地域社会が認知症高齢者を守ることができるか?在宅介護の明日は?:『在宅介護』<認知症高齢者の急増>から(8)

良書 『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から
結城康博氏著・2015/8/20刊)
を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。

残りの章「第3章 認知症高齢者の急増」も最後になりました。
第1回:考え得る認知症徘徊高齢者対策、すべてを進めるべき社会
第2回:見通せない、認知症高齢者徘徊事故発生と賠償責任リスク
第3回:日常生活自立度Ⅱ以上の認知症高齢者400万人時代へ
第4回:特殊詐欺被害者、運転事故加害者。認知症高齢者の日常生活リスク
第5回:ご存知ですか、認知症行動障害尺度における質問項目
第6回:独居・夫婦のみ世帯。高齢者世帯の増加が招く生活不安
第7回:市民後見人制は、国・自治体が担うべき業務の放棄

今回は、第8回、通算85回最終回になります。

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 4.オレンジプランとは

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<認知症施策>

2012年9月、厚労省は「認知症施策推進5か年計画(通称、オレンジプラン)」という認知症
施策を公表した。認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域で暮らし
続けることができる社会の実現を目指す というのである。
 具体的には2013年度から18年度までの5年間の計画として、必要な医療や介護サービス等の数
値目標を定めて整備を図ることとしている。

 これらの認知症関連のサービスの拡充で、もっとも重要と考えることは、認知症の専門医を増
やすことである。早期発見・早期治療が認知症施策には重要と述べたが、そのキーマンとなるの
が認知症の専門医である。

 一般の診療所の医師が認知症に精通しているとは限らず、風邪などで患者が通院しても認知症
と診断できないこともある。今後、地域で従事する医師らが認知症の診断や治療の専門性を身に
つけることで、認知症の高齢者を在宅で看る環境も整っていくと考えられる。厚労省の推奨する
認知症サポート医養成研修の受講者数が増えることを期待したい。

 

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<地域で見守る期待と限界

 認知症高齢者が住み慣れた地域で暮らしていくためには、地域住民の認知症高齢者への理解が
必要である。
具体的なエピソードとして、話を聞いた(ある)銀行では、窓口業務職員に認知症高齢者に関
する研修を義務付け、窓口に来る高齢者が認知症ではないかと気にしながら業務に携われるよう
にしていた。年に5~6回ほど通帳をなくしたといって、再発行の手続きをする高齢者がいたそう
だ。通帳は大切なものなので、年に数回再発行すること自体、不可解に感じていたので、専門機
関に相談して、社会福祉士に相談にのってもらい、結果的には受診を促して認知症だと判明しサ
ービス受給につながった。来店する顧客の不可解な行動を店員が察知できれば、認知症高齢者を
早期に発見できる良い事例であった。

 また、福岡県大牟田市では、行方不明高齢者を地域ぐるみで探索できる仕組みを根付かせよう
と、定期的に「徘徊SOSネットワーク模擬訓練」が実施されている。
 認知症で徘徊する高齢者役を設定し、模擬訓練に参加したサポート役地域住民が対応するとい
うものである。認知症の疑いで徘徊しているかもしれない高齢者に、地域住民が気軽に声掛けで
きる習慣を身につけることが目的である。このような訓練が定期的に実施されることで、地域住
民にとっても認知症高齢者に対する気配りが身近なものになっていく。

 その他、全国的に「認知症カフェ」という地域ぐるみの集いが立ち上がり、厚労省も推奨して
いる。認知症やその家族が気軽に集い、お茶を飲みながら交流を深めレクリエーションなどで楽
しむ場を地域住民主体で築き上げていく試みである。市民ボランティアなどが中心となって運営
されている。

 このように認知症高齢者を地域で支える仕組みが芽生えはじめており、地域によっては活発に
活動している。しかし、これらを支えている人々は志の高い市民ボランティアや専門職であり、
事業運営の不安定さは否めず、併せて公的機関が役割を果たしていくことが重要であろう。

マック認知症1

以上で、「第3章 認知症高齢者の急増」を終わるとともに、
本書『在宅介護-「自宅で選ぶ」視点から』全章を紹介してのシリーズを終了します。

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地域での高齢者の見守りへの取り組みは、コンビニや生協などのチェーン店舗を経営する
主体と自治体との業務提携・契約などが相当浸透してきています。
それらの事例は、これまで、当ブログでも<見守りネットワーク>として数回取り上げて
来ています。

また、実際には運営上の苦労が多い「認知症カフェ」についても同様です。
下線箇所でそれらのブログ例リストにリンクしていますので、確認頂けます。

なお、ブログの右上の<検索>欄に、ご関心をお持ちの事項についてキーワードを入力し
て頂けますと、該当するブログが表示されるかと思います。
ご利用頂ければと思います。

2015年10月20日から始めたこのシリーズ。
1年余をかけてようやく完了しました。
開始して間もなく、筆者・結城教授より早々にお礼のコメントを頂き、励みにもなりました。
当ブログ<介護相談.net>の一つの軸として活用させて頂けたことに、深く感謝申し上げた
いと思います。

私の個人的な考えのベースは、在宅介護主義に対する疑問にあります。
介護保険制度の根本を、在宅介護に据えた時、介護にあたる家族の不安・負担が、あまりにも
大きい・・・。

もちろん医療財政の問題と同様に、これから介護財政問題が、一層制度改定の軸に据えられる
ことになりますが、果たして在宅介護主義が、その改善に有効なのかどうか・・・。
抜本的な介護政策・介護行政の改革を、制度構造改革を含めて、軸に替えれば、何か別の望ま
しい在り方が描けるのではないか・・・。

そして、介護保険を軸とした領域での社会保障事業主体は、あくまでも国・自治体=公であり、
決して介護を成長産業と見る、民間・私的事業者が主ではないこと。
これも軸の一つです。
この二つの軸を持ち、本シリーズを終えた後も、引き続き介護問題を考えていきたい思います。

年が改まりましたら、現在読み進めている
長生きしても報われない社会 ── 在宅医療・介護の真実』(2016/9/5刊)を用いた新しいシ
リーズを開始する予定です。

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【結城康博氏・プロフィール】
1969年生まれ、淑徳大学社会福祉学部卒業
法政大学大学院修了(経済学博士、政治学博士)
介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に10年間従事
現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)
厚労省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を4年間務める。
社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー有資格者
◆著書:『医療の値段―診療報酬と政治』『介護―現場からの検証
国民健康保険』『日本の介護システム――政策決定過程と現場ニーズの分析
孤独死のリアル』他多数

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<<『在宅介護-「自宅で選ぶ」視点から』目次>>

【序章】
1.姑の介護のために離職した嫁
2.在宅介護は拡がるのか?
3.目まぐるしく変わる制度
4.本書の構成と狙い
【第1章 在宅介護の実態】
1.在宅介護の困難さ
2.二十四時間型ヘルパーサービスの再構築
3.サービス付き高齢者住宅
4.複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)
5.厚生労働省の政策ミス
【第2章 介護業界の限界】
1.介護離職者10万人
2.パラサイトシングル介護者
3.施設は利用しづらい
4.グレーゾーンの介護サービス
5.グレービジネスの惨劇
【第3章 認知症高齢者の急増】
1.認知症高齢者の徘徊
2.急増する認知症高齢者
3.家族形態と地域組織の変容
4.オレンジプランとは
【第4章 在宅介護サービスの使い方】
1.介護保険における負担
2.在宅介護サービスを受けるには
3.ケアマネジャーを決める
4.在宅サービスのあれこれ
5.利用しにくい介護保険サービス
6.質の悪いサービス対策
【第5章 施設と在宅介護】
1.地域包括ケアシステムとは
2.施設あっての在宅介護
3.他の施設系サービス
4.東日本大震災からの教訓
【第6章 医療と介護は表裏一体】
1.在宅医療の現状
2.看護と介護
3.老人保健施設とリハビリテーション
4.在宅介護と看取り
5.医療と介護の考え方
【第7章 介護士不足の問題】
1.介護士不足は深刻
2.介護士という資格
3.介護士養成の難しさ
4.外国人介護士は切り札か
5.介護人材不足に秘策はあるのか?
【第8章 介護保険制度が大きく改正された】
1.二度目の大改正
2.要支援1・2の人はサービス利用が大きく変わる
3.「地域で支える」がキーワード
4.はじめての自己負担二割導入
5.保険料の仕組み変更
6.特別養護老人ホームの申込みは要介護度3から
7.介護予防が変わる
【最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか】
1.介護における格差
2.産業としての介護
3.これからの政策と財源論の方向性
4.あるべき日本の介護システム
5.介護は社会投資である

送迎1

 

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在宅介護――「自分で選ぶ」視点からブログリスト>>

「序章」
第1回:『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して

「第1章 在宅介護の実態」
第24回介護離職の根本原因としての在宅介護
第25回:親の介護と愛情の持ち方、表現の仕方
第26回:在宅介護を支える訪問介護・居宅介護サービス介護士の負担
第27回:実現困難な理想としての介護サービスは一面、非人間的
第28回:在宅介護が困難な場合の介護サービス付き高齢者住宅、サ高住
第29回厚生年金でほぼ賄える「サ高住」が理想
第30回:「小規模多機能型居宅介護」という名称自体、分かりにくい
第31回:(看護)小規模多機能型居宅介護事業は、小規模では成り立たない
第32回だれでも、どこでも、いつでもできる介護サービス事業か?

「第2章 家族介護の限界」
第33回:企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第34回:介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第35回:企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度
第36回:パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ
第37回:介護虐待で考える、介護者・要介護者の人権
第38回:特養入所条件要介護度3以上で、待機高齢者はどうなった?
第39回:お泊り付デイサービスがグレー化するリスク
第40回:劣悪化する介護事業の原因の一端は、低所得高齢者政策の欠如に
第41回:住宅型有料老人ホーム事業がグレーからブラック化する前に
第42回:独居高齢者・高齢者夫婦世帯の増加で困難になる在宅介護・家族介護
第43回:国・自治体の介護行政無策のしわ寄せが介護事故・事件を招く

第3章 認知症高齢者の急増」も最後になりました。
第78回:考え得る認知症徘徊高齢者対策、すべてを進めるべき社会
第79回:見通せない、認知症高齢者徘徊事故発生と賠償責任リスク
第80回:日常生活自立度Ⅱ以上の認知症高齢者400万人時代へ
第81回:特殊詐欺被害者、運転事故加害者。認知症高齢者の日常生活リスク
第82回:ご存知ですか、認知症行動障害尺度における質問項目
第83回:独居・夫婦のみ世帯。高齢者世帯の増加が招く生活不安
第84回:市民後見人制は、国・自治体が担うべき業務の放棄
第85回:地域社会が認知症高齢者を守ることができるか?在宅介護の明日は?

「第4章 在宅介護サービスの使い方」
第44回上がり続ける介護保険料。介護保険制度の基本を知る①
第45回:介護報酬・介護保険サービス料の基礎知識。介護保険制度の基本を知る②
第46回:要介護認定の仕組み・手続きと認定調査
第47回:要介護認定システムの客観性・信憑性問題による認定率格差と介護給付格差
第48回:要介護度レベルと認定方法の簡素化の余地がある介護保険法
第49回:ケアマネジャーが介護生活の質を左右する
第50回:生活援助サービスの短縮化・低下は已むを得ないか?
第51回:デイサービス、デイケア、ショートステイの利用法
第52回:介護サービスを受けるために欠かせない「地域包括支援センター」の役割
第53回:介護保険サービスの適用範囲、基準の難しさ
第54回:自費負担の介護保険外サービスが増えるのは、やむを得ない?
第55回:トラブルを避けるための介護サービスに関する「苦情」相談とコミュニケーション

「第5章 施設と在宅介護」
第56回:地域包括ケアシステムの基本にある仕事以外の要素
第57回:責任回避の自助・互助介護政策化。公的サービス責任が先
第58回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(1)
第59回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(2)
第60回:養護老人ホーム・軽費老人ホーム(ケアハウス)の再編成を!

第61回
入居介護施設の選び方

「第6章 医療と介護は表裏一体」
第61回:ある日突然のケガ・病気からの介護が・・・
第62回:地域包括ケアを知っておきましょう
第63回:医療療養型、介護療養型、回復期リハビリ、地域包括ケア病棟etc.
第64回:同じ医療行為でも、看護師と介護士で料金が違うことの疑問
第65回:服薬管理、口腔ケアは、看護師・介護士の高齢者ケアの基本
第66回:回復期病棟から戻って考える施設介護と在宅介護
第67回:リハビリ実体験で思う在宅介護高齢者の自宅リハビリの必要性
第68回:福祉用具・介護ベッドの介護保険適用レンタルサービスは守るべき!
第69回:介護報酬のジレンマ、予防介護で高齢者超長寿命化のジレンマ?
第70回:介護予防で健康寿命が延びると介護給付を抑制できるか?
第72回:在宅介護政策へ誘導するための「介護と最期は自宅で」高齢者意識調査
第73回:介護施設での看取りが年々増加
第74回:在宅系看護師不足が示す、在宅介護の困難さと同様の在宅医療
第75回:自宅で看取りは果たして理想か?在宅医療・在宅介護への疑問
第76回:独居高齢者・高齢夫婦世帯のための包括的生活支援契約事業
第77回:高齢者医療・介護は、最期のあり方を問うこと

「第7章 介護士不足の問題」
第15回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第16回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第17回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第18回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第19回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
第20回:外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて
第21回:元気な高齢者が介護業務を補完する
第22回:高齢者介護士活用のポイント
第23回:他産業との賃金格差、人

「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」
第5回:多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題

第7回これからの混合介護のあり方を考える
第8回介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性
第14回:介護制度コストと介護職賃金は社会投資か?

kai16

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