介護予防で健康寿命が延びると介護給付を抑制できるか?:『在宅介護』<医療と介護は表裏一体>から(10)
良書 『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』
(結城康博氏著・2015/8/20刊)
を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。
「第6章 医療と介護は表裏一体」に入っています。
第1回:ある日突然のケガ・病気からの介護が・・・
第2回:地域包括ケアを知っておきましょう
第3回:医療療養型、介護療養型、回復期リハビリ、地域包括ケア病棟etc.
第4回:同じ医療行為でも、看護師と介護士で料金が違うことの疑問
第5回:服薬管理、口腔ケアは、看護師・介護士の高齢者ケアの基本
第6回:回復期病棟から戻って考える施設介護と在宅介護
第7回:リハビリ実体験で思う在宅介護高齢者の自宅リハビリの必要性
第8回:福祉用具・介護ベッドの介護保険適用レンタルサービスは守るべき!
第9回:介護報酬のジレンマ、予防介護で高齢者超長寿命化のジレンマ?
その第10回(通算71回)です。
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3.老人保健施設とリハビリテーション(5)
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<健康寿命と平均寿命>
男性の「平均寿命」は79.55歳、女性86.30歳であるが、日常生活に支障の
ない「健康寿命」は、男性70.42歳、女性73.62歳となっている。(2015年)
つまり、平均寿命が延びたにしても、健康寿命との差を2001年と2010年と
で比べると、介護等何らかの支援が必要となる期間が延びている。
いくら医療技術が発達することで平均寿命が延びても、健康寿命との差が
拡大してしまうと、「生活の質」という視点ではデメリットとなる。
「介護」を考える際には「平均寿命」と「健康寿命」との差をいかに縮小さ
せていくかが大きなポイントである。
「介護予防」は、これらの差を縮小させていくことを目的に考えなければ
ならない。
介護予防を促進することによって、将来の介護保険支出の伸びをいくらか
でも緩やかにすることも可能かもしれない。
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健康寿命とは?
ヒトが心身ともに健康で自立して活動し生活できる期間。
平均寿命が、この世に生を受けてからどれだけ生きられるかという個体の命の
長さを表すのに対して、健康寿命は、クオリティ・オブ・ライフという考え方に
根ざして、ヒトがどれだけ健康で豊かに生きられるかを表す指標。
「健康で自立して活動し生活できる期間」とは、具体的には、自力で食事、排泄、
入浴、更衣、移動などの日常生活動作(ADL:activities of daily living)が可能で、
かつ認知症などを伴わずに自分の意思によって生活できる期間。
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上の定義によると、結局、介護を必要としない状態が健康としているわけです。
ですから、介護状態になる時期・年齢をできるだけ遅らせるのが、介護予防の
目的と言えます。
しかし、仮に遅らせても、平均寿命と健康寿命の差の期間が伸びると、かえっ
て介護を必要とする期間も延びることに・・・。
昨年2015年までの年次ごとの平均寿命の推移は、厚労省データでは、以下の
表のようになっています。
今年発表された平均寿命は、上記の本文中の2010年の数値をはるかに上回り、
女性が87.05歳、男性は80.79歳。
男性が80歳代に乗ったのは、2013年です。
また平均寿命と健康寿命両方の、トレンドは、以下のとおりです。
2001年(平成13年)と2010年(平成22年)との健康寿命との差は、女性が12.28年
から12.68年に伸び、男性は8.67年から9.13年に伸びました。
「介護予防を促進することによって、将来の介護保険支出の伸びをいくらかでも
緩やかにすることも可能かもしれない。」と筆者は淡い期待を寄せていますが、
これまでのところそのようには行っていません。
介護予防促進策は、最近になってのことで、成果が上がるかもしませんが、そ
れは、必ずしも介護を必要とする期間を短縮するものではない。
私はそう考えています。
健康寿命との差が、縮まる方が良いとはいいますが、仮に前年比でその差が
多少短縮されても、高齢者の絶対数の増加は止めようもないので、介護給付の
増加抑制も多分、さほど効かないでしょう。
いずれにしても、健康寿命が延びれば平均寿命も延び、結果、要介護期間も
その反動で反対に延びる可能性が高いのではないでしょうか。
その上、そのため団塊の世代の超高齢化で、要介護人口は増え、要介護度が
重い高齢者も増えます。
結局介護給付が増える、というジレンマ、サイクルからは、脱することは
できないと考えます。
これからの平均寿命の延びの予測は、以下のようになっています。
繰り返します。
介護予防・予防介護で、なんとなく介護給付を抑制できるかのように思うのは、
幻想です。
元気な高齢者が増えるでしょうが、要介護状態になるのを少し先に延ばし、要
介護期間も短くならずに、かえって、平均寿命の伸びで長くなる。
そして年金支給年数・月数も伸び、介護給付も増える。
ジレンマは断ち切れません。
このブログで、
『もう親を捨てるしかない 介護・葬式・遺産は、要らない 』
(島田裕已氏著・2016/5/30刊)を紹介していますが、
その第2章が「日本人は長生きし過ぎる」というテーマ。
⇒ 『もう親を捨てるしかない』シリーズ
長寿はめでたいことなのか・・・。
どうも、今の若い世代や子どもたちの世代の将来を考えると、単純に喜んでい
られる状況ではないと、つくづく思ってしまいます。
さて、どうしたものでしょうか・・・
※次回から、次節「在宅介護と看取り」に入ります。
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『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』ブログリスト>>>
「序章」
第1回:『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
「第1章 在宅介護の実態」
第24回:介護離職の根本原因としての在宅介護
第25回:親の介護と愛情の持ち方、表現の仕方
第26回:在宅介護を支える訪問介護・居宅介護サービス介護士の負担
第27回:実現困難な理想としての介護サービスは一面、非人間的
第28回:在宅介護が困難な場合の介護サービス付き高齢者住宅、サ高住
第29回:厚生年金でほぼ賄える「サ高住」が理想
第30回:「小規模多機能型居宅介護」という名称自体、分かりにくい
第31回:(看護)小規模多機能型居宅介護事業は、小規模では成り立たない
第32回:だれでも、どこでも、いつでもできる介護サービス事業か?
「第2章 家族介護の限界」
第33回:企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第34回:介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第35回:企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度
第36回:パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ
第37回:介護虐待で考える、介護者・要介護者の人権
第38回:特養入所条件要介護度3以上で、待機高齢者はどうなった?
第39回:お泊り付デイサービスがグレー化するリスク
第40回:劣悪化する介護事業の原因の一端は、低所得高齢者政策の欠如に
第41回:住宅型有料老人ホーム事業がグレーからブラック化する前に
第42回:独居高齢者・高齢者夫婦世帯の増加で困難になる在宅介護・家族介護
第43回:国・自治体の介護行政無策のしわ寄せが介護事故・事件を招く
「第4章 在宅介護サービスの使い方」
第44回:上がり続ける介護保険料。介護保険制度の基本を知る①
第45回:介護報酬・介護保険サービス料の基礎知識。介護保険制度の基本を知る②
第46回:要介護認定の仕組み・手続きと認定調査
第47回:要介護認定システムの客観性・信憑性問題による認定率格差と介護給付格差
第48回:要介護度レベルと認定方法の簡素化の余地がある介護保険法
第49回:ケアマネジャーが介護生活の質を左右する
第50回:生活援助サービスの短縮化・低下は已むを得ないか?
第51回:デイサービス、デイケア、ショートステイの利用法
第52回:介護サービスを受けるために欠かせない「地域包括支援センター」の役割
第53回:介護保険サービスの適用範囲、基準の難しさ
第54回:自費負担の介護保険外サービスが増えるのは、やむを得ない?
第55回:トラブルを避けるための介護サービスに関する「苦情」相談とコミュニケーション
「第5章 施設と在宅介護」
第56回:地域包括ケアシステムの基本にある仕事以外の要素
第57回:責任回避の自助・互助介護政策化。公的サービス責任が先
第58回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(1)
第59回:施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(2)
第60回:養護老人ホーム・軽費老人ホーム(ケアハウス)の再編成を!
第61回:入居介護施設の選び方
「第7章 介護士不足の問題」
第15回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第16回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第17回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第18回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第19回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
第20回:外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて
第21回:元気な高齢者が介護業務を補完する
第22回:高齢者介護士活用のポイント
第23回:他産業との賃金格差、人
「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」へ
第5回:多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
第7回:これからの混合介護のあり方を考える
第8回:介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回:介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回:福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回:複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性
第14回:介護制度コストと介護職賃金は社会投資か?