不測の事態で家族が高額の損害
賠償を求められるケースに対応しようと、神奈川県大和市は8月24日、賠償金
として最大3億円が支払われる保険に加入すると発表。
同市によると、公費によるこうした取り組みは全国で初めて。
大和市には小田急線や相鉄線などの8つの駅と32の踏切がある。
対象は、徘徊の危険性が髙いとして、発見や保護を目的に市と関係団体がつく
る「はいかい高齢者等SOSネットワーク」に登録している人。
7月時点で237人おり、市は323万円を補正予算に組み込み、今日30日開会の市
議会に提案する。
保険金は、鉄道会社などへの個人賠償責任が認められた場合、最大3億円の範
囲内で肩代わりする。
対象者が事故で亡くなった場合は遺族に最大300万円、入院や通院した場合に
も1日1200~1800円が支払われる契約になる見通し。
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この記事には、先述したブログで取り上げている、良書『在宅介護』の著者で
ある、結城康博・淑徳大学教授の以下の談話も掲載しています。
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認知症の高齢者を抱える家族や、本人にとっても住みやすい街づくりへの一歩
になり」、評価できる取り組みだ。
全国的に広げるには、民間保険を活用するのではなく公的制度としてこのサー
ビスを構築することが求められる。
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大和市の取り組みは、前例がないなか、素晴らしい決断と思います。
他の自治体もこれに倣う事例が、今後増えるのではないでしょうか。
ネットで知ったのですが、この「はいかい高齢者等SOSネットワーク」は、
多くの自治体がそれぞれ設置しているんですね。
それもあって、追随する自治体が出てくるのではないでしょうか。
結城教授は、この制度が、自治体が民間の保険会社と保険契約を結ぶのではなく、
自治体自体が公費を賠償金として支出すべきとしています。
確かにそれは理想ですが、住民感情として、公費から個人が負うべき賠償責任の
全額負担するとなると、果たしてどうでしょうか。
保険料として計上された方が、関係のない住民にも理解を得やすいのでは、と感
じます。
もちろん、今回のケースでは、特定の団体に登録している高齢者とその家族だけ
とい条件があり、すべての認知症高齢者ではないという課題が残ります。
しかし、これは、登録制度を拡充整備すれば対応可能。
保険料は当然増えますが・・・。
それよりも、大和市だけの加入では、保険会社も収益がでるかどうかのリスクが
大きい・・・。
こうした先行事例を作ることで、他の自治体が契約し、加入者が増えることを期
待し、見越してのことではないかと、営業面からは考えます。
認知症高齢者を預かる介護施設としても、こうした徘徊などによる事故賠償責任
問題は頭の痛い問題。
事業者は事業者として保険契約すべきなのかどうか・・・。
在宅介護徘徊高齢者(若年認知症者を含む)は自治体が保険を掛け、介護事業所
は独自に・・・。
それでよいのかという課題も残ります。
在宅介護を基本方針とする介護制度においては、国や自治体がその賠償責任を肩
代わりすべき、というのは自然なことと思います。
かといって、介護事業者は、介護という仕事の範囲での事故賠償責任を、介護賠
償責任として負うべきか・・・。
それも、見方によっては、事業者が、自治体になり代わって、介護社会福祉事業
を担っているとみれば、自治体が、本来負担すべき。
そう言えるわけです。
いずれにしても、今回の大和市の制度化で、停滞していた認知症事故賠償責任問
題の改善・解決策が、全国レベルで前進することを期待したいと思います。
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