結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して:『在宅介護』より(4)

介護業界の方々と、介護者・要介護者、介護に関心をお持ちの方々に
是非ともお読み頂きたい、結城康博淑徳大教授による
在宅介護――「自分で選ぶ」視点から (岩波新書)』(2015/8/20刊)。

本書を参考に、私の狭く、少ない経験からの意見を添えさせて頂き、
これからの介護を考えていくシリーズです。

<序章>の一部の紹介から始め、次に<最終章>の提言を紹介。
その提言を前提にしながら、<第1章>に戻り、順に進めていく予定
です。

第1回(序章):『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識

今回は第4回 です。

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 序章 4.本書の構成と狙い
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<介護というリスク>
 筆者(結城氏)は、2008年『介護―現場からの検証 (岩波新書)』を
公刊し、その中で介護の問題を拾い上げ、それらを踏まえた介護シス
テムの道筋を描いた。

本書は、その続編と言う意味合いが少なからずある。
今回も同じように、介護現場の声を拾いながら、とりわけ「在宅介護」
分野を中心にその問題点を整理した。
そして、どのような条件が整えば「在宅介護」が普及し、何とか施設
に頼らずに在宅で暮らしていけるかを探求している。
本書に掲載されている先輩介護者及び要介護者の体験談、介護に関す
る制度及びシステム解説を目にすることで、「介護」というリスクに備
える一定の基礎的な知識が身につくであろう。
そして、親の介護を不安に感じている人、近い将来、訪れるであろう
自分の介護に備えたい人にとって、有益な情報が得られることと考える。

<在宅と施設は車の両輪>
 ただし、本書では「在宅介護」というテーマを中心に論じてはいるも
のの「施設介護」にまったく触れないわけではない。
むしろ、「施設」と「在宅」といった二分法的な考え方ではなく、

「在宅介護」と「施設介護」が相互に組み合わさることで、安心した介
護システムが構築されると考える。
 その結果、「在宅介護」が普及し多くの要介護高齢者が住み慣れた地
域や自宅で最期を迎えることができるのである。

<本書の構成>

【序章】
1.姑の介護のために離職した嫁
2.在宅介護は拡がるのか?
3.目まぐるしく変わる制度
4.本書の構成と狙い

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<第1章~第3章>
介護現場の取材やインタビューを通して、利用者や家族が抱えている
問題を整理。
ルポルタージュ的な意味合いも兼ね備え、現場の実態について探求。
利用者である高齢者層を一括りでなく
全く健康な「元気高齢者」、多少心身に不安を抱える「虚弱高齢者」、
介護サービスを必要とする「要介護(支援)者」として据えている。

【第1章 在宅介護の実態】
1.在宅介護の困難さ
2.二十四時間型ヘルパーサービスの再構築
3.サービス付き高齢者住宅
4.複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)
5.厚生労働省の政策ミス
【第2章 介護業界の限界】
1.介護離職者10万人
2.パラサイトシングル介護者
3.施設は利用しづらい
4.グレーゾーンの介護サービス
5.グレービジネスの惨劇
【第3章 認知症高齢者の急増】
1.認知症高齢者の徘徊
2.急増する認知症高齢者
3.家族形態と地域組織の変容
4.オレンジプランとは

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<第4章~第6章>
介護サービスの使い方、介護施設の種類、医療と介護サービスの関連性

などについて、「How to」的な位置づけ。
介護サービスとは
①介護保険制度に基づき自己負担が軽減されるサービス
②全額自己負担によるサービス
③ボランティアなどの地域の支え合い の、大きく3つに分類できるが
1番目を中心に触れる。

【第4章 在宅介護サービスの使い方】
1.介護保険における負担
2.在宅介護サービスを受けるには
3.ケアマネジャーを決める
4.在宅サービスのあれこれ
5.利用しにくい介護保険サービス
6.質の悪いサービス対策
【第5章 施設と在宅介護】
1.地域包括ケアシステムとは
2.施設あっての在宅介護
3.他の施設系サービス
4.東日本大震災からの教訓
【第6章 医療と介護は表裏一体】
1.在宅医療の現状
2.看護と介護
3.老人保健施設とリハビリテーション
4.在宅介護と看取り
5.医療と介護の考え方

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<第7章~最終章>
主に政策論的な視点から延べ、慢性化する介護人材不足、大幅改正と
なった2015年介護保険法改正の実施概要、財政論を含めた介護政策
といった、諸々の課題を踏まえながら介護政策・施策の方向性につい
て問題提起。
(略)

【第7章 介護士不足の問題】
1.介護士不足は深刻
2.介護士という資格
3.介護士養成の難しさ
4.外国人介護士は切り札か
5.介護人材不足に秘策はあるのか?
【第8章 介護保険制度が大きく改正された】
1.二度目の大改正
2.要支援1・2の人はサービス利用が大きく変わる
3.「地域で支える」がキーワード
4.はじめての自己負担二割導入
5.保険料の仕組み変更
6.特別養護老人ホームの申込みは要介護度3から
7.介護予防が変わる
【最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか】
1.介護における格差
2.産業としての介護
3.これからの政策と財源論の方向性
4.あるべき日本の介護システム
5.介護は社会投資である

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<現場からの政策提言>
 社会保障制度の問題が議論される際に、財源論が取り上げられる。
「お金がないから、高齢者分野の社会保障は我慢するしかない」
「サービスを拡充するには、財源論を示すべきだ」といった声が高
らかに
叫ばれ、一部の有識者からは社会保障費の抑制はやむなしと
する論調があ
る。

 本書は、このような論に対して一定の答えを準備し、財源論を踏
まえな
がら、今後の介護サービス体系を提言している。
 そして、「在宅介護」再構築への方向性を導き出し、利用者のニ
ーズに
適した「介護のあり方」への道筋(政策提言)を示すことが、
本書の目指
すところである。

※というわけで、次回は、第1章~第8章を飛ばして、最終章
【これからの在宅介護はどうあるべきか】という提言の章を取り上
げていきます。

なお、序章に限って、本書の意図・目的をしっかりと理解しておく
ことの重要性から、その全文を転載させて頂きました。

次回の本章からは、対象とする項の表題とテーマのみを主に紹介し、
本文は、本書をお読み頂くことを前提に、主に私のメモで構成して
参ります。

どうぞ宜しくお願いします。

 

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筆者の前著『介護―現場からの検証 (岩波新書)』を読まずに、続編に入って
いくことに少々罪悪感を感じますが、自分の実体験、関心を持ち始めた時期
との関係で、ご容赦頂くことにして・・・。

私は、自分が介護される立場ならば、自宅ではなく施設を選ぶ方というスタ
ンスで、本書を読み、考えていこうと思っています。
また、理想はありますが、現実を注視して考えることを基本としたい・・・。

今、「崩壊」「漂流」「病」「罠」「破産」という文字が入った図書が溢れて
います。
こうした現象・現状を、政治家や行政はどう読み、どう見ているのでしょう
か?

いたずらに不安を煽る流れに乗らずに、冷静に、自分と家族と、地域や社会
を考えていくときに欠かせないコト、モノ。

視点は、引き継いでいくこれからの世代が、将来に希望を持つことが可能に
なる制度やシステムや、風土や文化を作りあげていくことにあります。


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【結城康博氏プロフィール】
1969年生。淑徳大学社会福祉学部卒
法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)
介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として
介護系の仕事に10年間従事
現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)
厚労省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を4年間務める。
社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー有資格者
<著書>
『医療の値段ー診療報酬と政治』『介護ー現場からの検証』
『国民健康保険』『孤独死のリアル』
『日本の介護システムー政策決定過程と現場ニーズの分析』他

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男性介護」問題について、先に
男性漂流 男たちは何におびえているか』(奥田祥子さん著)の
<第3章 介護がこわい>を用いて当ブログでシリーズ化済みです。

同書共々、ご覧いただければと思います。

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