
「認知症の人と家族の会」をご存知ですか:『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』から(4)
昨年2016年9月に発刊された
『長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実』(山岡淳一郎氏著)
を用い、在宅介護と在宅医療について考えるシリーズを新しい年、始めました。
「第1章 在宅医療の光と影」
第1回:「看取り」でなく「あやめる」情動へ。在宅介護がもたらす社会病理?
第2回:愛情の在り方がもたらす在宅介護殺人事件
第3回:在宅介護政策が孕む介護苦殺人・心中事件リスク
今回は、その第4回です。
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誰かに話せることの大切さ
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東京都新宿区四谷、大通りに面したビルの一室で「公益法人 認知症の人と家族の会
東京支部(以下、家族の会)」のスタッフが、介護で疲弊した人からの電話相談を受け
ていた。
年の暮れ、代表の大野教子さん(64歳)が受話器を握りしめ、「そうね。はい。そうよ
ね。辛かったでしょう・・・・」と相槌を打ちながら、相談者の話を「傾聴」している。
相談日は毎週火曜と金曜の10時から15時。電話は1時間、1時間半を超えることも珍しく
ない。
相談を受ける側も、くたくたに疲れる。
大野さん自身、20年前に81歳の姑を自宅に呼び寄せて世話をして以来、介護の辛さは身
に染みている。姑の攻撃的な変貌に悩まされ、昼夜を問わない騒ぎように疲れ切った。
「話を聞いてくれる友人がいなかったら、体を壊して介護を投げ出していたかもしれない」
と顧みる。4年間の同居介護で体力を回復した姑は、認知症を抱えながらも地方に戻り、
101歳のいまも娘夫婦と暮らしている。
大野さんは言う。
「電話相談では、心中したい、自殺したい、死にたいとよく言われます。とにかく、苦し
みを吐きだしていただきます。吐露すれば不思議と楽になる。すべてを吐きだした後に、
ひと言、アドバイスするとハッと気づくこともあるんですね。苦しさをわかってくれる場
が必要なんです。」
「家族の会」は、認知症という言葉もなかった1980年に発足している。京都で結成され、
全国各地に支部が立ち上がった。当事者が痴呆老人、ボケ老人などと呼ばれていた当時、
「介護者を支えて介護される人を支えよう」と輪が広がった。
(中略)
「相談者のほとんどが、最初に泣きます。ずっと聞いて、途中で話を整理して、こういう
方法もありますね、と助言します。グループホームでの経験から、認知症にご本人の気持ち
を私が代弁することもあります。認知症でも心は生きている。子どもへの愛情とか、じつは
強いんです。そういうことも介護のヒントにしていただきたい」と松下さんは語る。
大野さんや松下さんは地道な活動を通じて認知症の介護現場を支えてきた。
この「家族の会」の会員たちは、「死のう。殺してしまおう」と絶望の淵に追いつめられ
ながら一線を越えず、踏みとどまった胸のうちを『死なないで!殺さないで!生きようメッセージ』
という冊子に綴っている。
次回、<残された家族への思いが歯止めに> <被介護者の「生きたい」という声>に続きます。
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小冊子は、同会のホームページからダウンロードできます。
⇒ 「死なないで!殺さないで!生きようメッセージ」
小さくて読みづらいかもしれませんが、以下にコピペさせて頂きました。
「公益法人 認知症の人と家族の会」。
ご存知でしょうか。
各地に支部がありますので、必要が生じた場合、コンタクトを取って頂くのが
よろしいかと思います。
最近では、介護の様々な問題や保険制度改定などに関して、代表しての意見・
提言を積極的に行っています。
何らかのコメントなどをさしはさんだブログも、これまでいくつかあります。
こちらから見て頂くことができますので、お時間があればチェックしてみてく
ださい。
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実は、本書をシリーズ化する前に、昨年『もう親を捨てるしかない 介護・葬式・遺産は、要らない』
という書を紹介しつつ老後・介護・最期を考えるシリーズを投稿してきました。
その内容と、今回の『長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実』のここまでの
展開の内容とニュアンスが類似しています。
新シリーズの方は、これから実際の医療・介護事例が具体的に数多く取り上げられるので、
実際にはまったく異質な書です。
『もう親を捨てるしかない』シリーズも今月から再開し、第3章に入っていく予定です。
並行して、見て頂ければと思います。
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「はじめに」
第1回:介護殺人?利根川心中事件が話題にならなかった背景を読む
「第1章 孝行な子こそ親を殺す」
第2回:家族による介護殺人事件への関心が薄れていく
第3回:減る殺人事件、増える介護殺人・心中事件、家族・親族間殺人事件
第4回:在宅介護推進政策は、介護殺人助長政策?
第5回:実刑判決も執行猶予判決も抑止力にはならない家族介護殺人・心中事件
第6回:先に人生を終える高齢者世代の介護と終え方の責任
第7回:介護生活未経験の方に知って頂きたいその状況
第8回:自宅療養・在宅介護は多くの人の希望か?財政面からの政策の持つ狙いと矛盾
第9回:在宅介護主義と地域包括ケアシステムに潜む疑問・課題
第10回:「親捨て」と「(成人した)子捨て」の相互関係
第11回:子との同居で親子共倒れになるなら、子を寄せ付けない「子捨て」を
「第2章 日本人は長生きし過ぎる」
第12回:今一度、認知症徘徊事故訴訟 最高裁判決から考える
第13回:ポケGO!ではない、認知症GO!は仮想現実?
第14回:2015年の日本人の平均寿命は女性87.05歳、男性80.79歳
第15回:望まれた不老長寿と健康・老いの変質
第16回:「長生きはめでたいことなのか」という問い
第17回:「尊厳死の宣言書」リビング・ウィル(Living Will)をご存知ですか
第18回:超高齢化の象徴でもあるリハビリ入院における一つの高齢化社会にて
第19回:みな歳を取り、世代を繋ぎ、別れを告げて、逝くのですが・・・
第20回:逆縁を知らぬまま生きる超高齢者もいる時代の無情
第21回:無縁にも、孤独にも多様性がある。そういう無縁死・孤独死なら・・・
第22回:独居、孤独死、認知症徘徊者等総合的な高齢者見守りシステムが必要な社会
第23回:止まらない全年代単身者世帯と老人単身者世帯の増加
第24回:最後には単身者世帯になる老後核家族
第25回:介護殺人や心中があっても不思議ではない超長寿社会
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【『長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実』構成】
はじめに
第1章 在宅医療の光と影
第2章 亡くなる場所が選べない
第3章 認知症と共に生きる
第4章 誰のための地域包括ケアなのか
第5章 資本に食われる医療
おわりに
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【山岡淳一郎氏・プロフィール】
◆1959年愛媛県生まれ、ノンフィクション作家、東京富士大学客員教授
◆「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマに近現代史、政治、医療、
建築など分野を越えて旺盛に執筆。時事番組の司会も務める。
◆著書:『原発と権力: 戦後から辿る支配者の系譜』
『インフラの呪縛: 公共事業はなぜ迷走するのか』『気骨: 経営者 土光敏夫の闘い
』
『国民皆保険が危ない』『後藤新平 日本の羅針盤となった男
』
『田中角栄の資源戦争』『医療のこと、もっと知ってほしい
』他多数。
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足掛け2年にわたってシリーズ化し、昨年末に紹介を終えたのが
『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』(結城康博氏著)
本書のサブタイトルに、後者はタイトル自体に「在宅介護」という用語が用いられています。
政府・厚労省の介護政策において置く<在宅介護主義>。
これに非常に疑問を持つ私です。
今回の書では、在宅医療も在宅介護と一体のものとして考えることを基本としており、それ
は当然のこと。
とすると、一層在宅での老後生活と看取りについての困難さが浮き彫りにされます。
そのためということでしょうか。
「長生きしても報われない」という悲観的なタイトルが付いた本書。
が、「長生きすればみな報われるべきなのか?」、「報われるとはどういうことなのか?」。
このタイトルを目にしたとき、率直に第一に抱いたのが、この疑問でした。
お叱りを承知で、根源的なこの疑問を抱きつつ、加えて、先に述べた、在宅介護・医療に限
界とその政策への疑問をベースに、このシリーズを続けていきます。
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