家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に:『在宅介護』より(2)

介護業界の方々と、介護者・要介護者、これからそれらに関わるすべての
方々に是非ともお読み頂きたい書が出版されました。
結城康博淑徳大教授による
在宅介護――「自分で選ぶ」視点から (岩波新書)』です。

このブログでは、本書を参考にさせて頂き、私の狭く、少ない経験から
意見・感想を添えて、これからの介護を考えていきたいと思います。
まず初めに、<序章>の一部の紹介から始め、次に<最終章>の提言を
紹介。

その提言を前提にしながら、<第1章>に戻り、適宜、順に進めていく
予定
です。
かなり、長いシリーズになりますが、間に、時々のトピックスを挟んで
まい
ります。
【序章】の初めは、<1.姑の介護のために離職した嫁>を省略し、
序文を紹介しました。

第1回:『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書

今回は第2回 です。

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序章 2.在宅介護は拡がるのか?
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<在宅介護サービス>
 昨今、国は「地域包括ケアシステム」というネーミングで、在宅医療
と在宅介護を基軸とした、医療・介護施策を推し進めている。

 簡単に言えば、高齢者に何らかの医療や介護サービスの必要が生じて
も、病院や施設でケアされるのではなく、できるだけ住み慣れた自宅で
最期まで暮らしていけるシステムを構築することである。
 いわば介護と看取りの中心を、「病院や施設」から「在宅」に移行し
いくという意味である。
 たしかに、住み慣れた自宅で誰もが要介護状態となっても、最期まで
らしていけることは理想であろう。
 ただし、筆者は「在宅介護」は、そう理想に満ちた側面ばかりではな
と考える。
 身体機能が低下した重度の要介護者における家族介護の負担は、相当
重い。
 日々、排泄介助、食事介助、入浴介助と先が見えない介護生活が徐々
家族の心労を疲労させる。

 もっとも、現在では2000年に介護保険制度が創設されたことで、在宅
護サービスや医療サービスもかなり使いやすくなり、20年前の在宅介
護に
縛られた家族の様相とは少し異なっている。
 地域によっては、上手に社会資源を利用しながら、それほど家族の負
なく看取りまで行くケースも少ないながらも見受けられる。
 在宅介護が可能かどうかは、地域の社会資源がせいびされているか否
といった、一種の「運」によるかもしれない。

<家族構成の変容>
 けれども、20年前と比べて社会資源は整ってきたものの、家族構成の
変容は著しい。
 全世帯に占める独居高齢者、老夫婦世帯の占める割合が増大し、家族
の介護力に頼ることが難しくなっている。

 しかし、娘や息子といった介護者がいたとしても、介護者は一人のみ
で、かつてのように兄弟や姉妹数人で親を看るという形態は少なくなっ
ている。
 従来、長男夫婦が親と同居して看ていても、順番で次男や長女の家族
が交代で介護を請け負う光景がよく見られた。
 それによって、主たる家族介護者は、一時的にでも介護から解放され、
休息できる機会も多々あった。
 もっとも、昨今、子が一人しかおらず、かつその子が独身で親と二人
暮らしといった、いわゆる「シングル介護」のケースも珍しくなくなっ
た。

 介護サービスといった社会資源は、いくらかは整ってきてはいるもの
の、
逆に家族の介護力は大きく減退しているといえる。
 このような家族環境の下、これから超高齢社会に突入していく日本で
充分な社会資源を整える必要がある。

 それに対し、よくマスコミ報道を通して、「伸び続ける社会保障費を
抑制するしかない」「医療や介護サービスの財源が足りない」「高齢者
負担を増やすべき」といった論調を耳にすることが多い。

 このような社会情勢において、現行よりも介護サービスが「充実」す
可能性は低いといえるかもしれない。
 むしろ、保険料の上昇といった負担増やサービス抑制といった、厳し
介護施策の方が現実味を帯びてきている。

※次回は、序章3の<目まぐるしく変わる制度>です。


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上記の中では触れられていませんが、家族構成の変容は、夫婦がそれ
ぞれの両親合わせて4人を介護しなければならなくなる可能性も招い
ているのです。
夫婦の財布が、それぞれの両親の分、4つも余分にあると思われてい
たのが、反対に、4人の介護を負担する立場になってしまうのです。

施設から在宅へ、という政策を一義的に進めることに、私は反対です。
「在宅介護は拡がるか?」
というタイトルは、筆者も、それが絶対的に正しいこと、あるべき姿、
と断定できない気持ち、悩みを抱いていることを表わしている・・・。
そう私は感じていますし、私自身、「在宅から施設へ」という真逆の
方針が基本的には望ましいと思う立場です。

コスト抑制を目的にした場合、在宅介護では、見えない、計算できな
い、家族の負担や介護サービスに従事する人々の負担が大きいのです。
施設建設の物理的・物質的なコストの大きさが、在宅介護を進める最
大の要素としていることには、矛盾・無理がある・・・。

こうした間接的な要素も、この書を読み解いていくうえで、理解し、
念頭に置いておくべきことを、確認しておきたいと思います。

 

 

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なお「男性介護」問題について、
男性漂流 男たちは何におびえているか』(奥田祥子さん著)の
<第3章 介護がこわい>を用いて当ブログでシリーズ化し、
終了しています。

同書共々、ご覧いただければと思います。

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