
介護事業がFCビジネスに不適な理由:『在宅介護』より(9)
介護業界の方々と、介護者・要介護者、介護に関心をお持ちの方々に
是非ともお読み頂きたい書
『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から (岩波新書)』
(結城康博著2015/8/20刊)。
本書を参考に、私の狭く、少ない経験からの意見・感想を添えさせて頂き、
これからの介護を考えていくシリーズです。
第1回(序章):『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
第5回(最終章):多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
第7回:これからの混合介護のあり方を考える
第8回:介護事業の性質から考えるべきこと
今回は第9回。
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最終章 2.産業としての介護(3)
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<社会福祉法人の役割>
介護行政の初期には、大きな役割を担った社会福祉法人。
それが、現状では、批判を受けることが多い。
過去の歴史と現状の介護保険制度における問題点を論じたのが
本項です。
<コンサルタント業>
介護保険制度創設以降、民業化された介護業界において、コンサ
ルタント事業者も増加。
そこで起きてきた問題点を指摘します。
また、並行して、コンサルタント主導で進められる介護ビジネス
のフランチャイズシステム事業化。
それが介護事業になじまないという指摘にも踏み込んだのが本項
です。
本書の236~238ページでその詳細を確認頂ければと思います。
※次回、3.これからの政策と財源論の方向性(1)
<社会保険と福祉制度><増え続ける保険料>に続きます。
「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」構成
1.介護における格差
2.産業としての介護
3.これからの政策と財源論の方向性
4.あるべき日本の介護システム
5.介護は社会投資である
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私も25年以上経営コンサルタントをやってきていますが、経営コンサル
タントをどのように活用するかをコンサルティングしたいと思うほど
コンサルタントやコンサルタント会社をうまく活用できない、できてい
ない経営者・事業所が多々あります。
私も、そもそも介護事業のフランチャイズシステム化は、あるべきでは
ないと考えています。
結城氏は、「利益追求型が介護業界に馴染まない」としています。
それよりも、人間が人間に、直接、対人で介助サービスなどを行う仕事
の性質自体が、フランチャイズ・システム化できるものではない、とい
うことがその理由です。
機材を導入し、その利用方法に軸を持つ介助サービスやリハビリ、遊戯
具を用いてのサービスなど、見た目にはノウハウ化、効率化できそうな
感じはします。
しかし、そこで従事する介護スタッフの経験・意識、仕事に対する価値
観・動機そして適性等がみな違い、介護を受ける方々の事情・性格、要
介護・支援度、症状なども当然みな異なります。
その実務を、モノや機械のように見立てて、システム化、標準化できる
はずがありません。
道具の取り扱いや作業手順のマニュアルで、介護サービスが完結するこ
とは、断じてありません。
コンビニやファストサービスのフランチャイズビジネスは、店舗運営と
商品と売り場管理、メニューと調理と店舗運営・接客サービスなどのパ
ッケージシステムです。
介護現場における仕事は、人が人と直接、手や体を接し、気持ちと気持
ちを交流することで成り立つもので、間に介在する対価の交換対象であ
るモノはないのです。
FCシステム化で展開する介護事業の多くは、小規模経営が可能、比較的
小さい投資で事業化が可能、そして経験がなくても可能、とうたって加
盟を促す「デイサービス(通所介護)」型です。
そこに落とし穴があるのです。
小売業や飲食業のフランチャイズと同じ感覚で考えてしまう。
もちろん、小売・飲食フランチャイズもそんなに簡単に成功するわけで
はないのですが、介護は、もともと事業化が難しいのに、そんなに簡単
にいくわけがないじゃあないですか・・・。
コンサルタント業務には、FCビジネスとはまったく異なる、望ましい介
護事業経営や介護スタッフ育成に真摯に取り組み、業界を支援するコン
サルタントやコンサル企業が存在します。
大切なことは、介護業界が特殊だからといって、規制を掛けたりするこ
とではなく、コンサルタントを使いこなす眼、見識を持った事業者・経
営者であることと考えます。
社会福祉法人に関しては、別の機会に触れたいと思います。
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【結城康博氏プロフィール】
1969年生。淑徳大学社会福祉学部卒
法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)
介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として
介護系の仕事に10年間従事
現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)
厚労省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を4年間務める。
社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー有資格者
<著書>
『医療の値段ー診療報酬と政治』
『国民健康保険』『孤独死のリアル』
『日本の介護システムー政策決定過程と現場ニーズの分析』他
『介護―現場からの検証 (岩波新書)』を
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