特殊詐欺被害者、運転事故加害者。認知症高齢者の日常生活リスク:『在宅介護』<認知症高齢者の急増>から(4)
良書 『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』
(結城康博氏著・2015/8/20刊)
を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。
前回から残りの「第3章 認知症高齢者の急増」に入っています。
第1回:考え得る認知症徘徊高齢者対策、すべてを進めるべき社会
第2回:見通せない、認知症高齢者徘徊事故発生と賠償責任リスク
第3回:日常生活自立度Ⅱ以上の認知症高齢者400万人時代へ
今回は、第4回(通算81回)です。
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2.急増する認知症高齢者(2)
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<金銭管理が難しい>
宮崎県宮崎市の某地域包括支援センターを訪ねた(2014年5月31日)。
地域包括支援センターとは、在宅介護の相談窓口機関で、認知症高齢者の対応や、それら
を支援する機能を有している。
相談業務に携わる社会福祉士のTKさんによれば、在宅で認知症高齢者は多くいるものの、
昨今、その存在自体が顕在化しにくいと語る。
一昔前では、家族との同居率も高く、日常生活に不穏な動きがあると、家族が病院に連れ
ていき認知症高齢者が顕在化していた。もっとも、独居高齢者が増え、ケースによっては、
お互い認知症高齢者同士の夫婦のみ世帯が増え、なかなか受診につながらず、結果、認知症
高齢者が潜在化してしまう。
たとえば、YUさん(91歳)は、独り暮らしであったが、金銭感覚がなくなりトイレット
ペーパーを大量に買って家に保存していた。お金の遣い方が荒く一度にスーパーで10万円
以上の買い物をするなど、周りの人が見てもおかしな振る舞いが目立っていた。
スーパーの店員も心配になり、民生委員に相談して地域包括支援センターのTKさんに連
絡が入り、家を訪ねると「ゴミ屋敷」に近い状態であったという。
早急に市長申立てを行い、裁判所が選定した専門職が金銭管理を本人の代わりにする成年
後見制度を活用することになった。財産管理を認知症高齢者の代わりに第三者が行うには、
家族や役所が裁判所に申し出て後見人の必要性が認められなければならない。
その後、後見人が選定されて生活が安定して、散らかっていた部屋が徐々に掃除されてみ
ると、預金通帳は約2000万円の残高があり、通帳記入してみると、隔月、約40万円の年金
が振り込まれていた。本人はキャッシュカードで、不定期に数万円のお金をおろしていた。
<認知症高齢者が加害者に>
認知症高齢者が、被害者の立場ではなく、加害者となるケースもある。
典型的なケースが、認知症高齢者が運転する自動車で事故引き起こしてしまうことである。
新聞記事によれば、認知症が疑われる高齢者が運転するケースの死亡事故が2014年大阪府
警の調査では、5ケースあったという。たとえば、高速道路を運転していた70代高齢者が、
Uターンして乗用車と正面衝突したというのだ。
2009年から75歳以上高齢者の運転免許更新では、認知症の検査が必須となったが、2013
年約146万2000人のうち更新取消しケースは118であったという。認知症と診断されれば免許
証は取消しとなる。
いっぽう、認知症の疑いのある人が、スーパーなどで万引きしたという事件も挙げられる。
大阪府に住む62歳男性は、結果的には若年性認知症と診断され「心神喪失」という理由で
裁判は打ち切られたが、一定期間は公判が続いた。この男は2007年4月にスーパーで商品を
万引きして起訴された。本人は盗んだことを覚えておらず、弁護側は精神鑑定を行い認知症
と判定された。
次回に続きます。
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認知症高齢者をターゲットにした特殊詐欺事件は、相変わらず後を絶ちません。
そして今年目立ったのが、認知症の疑いがある人を含む、高齢者運転による自動車事故。
小学校1年生の男の子が犠牲になった事故など、社会問題になっています。
とにかく、詐欺にあった、あるいは自身が事故を起こした、という自覚がない・・・。
時には、成年後見制度を悪用して高齢者を食い物にする輩も出てくる・・・。
高齢社会の負の側面ばかり目立つ世相です。
大きな代償を伴うことが多いのですが、悲惨なのは、被害者に対して償うべき責任を問
えないケースが増えてくる可能性が高くなっていくこと。
特に、交通事故で子どもの命を奪ってしまう事件・事故となると、なんとも言いようが
ありません。
特殊詐欺対策は、以前よりも認知度が高くなり、発生を未然に防ぐ事例も増えつつあり
ますが、それにしても、お金を持っている高齢者の多いこと・・・。
普通の判断力を持てなくなっている高齢者の多いこと・・・。
介護のために経済的に困窮する高齢者と家族が増え続けることと対比すると、社会の断
面・断層の多面性・差異格差に、何とも言いようのない不条理を感じてしまいます。
自衛にも限度・限界がある・・・。
とは言うものの、やはり基本は、自分自身でリスクマネジメントを考えることから・・・。
事件・事故から個々に学び、備えることを怠ってはまずい・・・。
そう思います。
※次回は、<受診を嫌がる><早期発見と早期治療> です。
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『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』ブログリスト>>>
「序章」
第1回:『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
「第1章 在宅介護の実態」
第24回:介護離職の根本原因としての在宅介護
第25回:親の介護と愛情の持ち方、表現の仕方
第26回:在宅介護を支える訪問介護・居宅介護サービス介護士の負担
第27回:実現困難な理想としての介護サービスは一面、非人間的
第28回:在宅介護が困難な場合の介護サービス付き高齢者住宅、サ高住
第29回:厚生年金でほぼ賄える「サ高住」が理想
第30回:「小規模多機能型居宅介護」という名称自体、分かりにくい
第31回:(看護)小規模多機能型居宅介護事業は、小規模では成り立たない
第32回:だれでも、どこでも、いつでもできる介護サービス事業か?
「第2章 家族介護の限界」
第33回:企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第34回:介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第35回:企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度
第36回:パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ
第37回:介護虐待で考える、介護者・要介護者の人権
第38回:特養入所条件要介護度3以上で、待機高齢者はどうなった?
第39回:お泊り付デイサービスがグレー化するリスク
第40回:劣悪化する介護事業の原因の一端は、低所得高齢者政策の欠如に
第41回:住宅型有料老人ホーム事業がグレーからブラック化する前に
第42回:独居高齢者・高齢者夫婦世帯の増加で困難になる在宅介護・家族介護
第43回:国・自治体の介護行政無策のしわ寄せが介護事故・事件を招く
「第4章 在宅介護サービスの使い方」
第44回:上がり続ける介護保険料。介護保険制度の基本を知る①
第45回:介護報酬・介護保険サービス料の基礎知識。介護保険制度の基本を知る②
第46回:要介護認定の仕組み・手続きと認定調査
第47回:要介護認定システムの客観性・信憑性問題による認定率格差と介護給付格差
第48回:要介護度レベルと認定方法の簡素化の余地がある介護保険法
第49回:ケアマネジャーが介護生活の質を左右する
第50回:生活援助サービスの短縮化・低下は已むを得ないか?
第51回:デイサービス、デイケア、ショートステイの利用法
第52回:介護サービスを受けるために欠かせない「地域包括支援センター」の役割
第53回:介護保険サービスの適用範囲、基準の難しさ
第54回:自費負担の介護保険外サービスが増えるのは、やむを得ない?
第55回:トラブルを避けるための介護サービスに関する「苦情」相談とコミュニケーション
「第5章 施設と在宅介護」
第56回:地域包括ケアシステムの基本にある仕事以外の要素
第57回:責任回避の自助・互助介護政策化。公的サービス責任が先
第58回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(1)
第59回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(2)
第60回:養護老人ホーム・軽費老人ホーム(ケアハウス)の再編成を!
第61回:入居介護施設の選び方
「第6章 医療と介護は表裏一体」
第61回:ある日突然のケガ・病気からの介護が・・・
第62回:地域包括ケアを知っておきましょう
第63回:医療療養型、介護療養型、回復期リハビリ、地域包括ケア病棟etc.
第64回:同じ医療行為でも、看護師と介護士で料金が違うことの疑問
第65回:服薬管理、口腔ケアは、看護師・介護士の高齢者ケアの基本
第66回:回復期病棟から戻って考える施設介護と在宅介護
第67回:リハビリ実体験で思う在宅介護高齢者の自宅リハビリの必要性
第68回:福祉用具・介護ベッドの介護保険適用レンタルサービスは守るべき!
第69回:介護報酬のジレンマ、予防介護で高齢者超長寿命化のジレンマ?
第70回:介護予防で健康寿命が延びると介護給付を抑制できるか?
第72回:在宅介護政策へ誘導するための「介護と最期は自宅で」高齢者意識調査
第73回:介護施設での看取りが年々増加
第74回:在宅系看護師不足が示す、在宅介護の困難さと同様の在宅医療
第75回:自宅で看取りは果たして理想か?在宅医療・在宅介護への疑問
第76回:独居高齢者・高齢夫婦世帯のための包括的生活支援契約事業
第77回:高齢者医療・介護は、最期のあり方を問うこと
「第7章 介護士不足の問題」
第15回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第16回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第17回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第18回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第19回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
第20回:外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて
第21回:元気な高齢者が介護業務を補完する
第22回:高齢者介護士活用のポイント
第23回:他産業との賃金格差、人
「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」へ
第5回:多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
第7回:これからの混合介護のあり方を考える
第8回:介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回:介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回:福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回:複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性
第14回:介護制度コストと介護職賃金は社会投資か?