在宅系看護師不足が示す、在宅介護の困難さと同様の在宅医療:『在宅介護』<医療と介護は表裏一体>から(13)
良書 『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』
(結城康博氏著・2015/8/20刊)
を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。
「第6章 医療と介護は表裏一体」
第1回:ある日突然のケガ・病気からの介護が・・・
第2回:地域包括ケアを知っておきましょう
第3回:医療療養型、介護療養型、回復期リハビリ、地域包括ケア病棟etc.
第4回:同じ医療行為でも、看護師と介護士で料金が違うことの疑問
第5回:服薬管理、口腔ケアは、看護師・介護士の高齢者ケアの基本
第6回:回復期病棟から戻って考える施設介護と在宅介護
第7回:リハビリ実体験で思う在宅介護高齢者の自宅リハビリの必要性
第8回:福祉用具・介護ベッドの介護保険適用レンタルサービスは守るべき!
第9回:介護報酬のジレンマ、予防介護で高齢者超長寿命化のジレンマ?
第10回:介護予防で健康寿命が延びると介護給付を抑制できるか?
第11回:在宅介護政策へ誘導するための「介護と最期は自宅で」高齢者意識調査
第12回:介護施設での看取りが年々増加
今回は、第13回(通算74回)です。
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4.在宅介護と看取り(3)
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<医療と介護の連携>
筆者(結城氏)もかつてケアマネジャーとして、要介護高齢者の主治医との打ち合わせを重視
していた。ただし、医師も診療時間があり多忙を極めている。しかも、ケアマネジャーやヘルパ
ーと打ち合わせしても、直に収入として見返りはないため、その時間を割くのに消極的な医師も
珍しくない。
幸い、筆者が担当していた高齢者の主治医は、地域医療・介護に精通しており、ケアマネジャ
ーとの打ち合わせを重視していたので、連携には困らなかった。
もっとも、筆者が働いていた地域は、地域医師会と自治体が医療・介護連携に積極的に取り組
むことを確認し、地域医師会が組織的に「ケアマネタイム」を設けるように会員の医師に働きか
けていた。
具体的には、週2~3回は、必ずケアマネジャー等の介護従事者のために診療後に時間を30分
ほど割くような勧めが医師会からなされていた。
医療と介護の連携となると、どうしても医師個人の属人的な取組み頼りになりがちで、組織も
しくはシステムとしては稼働せず、普遍的な仕組みになりにくい。その点では、市町村と地域医
師会との協力などが重要になってくる。
<供給不足は否めない>
医療と介護の連携において、サービス基盤を整備することは不可欠である。
たとえば、在宅療養支援診療所及び訪問介護ステーションといった在宅医療資源を増やしてい
くことが重要である。たしかに、すでに述べた在宅療養支援診療所は増加傾向にあり、2012年度
には「連携強化型在宅支援診療所」を合わせると総計1万3758か所の届け出となっている。
ただし、そのうち12年度現在で看取りを行っているのは約半数にすぎない。
訪問介護ステーションも同様であり、看護師などのマンパワーは、「病院系」と「在宅系」に
大きく分類した場合、圧倒的に在宅系の看護師が不足している。いくら医療職や看護職の連携シ
ステムが構築されたとしても、在宅系の医療サービス自体が整備されていなければ、在宅医療・
介護を推し進めることは難しい。
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居住型施設介護から在宅介護へ大きく舵を切ることは、在宅医療のニーズもそれに
従って増えることを意味します。
在宅介護主義は、家族の負担を増やすのはもちろんですが、訪問介護の専門職の負
担も増やします。効率も悪化し、その事業を収益化できる事業所は限られてきます。
在宅医療も同様に、看護師の確保とその事業所の組織化、運営上の効率化などの問
題を抱えることになります。
その対策には、相当の賃金で報いるしか、手立てがない・・・。
決して大げさでなく、極論でもなく、本来、労働力の需給バランスを考えると、そ
うなるのが自然なのですが、それでも人材不足は常態化したままでしょう。
24時間体制で、交替勤務制か、夜勤専門スタッフを採用配置するか・・・。
看護師の給与はそれなりに高額になるでしょうが、それでも、在宅医療系での採用
は改善は期待できない・・・。
介護士になると、ハードな勤務の上に低い賃金・・・。
医療と介護の連携。
業務の流れや関係の在り方を一言でいえばそのように簡単に表現はできます。
しかし、それは、双方の専門職資源があってこそのものです。
理想を語り、理想を制度で実現しようとするのは間違いではないですが、その実務・
現場を担う人を、右から左に融通できるのか・・・。
その心根の優しい人々の善意に勝手に期待・依存すれば、めざすシステムが形成・維
持できるのか・・・。
方針・政策・制度を企画し、法制化する為政者・行政は、自分ならばどうかを常に考
えた上で、その責務を果たすべき・・・。
基本中の基本と思うのです。
人権は、介護・看護を受ける人だけのものではなく、介護・看護に携わる人にもある。
その基本を認識すべきなのです。
※次回は、<患者や家族の意識> です。
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「序章」
第1回:『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
「第1章 在宅介護の実態」
第24回:介護離職の根本原因としての在宅介護
第25回:親の介護と愛情の持ち方、表現の仕方
第26回:在宅介護を支える訪問介護・居宅介護サービス介護士の負担
第27回:実現困難な理想としての介護サービスは一面、非人間的
第28回:在宅介護が困難な場合の介護サービス付き高齢者住宅、サ高住
第29回:厚生年金でほぼ賄える「サ高住」が理想
第30回:「小規模多機能型居宅介護」という名称自体、分かりにくい
第31回:(看護)小規模多機能型居宅介護事業は、小規模では成り立たない
第32回:だれでも、どこでも、いつでもできる介護サービス事業か?
「第2章 家族介護の限界」
第33回:企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第34回:介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第35回:企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度
第36回:パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ
第37回:介護虐待で考える、介護者・要介護者の人権
第38回:特養入所条件要介護度3以上で、待機高齢者はどうなった?
第39回:お泊り付デイサービスがグレー化するリスク
第40回:劣悪化する介護事業の原因の一端は、低所得高齢者政策の欠如に
第41回:住宅型有料老人ホーム事業がグレーからブラック化する前に
第42回:独居高齢者・高齢者夫婦世帯の増加で困難になる在宅介護・家族介護
第43回:国・自治体の介護行政無策のしわ寄せが介護事故・事件を招く
「第4章 在宅介護サービスの使い方」
第44回:上がり続ける介護保険料。介護保険制度の基本を知る①
第45回:介護報酬・介護保険サービス料の基礎知識。介護保険制度の基本を知る②
第46回:要介護認定の仕組み・手続きと認定調査
第47回:要介護認定システムの客観性・信憑性問題による認定率格差と介護給付格差
第48回:要介護度レベルと認定方法の簡素化の余地がある介護保険法
第49回:ケアマネジャーが介護生活の質を左右する
第50回:生活援助サービスの短縮化・低下は已むを得ないか?
第51回:デイサービス、デイケア、ショートステイの利用法
第52回:介護サービスを受けるために欠かせない「地域包括支援センター」の役割
第53回:介護保険サービスの適用範囲、基準の難しさ
第54回:自費負担の介護保険外サービスが増えるのは、やむを得ない?
第55回:トラブルを避けるための介護サービスに関する「苦情」相談とコミュニケーション
「第5章 施設と在宅介護」
第56回:地域包括ケアシステムの基本にある仕事以外の要素
第57回:責任回避の自助・互助介護政策化。公的サービス責任が先
第58回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(1)
第59回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(2)
第60回:養護老人ホーム・軽費老人ホーム(ケアハウス)の再編成を!
第61回:入居介護施設の選び方
「第7章 介護士不足の問題」
第15回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第16回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第17回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第18回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第19回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
第20回:外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて
第21回:元気な高齢者が介護業務を補完する
第22回:高齢者介護士活用のポイント
第23回:他産業との賃金格差、人
「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」へ
第5回:多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
第7回:これからの混合介護のあり方を考える
第8回:介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回:介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回:福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回:複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性
第14回:介護制度コストと介護職賃金は社会投資か?