市民後見人制は、国・自治体が担うべき業務の放棄:『在宅介護』<認知症高齢者の急増>から(7)

良書 『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から
結城康博氏著・2015/8/20刊)
を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。

残していた「第3章 認知症高齢者の急増」に入っています。
第1回:考え得る認知症徘徊高齢者対策、すべてを進めるべき社会
第2回:見通せない、認知症高齢者徘徊事故発生と賠償責任リスク
第3回:日常生活自立度Ⅱ以上の認知症高齢者400万人時代へ
第4回:特殊詐欺被害者、運転事故加害者。認知症高齢者の日常生活リスク
第5回:ご存知ですか、認知症行動障害尺度における質問項目
第6回:独居・夫婦のみ世帯。高齢者世帯の増加が招く生活不安

今回は、第7回(通算84回)です。

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 3.家族形態と地域組織の変容(2)

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成年後見制度

 金銭管理や契約行為において判断することが難しい認知症患者や知的障害者に代わって、
専門職がサポートする仕組みを成年後見制度」という。
この後見人の選定は家庭裁判所が行い「法定後見制度」と呼ばれ、主に後見人は親族から
選定されることが多い。しかし、独居家族が増え、天涯孤独の人が多くなっている現状では、
専門職として「社会福祉士」「弁護士」「司法書士」といった資格を有した人が選定される
こともある。最近では「行政書士」も後見人になることがある。

(参考)
【親族以外で成年後見人となった件数】 (2014年1~12月)
・弁護士    6,961
・司法書士   8,716
・社会福祉士  3,380
・行政書士    835
・社会福祉協議会 697
・市民後見人 215

このような専門職が後見人になると、本人の所得や資産に応じて報酬が支払われることに
なるが、その額は家庭裁判所によって決められる。
 たとえば、ほとんど財産がない高齢者の場合になると、毎月、最も低い報酬で3000円程度
というケースも珍しくない。そのため、このようなケースでは後見人の引き受け手が少ない
のが実態だ。

 いっぽう、一定の財産がある高齢者の場合には、親族がいるものの身内同士の人間関係が
悪化し、「息子には、絶対に財産は管理させない。あいつは信頼できない」と言って、第三
者である後見人に依頼するケースもある。ただし、このようなケースは、認知症になる前に
予め本人自らが専門職に依頼しておくため、「任意後見制度」と呼ばれる。

 2014年11月12日、「社会福祉士」として後見人の仕事をしている人に話を聞いたのだが、
最近は財産管理の仕事以外に、「本人が生死をさまよう状態になった時の延命治療を施すか
否かの判断」「亡くなった際の葬儀の手配(主に無縁仏の対応)」、親族代わりの役割も担
っているそうだ。本来は、財産管理が主な仕事のはずだが、仕事の流れでこのような親族的
な役割もやらざるをえないという。

 専門職個人が後見人の選定を受けるのではなく、自治体が「後見人センター」を設け組織
・団体で選定される場合もある。たとえば、筆者が訪ねた機関としては「品川成年後見セン
ター(品川区社会福祉協議会)」「東濃成年後見センター(NPO法人、岐阜県)」などが挙
げられる。後見センターの設置者は自治体であるが、社会福祉協議会やNPO法人に事業が委
託されている。それによって、低所得でも後見人を引き受けてくれる専門を確保できる。
 つまり、組織運営費を自治体が工面しているため、専門職にも一定の賃金が保障できるの
である。しかも、センター内に複数いる専門職が後見人となり、組織として後見人を請け負
うことでチームとして対応できるメリットがある。ただし、組織を運営するため自治体の補
助金などが必要不可欠となり、このような後見人事業を重要視している自治体は、未だ全国
的には少ない。

保険6

 

市民後見人

全国的に後見人の引き受け手が少ない現状から、政府はリタイアする団塊の世代の人たち
に期待を寄せ、2012年4月施行の老人福祉法の改正によって「市民後見人」という新しい仕組
みを設けた。
 これによって市町村は「市民後見人の育成」「市民後見人を担える人材の名簿づくり」など
に努めることが法律で決められた。つまり、記述の専門職だけでなく、地域住民が「後見人」
を担うことができるようになったのである。
 しかし、専門職ではないため、社会福祉協議会などが催す研修を経なければ、後見人として
選定されない。大阪市では市民後見人連絡協議会が立ち上がり、市民後見人が互いに相談でき
る組織が形成された。

 「成年後見人」であろうと「市民後見人」であろうと、法定後見制度は家庭裁判所が最終判
断をすることになる。ただし、あくまでも「市民後見人」を担う人は専門職ではないため、一
定の法律、福祉、医療、倫理観といった知識・技能を担保させていくことが重要で、「市民後
見人」制度が、今後、普及していくには多くの課題が残されている。

セミナー3

 

次回に続きます。

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所得や資産が少なく、自ら専門職後見人を依頼できない独居高齢者や高齢夫婦は、本来自治体
がフォローし、その役割を担うべきです。
民生委員などが、望ましいのでしょうが、かなり専門的で突っ込んだ対応が必要ですから、そ
こまで求めるべきではありません。

自治体自ら後見人センターを設置し、専門職と契約して、主体的に運営すべきです。
いうならば、地域包括ケアシステム、地域包括支援センターの機能に含めて対応すべきです。
介護との連携もありますし、独居死・孤独死の防止や早期発見にも関係する組織活動基盤を拡
充するわけです。もちろん、資産を持つ高齢者の利用も可能とすべきです。
死亡後の対応、財産・資産処理などにも自治体が関わっていくことは、一つの選択肢として、
自然な流れといえるわけですから。

いたずらに、「市民」「市民」と、国や自治体自らの責任を回避するような政策に走ることに
は疑問を感じます。

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※次回は最終項「4.オレンジプランとは」です。

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(参考)
【認知症行動障害尺度における質問項目】
1  同じことを何度も何度も聞く
2  よく物をなくしたり、置場所を間違えたり、隠したりしている
3  日常的な物事に関心を示さない
4  特別な理由がないのに夜中起き出す
5  特別な根拠もないのに人に言いがかりをつける
6  昼間、寝てばかりいる
7  やたら歩き回る
8  同じ動作をいつまでも繰り返す
9  口汚くののしる
10 場違いあるいは季節に合わない不適切な服装をする
11 世話をされるのを拒否する
12 明らかな理由なしに物を貯め込む
13 引き出しやタンスの中身を全部だしてしまう

5

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在宅介護――「自分で選ぶ」視点からブログリスト>>

「序章」
第1回:『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して

「第1章 在宅介護の実態」
第24回介護離職の根本原因としての在宅介護
第25回:親の介護と愛情の持ち方、表現の仕方
第26回:在宅介護を支える訪問介護・居宅介護サービス介護士の負担
第27回:実現困難な理想としての介護サービスは一面、非人間的
第28回:在宅介護が困難な場合の介護サービス付き高齢者住宅、サ高住
第29回厚生年金でほぼ賄える「サ高住」が理想
第30回:「小規模多機能型居宅介護」という名称自体、分かりにくい
第31回:(看護)小規模多機能型居宅介護事業は、小規模では成り立たない
第32回だれでも、どこでも、いつでもできる介護サービス事業か?

「第2章 家族介護の限界」
第33回:企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第34回:介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第35回:企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度
第36回:パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ
第37回:介護虐待で考える、介護者・要介護者の人権
第38回:特養入所条件要介護度3以上で、待機高齢者はどうなった?
第39回:お泊り付デイサービスがグレー化するリスク
第40回:劣悪化する介護事業の原因の一端は、低所得高齢者政策の欠如に
第41回:住宅型有料老人ホーム事業がグレーからブラック化する前に
第42回:独居高齢者・高齢者夫婦世帯の増加で困難になる在宅介護・家族介護
第43回:国・自治体の介護行政無策のしわ寄せが介護事故・事件を招く

「第4章 在宅介護サービスの使い方」
第44回上がり続ける介護保険料。介護保険制度の基本を知る①
第45回:介護報酬・介護保険サービス料の基礎知識。介護保険制度の基本を知る②
第46回:要介護認定の仕組み・手続きと認定調査
第47回:要介護認定システムの客観性・信憑性問題による認定率格差と介護給付格差
第48回:要介護度レベルと認定方法の簡素化の余地がある介護保険法
第49回:ケアマネジャーが介護生活の質を左右する
第50回:生活援助サービスの短縮化・低下は已むを得ないか?
第51回:デイサービス、デイケア、ショートステイの利用法
第52回:介護サービスを受けるために欠かせない「地域包括支援センター」の役割
第53回:介護保険サービスの適用範囲、基準の難しさ
第54回:自費負担の介護保険外サービスが増えるのは、やむを得ない?
第55回:トラブルを避けるための介護サービスに関する「苦情」相談とコミュニケーション

「第5章 施設と在宅介護」
第56回:地域包括ケアシステムの基本にある仕事以外の要素
第57回:責任回避の自助・互助介護政策化。公的サービス責任が先
第58回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(1)
第59回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(2)
第60回:養護老人ホーム・軽費老人ホーム(ケアハウス)の再編成を!

第61回
入居介護施設の選び方

「第6章 医療と介護は表裏一体」
第61回:ある日突然のケガ・病気からの介護が・・・
第62回:地域包括ケアを知っておきましょう
第63回:医療療養型、介護療養型、回復期リハビリ、地域包括ケア病棟etc.
第64回:同じ医療行為でも、看護師と介護士で料金が違うことの疑問
第65回:服薬管理、口腔ケアは、看護師・介護士の高齢者ケアの基本
第66回:回復期病棟から戻って考える施設介護と在宅介護
第67回:リハビリ実体験で思う在宅介護高齢者の自宅リハビリの必要性
第68回:福祉用具・介護ベッドの介護保険適用レンタルサービスは守るべき!
第69回:介護報酬のジレンマ、予防介護で高齢者超長寿命化のジレンマ?
第70回:介護予防で健康寿命が延びると介護給付を抑制できるか?
第72回:在宅介護政策へ誘導するための「介護と最期は自宅で」高齢者意識調査
第73回:介護施設での看取りが年々増加
第74回:在宅系看護師不足が示す、在宅介護の困難さと同様の在宅医療
第75回:自宅で看取りは果たして理想か?在宅医療・在宅介護への疑問
第76回:独居高齢者・高齢夫婦世帯のための包括的生活支援契約事業
第77回:高齢者医療・介護は、最期のあり方を問うこと

「第7章 介護士不足の問題」
第15回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第16回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第17回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第18回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第19回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
第20回:外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて
第21回:元気な高齢者が介護業務を補完する
第22回:高齢者介護士活用のポイント
第23回:他産業との賃金格差、人

「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」
第5回:多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題

第7回これからの混合介護のあり方を考える
第8回介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性
第14回:介護制度コストと介護職賃金は社会投資か?

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