パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ:『在宅介護』<家族介護の限界>から(4)

介護業界の方々と、介護者・要介護者、介護に関心をお持ちの方々に是非
ともお読み頂きたい書。
在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』(結城康博氏著・2015/8/20刊)

これをもとに本書を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズを構成順を
変えて継続しています。。

1月は、基本的な視点・課題に立ち戻って「第1章 在宅介護の実態」シリーズ。
2月は、「第2章 家族介護の限界」をテーマに。

第1回(第33回):企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第2回(第34回):介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第3回(第35回):企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度

今回は第4回(第36回)です。

第2章 家族介護の限界
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 2.パラサイトシングル介護者(1)
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<家族介護と親の年金>

介護離職」を決意してまで、親の介護に専念する家族介護者が増えている
中、逆に親の介護を理由に仕事を辞めて親の年金を頼りにする家族も増え始
めている。

このような家族介護者は全体に占める割合は小さいが、公式データはないも
のの増加傾向にあることは介護現場の専門職から聞くだけでも明らかだ。

筆者は、このような家族介護者を「パラサイトシングル介護者」と呼ぶ。
このような家族介護者は、ひとり娘や息子に多く見られ、会社といった組織
では
人間関係の構築が難しく、親の年金で暮らしている傾向にある
しかも、親の介護に従事しているといっても、実際はあまり介護に携わらず
ひどいケースによっては「ネグレクト(介護放棄)」に近い状態の場合もあ
る。


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<面倒な息子や娘>

TTさん(83歳女性)は息子のTKさん(56歳)と二人暮らし。
夫が15年前に病死し、3年前から足腰が悪くなり要介護1に。
杖歩行で家事や身の回りのことが困難で、デイサービスと併せてヘルパーサ
ービ
スの利用を勧めたが、TKさんとケンカし、自治体職員でもあった筆者が
担当に。

このケースを引き継いだ際「TKさんは、ゴミ出し、食事作り、掃除、洗濯な
どは
自分がやるので、デイサービスのみの利用で構わない」と。
前任者からは「息子は自分で家事をやると言っているが、あまりやっていな
い。

杖歩行ながらTTさんがこなしている面がある。10年以上、母親が家事をやっ
てい
るので、要介護者になっても無理して家事をやっているようだ」と聞い
ていた。

たしかに、部屋の中はあまり掃除がされておらず、住環境も良いとは言えな
い。

TKさんによれば、「母親が要介護になったので、自分は仕事を辞め母親の身
の回
りのことをしている」と言う。
TTさんは、長年、公務員であったため、毎月、手取りで20万円程度の年金収
入が
ある。
息子のTKさんは、対人関係は少し苦手な感じで、すぐに感情的な物言いをす
る。

特に、母親には強い口調で話す。

(略)息子は転職を繰り返し50歳まで落ち着かなかったが、TTさんが要介護
状態
になると仕事を一切やめてしまった。
何とか親子二人自分の年金で生計は営める。
多少の問題はあるが、身にまわりの一部を手伝ってくれるので、とりあえず
今の生
活でよいと、毎月、お小遣いとして4万~5万円ぐらいをあげていると
いう。

再度、ヘルパーサービスを勧めると、「息子が、ヘルパーを頼んだら費用も
増え
るし、定期的に人が家に来ると面倒だから反対する。私が我慢していれ
ばいい」と、
応じてくれなかった。

もしTTさんが独り暮らしであれば、一定の年金受給額もあることから多くの
サービ
スを利用できたであろう。
しかし、他人から見れば親不孝な息子と評されても、息子を愛する母親の心
境は複
雑なのかもしれない。

このような親子は息子に限らず、母娘関係でも存在する。
担当したケースでは、50代後半の娘が80歳の母親を看ていたが、中途半端
な介護で
同じく親の年金を当てにして暮らしていた。

しかも、このような子どもらは、親の施設入所には必ず反対する。
もし、施設に入所すれば年金が施設の入居費用になり、自分の生活が難しく
なるか
らだ。
在宅介護における家族関係の複雑さというものを改めて考えさせられる。


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40になっても、50になっても、あるいは60、70になっても親と子どもの関
係は断ち切れない・・・。
断ち切る必要はなくても、成人した大人ならば、自立した生活を送ることが
社会生活上の基本中の基本。

どうも、現代社会は、こうしたコモンセンスが通じない社会。
やはり、一億モラトリアム社会化に歯止めが効かなくなっているわけです。

毎月20万円も年金を受給できる元公務員。
その年金原資の多くは、税金でもあるわけです。
対人関係が苦手だからという理由で働くことを拒絶し、パラサイト生活を
送る大人。
そうした人が働くようには、だれも強制できない社会。
対人関係が苦手ならば、その必要がない仕事もあるはず・・・。

個人的には、犯罪者を含め、社会的な責任を果たすために、労働義務を科し
て、個人が負担すべき公共的・社会的コストに充当できる法制があってもよ
いと思うのですが・・・。

そうすると、人権とか、人道的に、とかいう表現が前面にでてくることに・・・。
そこでの、人権や人道とは、どこに基準・規範を置くものなのか・・・。

基本的に弱者のための社会福祉制度があり、可能ならばそこからの脱却を支
援し、本人も努力することに理念・目的もあるはず。

ただ、好き嫌い、苦手、逃避という個人の感情の範疇での判断・行動には、
それらを矯正する制度・規範も必要と考えるのですが・・・。
それを言うのは、タブーなのでしょうか・・・。

 

次回、<高齢者虐待の危険> に続きます。

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