人的介護資源の有無・状況に柔軟に対応する:『親の介護で自滅しない選択』から(3)

親の介護で自滅しない選択』(太田差惠子氏著・2017/2/15刊)を紹介しながら
介護を知り、介護の実際への備えと対応を考えるシリーズを始めました。

「第1章 「思い込み」を捨てる」
第1回:親の子どもの養育・自立責任と、子が親を看ることの違い
第2回:最悪を想定し、少しは恵まれている現状を認識し、前向きに考える

今回は、第3回です。

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 3.介護は女性の方が得意だと考える?
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◆ 自滅する人 ⇒ 女性の方が得意だと考える
〇 自分の人生を大事にできる人 ⇒ 性別は関係ないと考える

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「好きでやっている?」

ひと昔前は、親の介護と言えば「妻」「娘」「嫁」が中心に担うことが一般的でした。
 現在もどちらかといえば、女性が介護者となることが多いと言えます。女性の寿命が
男性よりも長いため、子供が介護を担う前に、母親が父親の介護(つまり、妻が夫の介
護)を担うケースが多いことが一因です。

 もちろん、親世代でも妻が先に倒れれば、父親が介護者となるケースがあります。ま
た子供も、女性のきょうだいがいなかったり、シングルだったりする男性は、自分が中
心になって動くことに。女性のきょうだいや妻がいる男性からも、年代が若くなるほど、
「妻や、姉妹にばかりお願いはできない」という発言を聴くことが増えました。

 男性が「介護は女性の得意分野だ」と言って、妻や姉妹におしつけようとすると、人
間関係が崩れ「自滅」に向かう可能性があります。実際、自分の親の介護を妻にお願い
して、妻から離婚を言い渡された男性もいました。

 一方、女性が「自分でやった方が早いから」と言うケースもあります。しかし、その
考えで継続すると、「する人」と「しない人」の関係性が顕著に。長期化すると、「ど
うして、自分ばかりが?」と心身共に苦しくなり、人間関係もギクシャクしてきます。
おまけに、「しない人」から「好きでやっているんだろう」と言われ、腹を立てるケー
スも往々にみられます。

適材適所で行う

「介護に性別は関係ない。個別に得意分野は異なる」と考える人は、適材適所で協力
体制を築こうとするので、誰かに負担が集中しにくくなります。「介護」というと、入
浴・排せつ・食事の介助を思い浮かべがちですが、実際にはサービスの情報を集めたり、
医療や介護の専門家と話したり、親の話に耳を傾けたり、行うことの領域は広いといえ
ます。だからこそ、性差ではなく、適材適所で協力した方がいいと思うのです。

 また、入浴・排せつの介助では、たとえ家族であっても同性の方がよいケースもある
でしょう。
 実際、私が代表を務めるNPOで実施している遠距離介護セミナーの参加者も、年々男
性が増えており、現在では、参加者の性別を意識することはなくなりました。

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<介護「する人」「しない人」を作らない>

✖ 介護しない人 ⇒ 介護する人 「好きでやってるんだろ?」
         👇
◎ 適材適所で役割分担(男性介護者も増加の一途)

022

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介護問題において「思い込み」による間違いや大変さを回避するために、単純に
類型化して、二者択一が可能なように論じる。
そのシンプルな考え方に、共感できる場合と、どうにも割り切れない、腑に落ち
ない場合がある。
前者が、この図書での助言方法、後者については、私の考えることろを加えてい
く。そんな展開になりそうです。

介護する上で利活用できる資源。介護資源。
介護は、その介護資源の有無・内容に大きく影響されます。

人的資源、経済的資源や住宅資源などの物的資源、そのほか情報資源・・・。
前回の一人っ子かきょうだいっ子かは、人的資源の視点。
そして今回も、性差を軸にした人的資源の問題です。

適材適所。
これは、介護を担う家族資源に、選択肢があることを前提としているわけです。
しかし、仮に選択肢があっても、その一人一人の状況によって、自由に選択でき
るかどうかは、またそれぞれの事情があります。
仕事を持っているか、近くに住んでいるのか、遠く離れて暮らしているのか。
その人々の健康状態、家族の有無や構成・年齢などを含む生活状態、などなど。
それらにも配慮・判断が必要であり、可能なこと・不可能なことがあります。

本文の「思い込み」排除アドバイスは、介護される人が、比較的身近に、例えば
同居しているとか、近所に住んでいるとかの場合に適切と言えるでしょうか。

ですから、適材適所というよりも、可能な範囲で、協力分担し合うことができれ
ば、という感覚・思いを持つべきと思うのです。

特にここ数年、介護離職問題が大きく取り上げられ、企業へは、介護休業制度で
介護離職を防止するための対策・対応を義務付けることが強まっています。
しかしそれとても、会社勤めをする人だけのものであり、そうではない人には、
介護資源の一つにはなりません。
大企業では、その制度に企業独自の制度を加える例も増えていますが、中小・零
細企業では、法律通り支援策を利用すること自体、困難かもしれません。
自営業の人には、その制度はありません。

加えて、家族介護資源が、特定の一人しかいない、自分しかいない、いても制約
がある二人だけ、などという場合も現実的には多いでしょう。
その場合の選択肢は?
外部の人的介護資源を探し、活用する。
この考え方を持ち、その資源を調べ、活用できるようにする。
たとえば、自治体=市区町村の介護福祉担当窓口、社会福祉協議会、関係NPOや
ボランティア組織、ケアマネジャーなどです。
分からないこと、知らないことを恥じることなく、どんどん相談できる相手を探
し相談する・・・。
決して独りだけの負担を過重に背負い、身動きが取れないことにならないように・・・。

先に述べたように、こうした人的介護資源に、他の物的介護資源の要素が絡むと
一層、可能な手立てに制約が生じます。選択肢も単純ではなくなります。
介護は、やはり、一人一人、事情・状況・条件が違うのです。

「好きでやってるんだろ?」的な人は、ごくごく少数になり、社会から非難の眼
差しで見られ、どこかでその責めを負わねばならぬことになる、しっぺ返しを受け
ることになる・・・。そんな社会的な状況になっていくでしょう。
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※次回は、<親を介護するためにもっとも必要なものは?> です。

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【『親の介護で自滅しない選択』構成】

はじめに
第1章 「思い込み」を捨てる 
第2章 親が元気なうちにしておきたいこととは
第3章 いざ親が倒れても、慌てない 
第4章 親の介護で仕事を辞めないために
第5章 遠距離介護で親を支える方法とは
第6章 介護に掛かるお金のトラブルを防ぐ
第7章 施設での介護もあり
あとがき 
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【太田差惠子氏・プロフィール】

◆介護・暮らしジャーナリスト。1960年京都市生まれ。
立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科前期課程修了。
「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」等の視点で執筆、講演。
一方、1996年老親と離れて暮らす子世代の情報交換の場として
離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年法人化。
現理事長。http://www.ota-saeko.com/
◆著書:『親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと
高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本
マンガで知る! 初めての介護――大切な人に必要となったとき、最初に読む本――
遠距離介護』など

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