変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識:『在宅介護』より(3)

介護業界の方々と、介護者・要介護者、これからそれらに関わるすべての
方々に是非ともお読み頂きたい書が出ました。
結城康博淑徳大教授による
在宅介護――「自分で選ぶ」視点から (岩波新書)』です。

このブログでは、本書を参考にさせて頂き、私の狭く、少ない経験から
意見・感想を添えて、これからの介護を考えていきたいと思います。
まず初めに、<序章>の一部の紹介から始め、次に<最終章>の提言を
紹介。

その提言を前提にしながら、<第1章>に戻り、適宜、順に進めていく
予定
です。
かなり、長いシリーズになりますが、間に、時々のトピックスを挟んで
まい
ります。

第1回(序章):『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に

今回は第3回 です。

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序章 3.目まぐるしく変わる制度
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<複雑化する制度>
 基本的に日本の介護システム介護保険制度(以下、制度と呼びます
が基軸になっており、その法改正もしくは介護報酬介護サービスの値段)
が三年おきに改正されるため、その度に高麗者や家族は専門職である介護
従事者から、制度の変更点の説明を受ける。

もっとも細かい制度改正の内容を聞いても、70歳代、80歳代の高齢者は
「何が変わったのか?前よりも利用しやすくなったのか?サービスが使い
づらくなったのか?」といったような理解に苦しむことが多い。
 目まぐるしく変わる制度が複雑すぎて、もはや介護従事者ですら理解す
るのに時間がかかる。

 かといって制度は介護サービスの根幹をなしているため、その動向を利
用者ともども理解しなければならない。

 今となっては、2000年に制度が創設された際に言われた「利用者が自ら
選択できる介護サービス」というコンセプトは、幻想だったのか
と筆者に
は思えてならない。

 しかも、介護サービスの担い手が、民間介護事業者に部分的に移行した
ことで、採算性の側面から、逆に利用者(高齢者)が選別されてしまう事
態も少なくない。
 現在でも制度が創設されたとはいえ、サービス量と利用者のアンバラン
ス傾向には歯止めがかからず、結果的に充分なサービスを享受できな
い高
齢者やその家族は、「介護難民」となって苦労している。

 最悪の場合には、「介護殺人」「高齢者虐待」といった痛ましい事件に
まで発展するような例が後を絶たない。

<根強い施設志向>
 日本の介護システムが措置制度(旧制度)から新制度に大きく移行した際、
施設介護」から「在宅介護」へ、「住み慣れた地域で暮らすための新シス
テム」「利用者による自己選択」「行政主導から利用者本位へ」といった
スローガンが叫ばれ、誰もが安心した老後を迎えられる介護システムが構築
されると期待した。
 日本の社会保障制度史上、制度の創設は大きな出来事であり、超高齢社会
に突入するにあたって大きな切り札として導入された。

 けれども、未だに「介護」といえば「施設」がイメージされやすく、「在
宅介護」といった意識は芽生えてはいるものの、最期は「施設」で、と割り
切る高齢者が多い。
 むしろ、制度の創設によって、保険料を納めているから施設に入れるだろ
うといった意識が強くなり、「施設志向」が高まっている傾向は否めない。
「在宅介護は理想だが、十分な住宅サービスが享受できない以上、家族に迷
惑をかけてしまうので、寝たきりになったら施設に入りたい」という人も
多い。

 また、利用者側である高齢者自らの自己選択能力が低下していることも忘
れてはならない。
 具体的には、年々、認知症高齢者が増加し、全世帯の中で高齢単身者
しくは老夫婦世帯の割合が大きくなるに従い、サービスを自己選択できない
高齢者が増えている。
 このような背景もあって、「施設」に入所してしまえば安心という家族の
心情が根強く存在し、在宅介護が完全に普及しない理由ともなっている。

<根強い施設志向>
 現在、有効求人倍率が改善され、雇用情勢はやや良い方向に進んでいる。
その中で、介護分野のそれは2.0台を超え、深刻な人材不足に陥って
いる。
ただし、大不況下においても介護人材の倍率は1.0を超え、慢性的な
人材不足である。一時、日本経済が回復基調となっても、介護人材不足は
さらに深刻化し「人手が確保できないため、サービスが供給できない」と
いった介護事業者の困窮ぶりが窺える。

雇用主である介護事業者は質の高いマンパワーを採用できず、結果とし
て利用者は良質な介護サービスを享受しづらくなる。
特に、施設よりも在宅部門でのマンパワー不足は深刻で、国が目指す
「在宅介護」重視の方向は、在宅部門のマンパワー不足のために実現でき
ないかもしれない。

しかも、慢性的な人材不足は、介護施設で介護士による要介護者への
虐待事件の発生を加速させてしまう。
 人材不足であるから、質を問わずに誰でも雇用する傾向が介護現場で
あるため、介護に対する意識が低い人材が現場で働くこととなり、結果
的に虐待といった事態を招いてしまうのである。
 介護人材不足が深刻化することは、直に、要介護高齢者の安全・安心
といった介護生活を脅かすことにつながる。

※次回は、序章の最後の<4.本書の構成と狙い>です。


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「「介護」と言えば「施設」とイメージされやすい、」としていますが、
待機待ち特養の状態や、老健の位置づけも認識されつつある現状では、
施設の一種であるデイサービスをイメージする人が増えているのでは、
と思います。

在宅部門の介護サービス人材の不足は、今後も継続すると考えます。
それだけ、大変な仕事なのです。
移動時間も必要であり、夜の勤務を強いられることも・・・。

労働市場の需給バランスを考えれば、本来、不足する職種の人件費が上
がるべきなのですが、介護や保育といった分野では、人に委ねる仕事で
あり、一人が担当する要介護者や児童に限界があります。

そのためそのサービスから得られる収益を考えると、賃金が大幅に上が
ることは考えられない。

とすると、社会福祉の観点から、公的支出で賃金を引き上げる、補填す
る政策をとるしかなくなる。
言うならば、そうした社会福祉的な仕事に従事する人は、準公務員的な
雇用形態をとることに・・・。

これは、考慮・検討すべき課題です。

そのあたりが、本書で、どのように提言されていくか、興味があります。

施設志向が根強いとはいえ、それは、施設入居での経済的負担がある程
度低く抑えられているという条件付きのことです。
虐待などの問題が発生する施設の多くは、無認可施設などグレーな民間
施設です。

所定の手続きを経て認可されている事業所では、人材確保のための処遇
や労働条件の改善も進められつつあります。

こうした現状の動きや問題点について、本書ではレポートと提言を織り
交ぜて展開していますので、注目していきたいと思います。

 

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なお「男性介護」問題について、先に
男性漂流 男たちは何におびえているか』(奥田祥子さん著)の
<第3章 介護がこわい>を用いて当ブログでシリーズ化し、
終了しています。

同書共々、ご覧いただければと思います。

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