在宅医療・在宅介護の一面。施設往診・施設介護の経済合理主義にどう対処すべきか:『長生きしても報われない社会』から(18)

長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実
山岡淳一郎氏著・2016/9/10刊)を用い、
在宅介護と在宅医療について考えるシリーズです。

「第1章 在宅医療の光と影」
第1回:「看取り」でなく「あやめる」情動へ。在宅介護がもたらす社会病理?

第2回:愛情の在り方がもたらす在宅介護殺人事件
第3回:在宅介護政策が孕む介護苦殺人・心中事件リスク
第4回:「認知症の人と家族の会」をご存知ですか
第5回:厳しい在宅介護で魔が差すことがないように必要な「間(ま)」を
第6回:自治体、ケアマネジャー、NPO法人等、信頼できる相談先を!
第7回:川崎幸病院と杉山孝博医師の在宅医療への取り組み紹介
第8回:在宅での自己管理治療のパイオニア、川崎幸病院・杉山康博医師の足跡
第9回:事例から在宅医療・在宅介護の大変さをイメージしておく
第10回:在宅医療・在宅介護の根本的な問題を、クロ現+からも考える
第11回:増える独居者在宅医療・介護に備える社会は・・・
第12回:次第に体力が衰える、認知症特有の病状進行を知っておく
第13回:認知症在宅介護、認知症老老介護のリスクが増える
第14回:在宅医療・在宅介護を可能にする諸条件
第15回:難病在宅医療、生の尊厳性への向かい方
第16回:医療・介護の自己負担・保険料負担、全体を知っておくべき
第17回:高齢者の5人に1人が相対的貧困状態における医療と介護

今回は、第18回、第1章の最終回です。

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 孤独と貧しさのなかで(2)
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 一方で、在宅医療は医療機関の「金のなる木」に変わってきた。その象徴が
訪問診療に関する「診療報酬」の設定の仕方だ。医療保険が適用される医療行為
は1点=10円で診療報酬という対価が決められている。
訪問診療
と聞けば、多くの人は自宅で療養する個人への往診をイメージするだ
ろう。しかし、主流はむしろ介護施設や老人ホームへの「施設往診」だ。この施
設往診がくせものなのだ。2014年の診療報酬改定まで、個人宅往診であれ、施設
往診であれ、患者一人を看れば同額の診療報酬が認められていた。

そこで、どのような現象が起きたか。
 施設往診専門のクリニックで働いた経験のある30代後半の医師は言う。
 「グループホームは、たいてい1ヵ所に高齢の利用者が18名います。車で行っ
て1時間ぐらいで18名を診てしまう。個人宅往診の何倍もの診療報酬が転がり込
み、年間に何億円と稼げました。それで儲けたクリニックは、自前の高齢者施設
をつくってそこに往診してまた稼げる。濡れ手で粟とは、あれでしょう。」

 加えて「高齢患者紹介ビジネス」が横行した。紹介業者が高齢者施設の患者を
大量に獲得し、開業医に施設往診を持ちかける。医師が応じれば診療報酬から手
数料を取る。施設往診のうまみにつけ込んだ商売だ。
 この状況に朝日新聞が一石を投じた。「『患者、金づるか』紹介ビジネス、過
剰診療・水準低下の恐れ」(2013年8月25日付)と題してスクープを放つ。
(以下、一部引用)。

 通院することが難しい患者を月2回訪問したら、医師が受け取る診療報酬は6万
円を超える。外来の15倍だ。高齢者施設の30人をまとめて訪問すれば、月180万
円が入る。業者はその2割程度を毎月、自動的に手に入れることができる。
 東京都世田谷区の診療所には、3年前に紹介業者が訪ねてきた。「患者を紹介
するので、料金を払って欲しい」。医師が医師仲間にメールで相談すると、仲間
の診療所にも同じ業者が営業に来ていた。
 厚生労働省にも複数の情報が寄せられている。愛知県では、有料老人ホームの
運営会社自体が、医師に入所者を優先的に紹介する見返りとして診療報酬の20%
の支払いを要求していたという。NPO法人高齢社会をよくする女性の会・樋口恵
子理事長は「高齢者や病人の人身売買だ。体が弱っていく時期に、営利だけを追
求する人々の利権によって食い物にされるのかと思うと許せない」と憤る。

 厚労省は、施設往診を放置できず、2014年改定でその診療報酬を引き下げた。
 一度に同じ施設の患者18名を診た場合の診療報酬は、従来の約4分の1に減らさ
れた。以前に比べれば施設往診のうまみは減った。だが、そこにも抜け道がある。
 施設往診に詳しい30代後半の医師が解説する。
 「18名の患者を、別の日に診たらいままでどおりに診療報酬はつくんです。厚
労省はそれを認めています。急に施設往診がなくなったら、施設が困りますから
ね。クリニックによっては車に医者を大勢乗せて、各施設に医者を一人ずつ送っ
て一人の患者しか診させない。一日の間に施設間をぐるぐる回って診療報酬を稼
ぐ。制度を狡猾に利用した、モラルが壊れた施設往診が行われています。

 経済格差の拡がりが医療財政を圧迫するなか、在宅医療が食いものにされている。
「そもそも施設往診は、患者ではなく、施設のスタッフの困難に対応している面
があります。スタッフは、夜間が大変です。グループホームの多くは9名の利用
者を1人の当直スタッフが担当します。利用者には寝ていてほしい、誰かが騒げ
ば次々と起きだして収拾がつかなくなる。それで、寝かせてくれ、精神的に落ち
着かせてくれ、と医者に頼む。医者は、向精神薬の類の薬をどんどん使う。利用
者は頭がふらふらして転んで骨を折る。肺炎に罹る。すると今度は転ばないよう
にしてくれ、と言いだす。そのくり返しでした」 

 と、30代後半の医師は語る。彼は施設往診のクリニックを辞め、現在は総合病
院で働いている。厚労省は診療報酬を改定する際の「サジ加減」で医療をコント
ロールしてきた。普及させたい医療行為の対価は高くし、逆に抑えたい医療行為
は低くする。訪問診療は広めたいので高額な報酬が設けられている。お金が集ま
るところに人も集まり、玉石混交のサービスが提供される。一方で医療全体に市
場化、産業化の波が及んでいる。気がつけば金の切れ目が命の切れ目という考え
方がじわじわと社会に染み込んでいる。
 在宅医療の光と影は医療費の側面からも読み解かねばならないだろう。

5

※今回で、第1章を終わります。

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在宅医療、施設往診が抱える問題は、在宅介護、居宅介護でも同様にあります。
現在サ高住で私の義母が暮らしていますが、その施設も医療法人が経営してい
ます。
施設の隣に同医師の内科病院があり、同一敷地内に調剤薬局と耳鼻咽喉科もあ
ります。歩いて1分かかりません。
24名定員の施設ですが、当然、施設内に居宅介護事業所もあり、訪問介護の形
式をとり、効率的な介護を行うことができます。

経済合理性と業務効率性を併せ持った医療・介護施設というわけです。
しかし、それは、ある意味、利用者およびその家族にとって、利便性と安心感
を与えるものです。
この施設を選んだ理由・要素のひとつでもあります。

要は、こうした合理性・効率性を目的とした施設と事業に対して、どのような
報酬体系・規定を設定し、運営を認めるかが、重要な課題となるわけです。

個人宅への訪問医療・訪問介護も、事業として営むからには、収益に結びつか
なければ結局だれもやり手、担い手がいなくなる・・・。
それは致し方ないでしょう。
もしそうなれば、国や自治体などが、税金を使って、公営化するしかないわけ
です。
24時間体制で、利用者に寄り添い、献身的に医療と介護に携わってくださる方
々がいらっしゃる・・・。
誰もができることではなく、非常にありがたいことです。
でもそれは無償の行為ではなく、やはり収益を得ることができてこその行為で
す。

いつの世にも、法の弱点・欠陥を衝いて、非人道的・非倫理的な行動を取る輩
がいる。
しかしすべてこういう人種、性悪説を前提とした制度をガチガチに作れば、恐ら
くひどい社会になってしまう。

そうしたことを想定して、国は的確に制度設計と改定と運用を行っていく責任
を持ちます。
問題が起きることを想定した制度設計。
もし問題が発見されたら、迅速にその改善・解決に取り組み、規定を変更する。
その判断力と責任感が絶対条件になります。

029

 

※次回から、「第2章 亡くなる場所が選べない」 に入ります。

 

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<杉山医師が考える在宅介護・医療家族の「七つの苦労」>
(1)介護の精神的、身体的負担

(2)知識不足からくる不安感
(3)周囲の理解不足からくる孤立感
(4)ふつうの生活が送れないストレス
(5)突然の病状変化に対して対応できるかという不安
(6)住宅の環境的な問題
(7)在宅医療、介護に伴う経済的不安

3

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長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実』構成
はじめに
第1章 在宅医療の光と影
第2章 亡くなる場所が選べない
第3章 認知症と共に生きる
第4章 誰のための地域包括ケアなのか
第5章 資本に食われる医療
おわりに

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【山岡淳一郎氏・プロフィール】
◆1959年愛媛県生まれ、ノンフィクション作家、東京富士大学客員教授
◆「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマに近現代史、政治、医療、
建築など分野を越えて旺盛に執筆。時事番組の司会も務める。
◆著書:『原発と権力: 戦後から辿る支配者の系譜
インフラの呪縛: 公共事業はなぜ迷走するのか』『気骨: 経営者 土光敏夫の闘い

国民皆保険が危ない』『後藤新平 日本の羅針盤となった男
田中角栄の資源戦争』『医療のこと、もっと知ってほしい』他多数。


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足掛け2年にわたってシリーズ化し、昨年末に紹介を終えたのが
在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』(結城康博氏著)


政府・厚労省の介護政策において置く<在宅介護主義>。
これに非常に疑問を持つ私です。

今回の書では、在宅医療も在宅介護と一体のものとして考えることを基本としており、それ
は当然のこと。
とすると、一層在宅での老後生活と看取りについての困難さが浮き彫りにされます。
そのためということでしょうか。
長生きしても報われない」という悲観的なタイトルが付いた本書。

が、「長生きすればみな報われるべきなのか?」、「報われるとはどういうことなのか?」。
このタイトルを目にしたとき、率直に第一に抱いたのが、この疑問でした。

お叱りを承知で、根源的なこの疑問を抱きつつ、加えて、先に述べた、在宅介護・医療に限
界とその政策への疑問をベースに、このシリーズを続けていきます。

「『在宅介護』から」シリーズ

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本書をシリーズ化する前に、昨年もう親を捨てるしかない 介護・葬式・遺産は、要らない
という書を紹介しつつ老後・介護・最期を考えるシリーズを投稿してきました。
その内容と、今回の『長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実』のここまでの
展開の内容とニュアンスが類似しています。
新シリーズの方は、これから実際の医療・介護事例が具体的に数多く取り上げられるので、
実際には異質な書ですが。

『もう親を捨てるしかない』シリーズも並行して、見て頂ければと思います。

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