介護保険法改正、介護報酬改定で起きる介護事業者間競争と淘汰

前回、今年2015年4月の介護保険法の改正で
要支援1~2の軽度の介護サービスの一部が、介護予防給付から
市町村事業に移行すること
それを契機に、異業種がこれらの軽度の介護利用者向けのサービス事業に
参入する可能性が高いことを紹介しました。

介護保険法改正で、要支援向け通所型・訪問型サービスに異業種参入

 

介護事業者とローソンが「介護ローソン」の展開へ

前回取り上げた異業種による介護事業の別事例を紹介します。

埼玉県内で243ヶ所の介護事業所を展開するウィズネットが
コンビニチェーンのローソンのFC店として4月に
「介護(ケア)ローソン」を開店。
ローソンに併設して、介護相談用窓口や高齢者者向け交流スペースを設置。
自社のデイサービスや有料老人ホームの紹介と顧客獲得を狙います。

これを元に、ローソンは他の地域で同様の事業者と組み
介護ローソンを3年で30店舗増やす構想。

まさにコンビニの存在意義を示す好例(こうれい?)と言えるかもしれません。

この例は
厚労省が医療・介護を一体化してめざす
高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らし続けることができる支援システム
=「地域包括ケア」
の実現にもつながる取り組みの一端とも言えます。

 

介護事業者間の競争・淘汰が不可避の段階に

今回の介護保険法と介護報酬改定が、
従来の介護事業者は、介護の必要度が高い重度の利用者向けの
サービスをより強化し、差別化していくべきこともお伝えしました。

その理由・背景として
今回の改正で同時に行われた事業者の収益に当たる介護報酬も改定されており
◆離職率が高く、かつ人材不足が問題の介護職員の給与の月平均1万2000円引き上げ
→ その額、千数百億円で介護報酬全体の1.65%
◆認知症など重度の介護を必要とするサービスの料金の0.56%引き上げ
◆その他のサービス料金の平均4.48%の減少
などがあります。

◆一見、介護職員の給料を上げることができ、プラスに見えますが
大規模事業者は、積極的に給料の引き上げを進めており
小規模事業者の人材確保は一層苦戦を強いられます。

そして
◆基本料金が平均1割減り、特に介護の必要性が低いサービスの料金が
2割減ることからの報酬額の抑制=事業者収入の減少

加えて
◆この所、比較的参入しやすかったデイサービスに参入する小規模施設が急増し
2006年の7075ヶ所から2012年には1万5413ヶ所に。
そしてこれらの軽度介護サービスへの異業種の参入という現実。

ダメを押すように
◆2016年4月以降は、定員18人未満の施設を市町村が指定監督する
施設増加抑制政策といえる<総量規制>を導入

すでに売りに出る小規模デイサービスも増えてきており
買い手も見つかりにくい状態になってきていると言われています。

小規模事業者の弱みは
少数で構成している介護スタッフに健康上の問題や欠員が起きた時に
利用者に安定的なサービスを提供できないこと
施設や設備への資金力が弱いことなど。

信頼という精神的なつながりも大切ですが
サービスの品質や事業の持続性がそれを上回るからです。

今後は
賃金レベルが高く、優秀な介護専門職を集まる力を持つ
病院経営医療法人による医療介護一貫事業者や
M&Aを活用して拡大する介護チェーン事業者などのシェアが高まっていく・・・。

その一方
引き受け手がいない、身寄りのない高齢者を集め、
その人たちの年金の管理をセットにして
民間住宅などを無認可介護施設化して提供する
違法に近い事業者が増えるリスクもあります。
(現実に存在し、事故やトラブルを起こしている報道がありますね。)

 

今回の改正から3年後
2018年には、3年毎に行われる介護保険法と介護報酬の改定が
診療報酬改定の時期と同時に行われます。

そこで
医療と介護の在り方が見直され
関連・連携しての改正・改定が行われると予想されます。
先程述べた、地域包括ケアの方向性が強く打ち出されることになります。

当然、増大する一方の医療費・介護費などの社会保障費の抑制政策も
組入れられます。

医療・介護サービスを受けるこれからの高齢者の責任

私の個人的な考えとしては

軽度の要支援者に対する介護サービスは、
予防効果を期待して、事業者報酬を上げるのではなく、
またあるいは自治体がそのための支出を増やすのではなく、
より受益者負担度を高め、介護保険の適用範囲から極力排除していく
方向になるのではと考えます。

というよりも
高齢者自身が、極力自立して生活し、社会保障費の削減に協力する姿勢を
今後強くしていくべきと考えるのです。

そのため
ボランティアやNPOによる支援活動への依存度はより高まる、
地域社会と地域住民が高めていく必要性が高まる
ことは言うまでもないと思います。

 

特に年金受給等のメリット享受から「逃げ切り世代」と言われている
団塊の世代とそれ以前の世代には
せいぜい、医療や介護で受けるメリット、
即ち、国・自治体、すなわち、それよりも若い世代が負担する社会保険料の
先行享受利得を、極力少なくする責任があると考えるからです。

もちろん
できるだけ長く働く現役生活を続け
社会保険料を納め、健康を保つことが、大きな貢献になることは
言うまでもありません。
心したいものです。




------------------------------------


------------------------------------

結城康博氏著

☆☆☆『介護 現場からの検証』(2008年5月20日・岩波新書)

カスタマーレビューページ

☆☆☆☆『在宅介護 「自分で選ぶ」視点から』(2015年8月20日・岩波新書)

カスタマーレビューページ

☆☆☆☆『介護破産 働きながら介護を続ける方法』(2017年4月14日・KADOKAWA)

カスタマーレビューページ

河内孝氏著

☆☆☆☆『自衛する老後 介護崩壊を防げるか』(2012年5月20日刊・新潮新書)

カスタマーレビューページ

樋口恵子氏著

☆☆☆☆その介護離職、おまちなさい』(2017年10月20日刊・潮新書)

長岡美代氏著

☆☆☆介護ビジネスの罠』(2015年9月20日刊・講談社現代新書)

カスタマーレビューページ

和氣美枝氏著

☆☆☆『介護離職 しない、させない』(2016年5月15日刊・毎日新聞出版)

カスタマーレビューページ

宮本剛宏氏著

☆☆☆☆『介護危機 「数字」と「現場」の処方箋』(2017年6月19日刊・プレジデント社)

カスタマーレビューページ

杢野暉尚氏

☆☆☆『人生を破滅に導く「介護破産」』(2017年6月23日・幻冬舎)

カスタマーレビューページ

太田差惠子氏著

☆☆☆『親の介護で自滅しない選択』(2017年2月15日刊・日本経済新聞出版社)

カスタマーレビューページ

横井金夫氏著・山田茂生氏氏監修

☆☆☆『失敗しない介護施設選び』(2015年8月25日刊・幻冬舎・¥1,404)

カスタマーレビューページ

関連記事一覧