「看取り」でなく「あやめる」情動へ。在宅介護がもたらす社会病理?:『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』から(1)

昨年2016年9月に発刊された『長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実
山岡淳一郎氏著)。
2017年年明けから、本書を参考に介護問題を考えていくことにします。

本書タイトルには「在宅介護」という用語が用いられています。

政府・厚労省の介護政策において置く<在宅介護主義>。
これに非常に疑問を持つ私です。

今回の書では、在宅医療も在宅介護と一体のものとして考えることを基本としており、
それは当然のこと。
とすると、一層在宅での老後生活と看取りについての困難さが浮き彫りにされます。
そのためということでしょうか。
長生きしても報われない」という悲観的なタイトルとなった本書。

が、
「長生きすればみな報われるべきなのか?」
「報われるとはどういうことなのか?」。
このタイトルを目にしたとき、率直に第一に抱いたのが、この疑問でした。

お叱りを承知で、根源的なこの疑問を抱きつつ、加えて、先に述べた、在宅介護・医
療の限界とその政策への疑問をベースに、今年も考えていきたいと思います。

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長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実
「第1章 在宅医療の光と影」

その第1回です。

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 「看取る」から「あやめる」の悲劇
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 親族による「介護殺人」が後を絶たない。
病気の家族を何年も献身的に世話をした挙句、精
根つき果て、「生きていても
仕方ない」「不憫だ、早く楽にしてあげたい」「この地獄から解
放されたい」と
手をかける。
多くの場合、心中を試みるが、死にきれなかった介護者は殺人罪
に問われる。

 「看取る」から「あやめる」への悲劇の跳躍に背景には何が横たわっているの
だろう。
なぜ、
一線を越え、そこまで追いつめられてしまうのか。
 どのケースも「特殊な例」では済まされない共通の切迫感と社会病理を抱えて
いる

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こういう書き出しで始まった第一章「在宅医療の光と影」第一項の
<「看取る」から「あやめる」の悲劇>。

最近起きた事件として、2015年の野田市での老老介護の悲劇。
枚方市での同年の認知症の母親殺傷事件。
同年の利根川での娘による老齢両親自殺幇助と殺人事件。

この3例を示して、最近の介護をめぐる問題提起をしています。

同書16,17ページを参考にして、以下メモしました。

 

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新年早々、暗い話から始まりました。
この事例のような光景・事件は、今年も多々、見聞きすることになるのでは、
と思います。

人が人をあやめる、殺す。
過失ではなく、意志として、瞬間ではあっても、殺意を抱いて、あるいは、
殺意が次第にふくらんで・・・。
人間の精神構造に、だれもが持つ、人を殺める心情、感情・・・。
その精神構造を生涯持つことがなく、ある意味幸せな人生をまっとうできる
人。
その情緒が、日常化し、他への情動となって、人を攻め、あやめ、死に至ら
しめることが、性格化した人。
普段は、人生において、そうした情動を理性でコントロールしてきた人、あ
るいは、心根の優しさで無縁であり得た人・・・。

たとえ親であっても、ついには、潜在的な精神構造の負の情動を呼び起こさ
せてしまう、高齢者介護の生活の苦難。
それは、果たして社会病理と表現するに適したことか・・・。

在宅介護が続くとき、そして、そこにおいて、経済的な不安が覆いかぶさっ
てきたとき、人はどこまで、いつまで、その陰の潜在的情動を抑制し続ける
ことができるか・・・。

嵩じて、殺人や自殺幇助や未遂事件に至ったときに、検察や司法が加害者の
犯罪を弾じることが果たしてできるのか・・・。

事例紹介から始まった第1章。
次回、<なぜ一線を越えてしまうのか> に続きます。

 

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長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実』構成
はじめに
第1章 在宅医療の光と影
第2章 亡くなる場所が選べない
第3章 認知症と共に生きる
第4章 誰のための地域包括ケアなのか
第5章 資本に食われる医療
おわりに

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【山岡淳一郎氏・プロフィール】
◆1959年愛媛県生まれ、ノンフィクション作家、東京富士大学客員教授
◆「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマに近現代史、政治、医療、
建築など分野を越えて旺盛に執筆。時事番組の司会も務める。
◆著書:『原発と権力: 戦後から辿る支配者の系譜
インフラの呪縛: 公共事業はなぜ迷走するのか』『気骨: 経営者 土光敏夫の闘い

国民皆保険が危ない』『後藤新平 日本の羅針盤となった男
田中角栄の資源戦争』『医療のこと、もっと知ってほしい』他多数。


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