独居高齢者・高齢夫婦世帯のための包括的生活支援契約事業:『在宅介護』<医療と介護は表裏一体>から(15)
良書 『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』
(結城康博氏著・2015/8/20刊)
を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。
「第6章 医療と介護は表裏一体」
第1回:ある日突然のケガ・病気からの介護が・・・
第2回:地域包括ケアを知っておきましょう
第3回:医療療養型、介護療養型、回復期リハビリ、地域包括ケア病棟etc.
第4回:同じ医療行為でも、看護師と介護士で料金が違うことの疑問
第5回:服薬管理、口腔ケアは、看護師・介護士の高齢者ケアの基本
第6回:回復期病棟から戻って考える施設介護と在宅介護
第7回:リハビリ実体験で思う在宅介護高齢者の自宅リハビリの必要性
第8回:福祉用具・介護ベッドの介護保険適用レンタルサービスは守るべき!
第9回:介護報酬のジレンマ、予防介護で高齢者超長寿命化のジレンマ?
第10回:介護予防で健康寿命が延びると介護給付を抑制できるか?
第11回:在宅介護政策へ誘導するための「介護と最期は自宅で」高齢者意識調査
第12回:介護施設での看取りが年々増加
第13回:在宅系看護師不足が示す、在宅介護の困難さと同様の在宅医療
第14回:自宅で看取りは果たして理想か?在宅医療・在宅介護への疑問
今回は、第15回(通算76回)です。
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4.在宅介護と看取り(5)
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<身寄りがいない人の支援>
2014年2月23日、品川区に事務所を構えるNPO法人「敬寿」を訪問し、代表者の佐藤和子
さんに話を聞いた。
独居高齢者や認知症高齢者が急増している中で、身上監護(高齢者などの医療・介護・生
活に関する契約事項を代わりに行うこと)・看護や身元引受人などの生活支援ニーズが増し
ているため、それらを支援する団体を立ち上げたという。
本来は家族が支援している部分だが、家族の支援が得られない高齢者は第三者に依頼する
のが実態のようだ。
そもそも認知症高齢者などには成年後見制度があるが、それらの支援は財産管理を含む契
約事項と、身上監護と言われる部分的な支援に限られる。
たとえば、成年後見人は高齢者が入院や施設入所しても、実際に車椅子を押して看護・介
護するようなことはなく、直接的な支援はしない。あくまでも契約時の後見人である。
しかし、本来、家族であれば身元保証人として契約責任も担い、同時に車椅子を押して入
院先まで同行するのが一般的だ。
つまり成年後見人の支援は限定的で、佐藤さんらはその残りの部分を支援しているという
ことになる。また、引っ越しや入院・施設入所の際にも「身元保証人」が必要となり、それ
らを「敬寿」が担って支援しているという。
24時間体制で何か支援が必要とあらばかけつけ、日々の生活で困りごとがあれば介護保険
制度では利用できない部分もサポートしている。しかも、高齢者が亡くなられた際には、遺
体の引き取り、葬儀及び納骨、喪主代行、相続の手続きなどにも専門家と共に対応している。
基本的には市役所や地域包括支援センターなどの相談機関からの紹介が多いという。
そして、支援を依頼する高齢者は「敬寿」と契約し、決まった額を支払うことになる。
その契約プランに応じて支援する内容も異なる。佐藤さんによれば、家族がいても人間関
係の希薄さから、細かいことは第三者に依頼した方が気楽だという高齢者も増えているそう
だ。
ただ、昨今、悪質な団体として「身元引受人代行します」といった業者も増えており、財
産をだまし取られるケースも見られるので、このような支援を得るためには専門家に相談し
ながら慎重に考えるべきだということであった。
※次回に続きます
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NPO法人と言えども、ここまでの支援業務を行うには、営利事業化しないとやっていけま
せん。
やはり関心があるのが、それらの支援を受けるのに必要な費用。
同法人のHPから、以下、3つのパターンの料金表を引用転載しました。
プランAとBとの違いは、<葬儀支援料+納骨支援料>の有無です。
日常的な生活支援については、都度時間単位で費用が発生する仕組みです。
軸となるのが、<身元保証>ですね。
確かに、独居高齢者や高齢者夫婦世帯で、経済的な不安はないが、いざというときの身寄り、
頼る先がない高齢者にとっては利用価値があります。
一部は、行政が担うべきと思うものもありますが、介護保険制度の運用だけでも目いっぱい、
手いっぱいとなれば、こうした機関・機能も必要になります。
しかし、やはり心配なのは、悪徳業者。
高齢者相手の特殊詐欺と同様に、これから、類似した支援業務を行うかのように見せかけた
詐欺が発生するでしょう。
必要と感じる高齢者は、意識がはっきりしているうちに、よく調べて契約しましょう。
※次回は、第6章の最終回「5.医療と介護の考え方」です。
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『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』ブログリスト>>>
「序章」
第1回:『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
「第1章 在宅介護の実態」
第24回:介護離職の根本原因としての在宅介護
第25回:親の介護と愛情の持ち方、表現の仕方
第26回:在宅介護を支える訪問介護・居宅介護サービス介護士の負担
第27回:実現困難な理想としての介護サービスは一面、非人間的
第28回:在宅介護が困難な場合の介護サービス付き高齢者住宅、サ高住
第29回:厚生年金でほぼ賄える「サ高住」が理想
第30回:「小規模多機能型居宅介護」という名称自体、分かりにくい
第31回:(看護)小規模多機能型居宅介護事業は、小規模では成り立たない
第32回:だれでも、どこでも、いつでもできる介護サービス事業か?
「第2章 家族介護の限界」
第33回:企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第34回:介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第35回:企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度
第36回:パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ
第37回:介護虐待で考える、介護者・要介護者の人権
第38回:特養入所条件要介護度3以上で、待機高齢者はどうなった?
第39回:お泊り付デイサービスがグレー化するリスク
第40回:劣悪化する介護事業の原因の一端は、低所得高齢者政策の欠如に
第41回:住宅型有料老人ホーム事業がグレーからブラック化する前に
第42回:独居高齢者・高齢者夫婦世帯の増加で困難になる在宅介護・家族介護
第43回:国・自治体の介護行政無策のしわ寄せが介護事故・事件を招く
「第4章 在宅介護サービスの使い方」
第44回:上がり続ける介護保険料。介護保険制度の基本を知る①
第45回:介護報酬・介護保険サービス料の基礎知識。介護保険制度の基本を知る②
第46回:要介護認定の仕組み・手続きと認定調査
第47回:要介護認定システムの客観性・信憑性問題による認定率格差と介護給付格差
第48回:要介護度レベルと認定方法の簡素化の余地がある介護保険法
第49回:ケアマネジャーが介護生活の質を左右する
第50回:生活援助サービスの短縮化・低下は已むを得ないか?
第51回:デイサービス、デイケア、ショートステイの利用法
第52回:介護サービスを受けるために欠かせない「地域包括支援センター」の役割
第53回:介護保険サービスの適用範囲、基準の難しさ
第54回:自費負担の介護保険外サービスが増えるのは、やむを得ない?
第55回:トラブルを避けるための介護サービスに関する「苦情」相談とコミュニケーション
「第5章 施設と在宅介護」
第56回:地域包括ケアシステムの基本にある仕事以外の要素
第57回:責任回避の自助・互助介護政策化。公的サービス責任が先
第58回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(1)
第59回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(2)
第60回:養護老人ホーム・軽費老人ホーム(ケアハウス)の再編成を!
第61回:入居介護施設の選び方
「第7章 介護士不足の問題」
第15回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第16回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第17回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第18回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第19回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
第20回:外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて
第21回:元気な高齢者が介護業務を補完する
第22回:高齢者介護士活用のポイント
第23回:他産業との賃金格差、人
「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」へ
第5回:多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
第7回:これからの混合介護のあり方を考える
第8回:介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回:介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回:福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回:複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性
第14回:介護制度コストと介護職賃金は社会投資か?