
これからの混合介護のあり方を考える:『在宅介護』より(7)
介護業界の方々と、介護者・要介護者、介護に関心をお持ちの方々に
是非ともお読み頂きたい書
『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から (岩波新書)』
(結城康博著2015/8/20刊)。
本書を参考に、私の狭く、少ない経験からの意見感想を添えて、
これからの介護を考えるシリーズです。
第1回(序章):『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
第5回(最終章):多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
今回は第7回。
この節から、介護を産業の対象として捉えての記述となります。
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最終章 2.産業としての介護(1)
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<混合介護とは>
介護保険制度が、ほとんど民間の介護事業者の経営により利用され
るのは周知のところです。
そこでは、介護保険制度を利用しての介護サービスが提供され、要
介護者が利用します。
しかし、介護保険適用サービス以外の、自費による介護サービスも
事業化され、利用する人も増えます。
これを「混合介護」サービスとし、その利用の現実として格差が存
在することを指摘します。
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<家政婦サービス>
介護保険による介護サービスは、当然その種類と量に制約・制限があり
ます。
それをより如実に知ることになるのが、訪問介護による各種介助サービ
ス。
家における調理などまで保険サービスとして受けることができるわけで
はありません。
保険外の作業は、家政婦サービスなどに頼る必要があり、混合サービス
が必要となります。
しかし経済的な事情で、混合サービスを受けることができない層もある。
一層格差が広がることになります。
そんな事情を提示したのが、この項、本書231~233ページです。
ぜひご一読頂ければと思います。
※次回、2.産業としての介護(2)
<法の隙間を狙う><営利企業について>に続きます。
「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」構成
1.介護における格差
2.産業としての介護
3.これからの政策と財源論の方向性
4.あるべき日本の介護システム
5.介護は社会投資である
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介護保険制度に基づく介護サービスと介護給付だけで、介護事業と業務
活動が完結すれば、それは、強制的保険制度と税収を財源とする公共事業
といってもよいわけです。
営利目的ではないのが本来のあり方ですが、疑似公共事業組織形態であ
った社会福祉法人においては、余剰金を積み上げ、トップがその使途の裁
量権を持つことが問題とされるなど、その線引きはあいまいなままです。
加えて、一定の歯止めがないと、公費の増大に歯止めが利かなくなり、
かかるコストの低減やサービスの質の向上、業務改善、生産性の向上など
競争原理が働く民間ベースの当たり前の行動基準が採用されず、通用もし
ないのです。
市場経済の良さの一つは、製品やサービスの質を維持し高めつつ、仕事
の成果・収益を上げ、賃金や福利厚生上の処遇や制度基盤を向上させていく
こと。
介護事業において、筆者は混合サービスの必要性を一応認めつつも、種々
生じる格差を解消できない不安を隠していません。
ただ、市場経済だから起きる問題と決めつけることはできないと思います。
社会主義・共産主義国家で、全人的に平等な介護福祉を実践しているとこ
ろなどもちろん皆無であり、それらの国では、より根源的な経済的格差問題
が横たわっているはずです。
家政婦サービスだけの利用は、介護においては、本当に裕福な層だけに
限られたことと思います。
従って、極点な比較事例として見ておくレベルにとどまるものでしょう。
混合介護サービスの選択肢の一つとして引き合いに出したことには、若干
の違和感を感じました。
社会福祉事業という性質面から、社会の役に立ちたい、貢献したいという
純粋な思いからの参画・参入も多いとは思います。
しかし、介護報酬給付制度という、ある意味、売上収入の規模・額の試算
ができ、その回収が保証されているが故に、簡単に事業に参入・参画しやす
かったという側面もある、デイサービスなどの介護事業。
そこに当初から混合介護という概念やその必要性に対する認識があったか
どうか・・・。
あるいは、市場経済の性質を持つ介護の仕事と事業、という視点を持って
いたか・・・。
過去を問う必要ありませんが、法改正で給付額や基準が変わるという経験
もした中、これからの介護社会と介護事業を考えるとき、介護事業者は、今
改めて混合介護のあり方について考えるべきと思います。
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【結城康博氏プロフィール】
1969年生。淑徳大学社会福祉学部卒
法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)
介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として
介護系の仕事に10年間従事
現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)
厚労省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を4年間務める。
社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー有資格者
<著書>
『医療の値段ー診療報酬と政治』
『国民健康保険』『孤独死のリアル』
『日本の介護システムー政策決定過程と現場ニーズの分析』他
『介護―現場からの検証 (岩波新書)』を
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