中小企業は、労使一体となって介護・育児と仕事・経営の両立の取り組みを:東京商工リサーチ・「介護離職」に関するアンケート調査から(3)

2016年12月26日に東京商工リサーチが発表した<「介護離職」に関するアンケート調査
の概要を、先日日経が報じた記事から知り、そのアンケート結果を前回から紹介しています。

1回目は、介護離職の有無とその人数についての結果と分析で
「介護離職」発生1割。「介護離職増」予想7割 :東京商工リサーチ・「介護離職」に関するアンケート調査から(1)
2回目は、企業の取り組みなどについての集計分析で
分かりにくく面倒な「介護離職防止支援助成金」制度は利用されないことを想定?:東京商工リサーチ・「介護離職」に関するアンケート調査から(2)

今回は、第3回最終回。
唯一自由回答・自由記述を求めた、企業が介護離職を防ぐための意見・提言に対する
回答を集約したものです。

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 【「介護離職」に関するアンケート調査(3)】
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<調査概要>:2016年11月17日~28日、インターネット・アンケート。有効回答・7,391社
資本金1億円以上を大企業、同1億円未満を中小企業と定義。
個人企業は資本金1億円未満に算入、中小企業に区分。

<Q10:介護離職を防ぐための具体的な提言などを>(自由回答)。

1)(鹿児島県、小売業、資本金1億円未満)
フランクに話し合いできる機会を多く持てる雰囲気を醸成する、離職を決断する前に、
お互いに知恵を出し合える関係を構築する。

2)(大阪府、サービス業、資本金1億円以上)
介護は育児休業以上に長期になるにも関わらず、休業期間が「93日」と短い。
最低でも育児休業と同等の1年、半年延長を認めるべき。

3)(東京都、卸売業、資本金1億円未満)
先日、当社で初めての介護離職を防ぐことが出来なかった。
介護の状況が様々違うので、その都度の対応をしていかなければならないと思う。

4)(北海道、サービス業、資本金1億円未満)
介護離職防止支援助成金を調べようと思った 。

5)(東京都、サービス業、資本金1億円未満)
自宅介護には車いすの出入りが難しいなど限界がある。要介護者の施設入所に関する
補助制度の拡充などが必要。 介護離職だけでなく、当社では保育園に入れない保育離職も
発生しており、この点も深刻な問題

6)(宮城県、建設業、資本金1億円未満)
当社は、40、50歳代で独身者が多いため安価で入居出来る介護施設(国民年金程度で
入居できる施設)を早めに準備願いたい

7)(東京都、サービス業、資本金1億円未満)
物理的な物(特に紙)のやり取りをなくし、インターネットを活用する。中小企業には
テレワーク設備の導入費を支援すれば、業種(職種)によっては離職を回避できる可能性がある。

8)(東京都、製造業、資本金1億円未満)
「介護離職」という括り方に疑問がある。育休にしても、休暇に対する議論自体が前提が
「ネガティブ」だ。介護も育児も「ポジティブ」に捉えれば、「働き方を変える」もしくは
「他人に介護を任せる」という選択肢が圧倒的に増えると思う 。

9)(岡山県、製造業、資本金1億円未満)
雇用維持の問題と絡み、深刻な問題になりつつあることは、十分理解している。
必要なのは、人口増加による活力のある社会づくりだと思う

10)(東京都、サービス業、資本金1億円未満)
企業と介護施設との提携や連携が必要

11)(東京都、卸売業、資本金1億円未満)
私自身が介護離職者。親の介護者は主に中年以上ですが、一旦離職すると再就職は事実上不可能で、
介護を放棄するか、社会人人生を放棄するかの二者選択。
従来の介護制度を拡充しても、結局は大企業や官公庁といった一部の人しか利用できない
中小企業は休暇の交代要員を雇う余裕がない。一人で介護と仕事の両立可能となる様に、給料も
労働時間も正社員の半分で働けるような勤務体系が普及すると良い。

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以上で、3回に分けて紹介したアンケート項目ごとの集計分析結果の紹介を終わります。
この分析では、最後に、以下のようにまとめています。

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人口減少と高齢化が進み、介護離職者への対応は避けて通れない。
今回のアンケートでも、約7割の企業が介護離職者が将来増えるとみている。
その一方で、自社の取り組みが不十分と考える企業も約7割あり、企業の「介護離職」
への取り組み、支援は喫緊の課題でもある。

現在、整備されている制度や取り組みは、「就業規則や介護休業、休暇マニュアルの明文化」
「介護に関する悩みなどの相談を出来る体制」など、啓もう活動や相談窓口の整備などが
中心になっている。
これに対し、「介護休業、休暇を取得中、取得後のフォローアップ体制が整備されていない」
との声も聞かれ、企業側では実際に取得した場合の金銭面での支援や、キャリアパスが途切
れない仕組み作りが遅れている様子もうかがわれる。

また、「少人数での経営で休業者のバックアップが難しい」「休業者に代わる人材が確保さ
れていない」との深刻な声も出ている。
特に、中小企業は常に人手不足の中で凌いでおり、介護休業や休暇に対応する人的な余力を
持つことは難しいことが背景にあると思われる。

介護離職防止支援助成金の活用については、「分からない」との回答が2,316社(31.3%)と
約3割あった。アンケートでも「介護離職防止支援助成金」について「調べようと思った」と
の回答もあるように、同助成金が認知されていない実態が浮かび上がっている。
関係省庁や自治体は、ホームページへの掲載だけでなく、積極的な告知に向けた動きが求め
られている。

人的余裕のない中小企業では、介護離職が経営に重大な影響を及ぼしかねない。
介護休業、休暇を取得しやすい体制の整備は、企業の努力だけでは限界があり、国や自治体が
さらに踏み込んだ支援強化も必要だろう。
もちろん企業側も、付加価値力の向上など利益率の改善を意識した経営が求められる。
「高齢化」と「介護」は誰もが避けられず、すでに国・行政と産業界が手を携えて取り組むべき
社会的な課題に広がっている。


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自由回答で紹介されているのが、すべて資本金1億円未満の企業というのもその厳しい現状と
認識を示しているかのようです。

一般的に、大企業を離職した人材を、中小企業が受け入れ戦力にする、というのが過去の状
態と思われたのですが、労働力人口の減少に伴う人材不足が顕在化してきた今、大企業の方が
介護離職や保育離職を防止する人事政策の導入に力を入れている状況です。

しかし、中小企業もそうしたいが、そこまでの種々のゆとりはない・・・。
切実な現状が、回答から読み取れます。

その中にあるように、現状の介護休業制度と関連法は、公務員や一部の大企業には有効でし
ょうが、その導入・適用・運用自体が非現実的と受け止める中小零細企業や自営業が多いはず。
外面はいいが、内実は逆。現状の政治・行政の実態がそこにはあります。

国民年金受給レベルで介護施設が利用できる。
理想ではありますが、現実的に考えると無理で、厚生年金受給レベルで入所可能な介護施設が
あるべきと私は考えます。
(国民年金は、厚生年金の保険料負担と保険金受給レベル同等の年金制度に改革すべきという
のが私の提案です。)

事業所内保育所が、今年一気に増えると予想されますが、介護施設においても、大手企業が
自社での運営に乗り出すか、外部介護事業者と業務提携するか・・・。
その動きも、そろそろ広がり始めるのでは、とも予想しています。
こうして、企業間の福利厚生面での格差が一層拡大する・・・。

中小企業、自営業であることのメリットを生かした上での福利厚生制度・人事人材管理制度の
整備・拡充。この視点での事業の転換・創造、改善改革が必要になっていることを強く意識し、
経営にあたるべき時代です。

介護や育児と両立させるべき従業員の働き方という課題は、実は経営のあり方と直結している
ことを、率直なコミュニケーションを持ったうえで、共通認識とし、協力してそれらの改善改革
に取り組む。
基本は、付加価値の高い事業構造・事業体質への転換・創造が課題となります。
ぜひ、取り組んで頂きたいものです。

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