嫁にとっての強制労働「選べない介護」と在宅介護の変化:『おひとりさまの最期』から(11)


おひとりさまの最期(上野千鶴子さん著・2015/11/30刊)
本書を紹介しながら、介護や医療と向き合うことが避けられない高齢者の、
人生の終末期に向かっての生き方、暮らし方、そして次の世代への橋渡し
などについて考えるシリーズです。


「第1章 み~んなおひとりさま時代の到来」
第1回
塊世代の高齢化プロセス・おひとりさま化プロセスの違い
第2回ライフステージに必須のおひとりさまステージと予備軍ステージ
第3回:止めようもない「おひとりさま」急増社会
第4回:「子との同居」は余計はお世話
第5回:超高齢社会で日常化した高齢逆縁、離別等おひとりさま形態の多様化
第6回:孤独・孤立背中合わせの高齢者の貧困独居生活
第7回:高齢者は、主観とエゴでなく客観と社会性をもつ暮らしを

「第2章 死の臨床の常識が変わった」
第8回:看取り、看取られ。悔いのないよう日々大切に
第9回:施設看取りの環境・状況の現実は?
第10回:死の臨床のあり方を自ら決めることができたらどうしますか?

今回は、第11回です。

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 2.死の臨床の常識が変わった(4)
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在宅死が増える?

さて在宅死です。
「死の病院化」によって急速に日本人の死に場所が在宅から病院へと移行した
のち、最近になってこの傾向に逆流が起きるようになってきました。
とはいえ、在宅死の割合はなかなか増えません。
「死ぬのは病院で」と、いったん定着した「常識」をくつがえすのはむずかし
そうです。

在宅死といっても、昔とは全然ちがいます。
以前の在宅介護は医療水準の低いものでした。
寝たきりになれば褥瘡があるのはあたりまえ(それにしても「褥瘡じょくそう」
などとむずかしいことばを日本人がふつうに使う時代が来るとは。
でもインドネシア人やフィリピン人の介護士さんに活躍してもらうなら、「褥
瘡」という代わりに「床ずれ」と言ったほうがわかりやすいのですけれどね)

衛生水準も栄養水準も高くないので、褥瘡はどんどん悪くなり、そこから雑菌
が入ればあっというまに感染症で亡くなってしまう・・・・・
在宅介護そのものが、長期化しませんでした。
介護負担が重くなったのは、介護の水準も上がり期間も長期化したから。
逆にいえば、重度の要介護になっても、手厚い介護で長期にわたって生かして
もらえるようになったからです。

それだけではありません。
在宅介護を可能にしたのは介護力がある家族が同居していればこそ。
その介護資源とは嫁のことでした。
同居の舅姑が要介護になればそのお世話は自動的に嫁にふりかかりました。
いやもおうもありません。

選べない介護」は強制労働です。
メアリ・デイリーという外国人のケア研究者の本にそう書いてありました。
「選べない介護」は強制労働(forced labor)である、と。
すごい表現ですね。
強制労働は強制収容所だけにあるのではありません。
家族のただなかにだって、あるのです。

嫁は介護資源ではなくなりつつあります。
ここしばらくの間の急速な変化です。
樋口恵子さんは、介護力としての「嫁絶滅種」宣言をなさいました。

各種の調査では、自分が要介護になったときに望ましい「家族介護者」の続柄
は、トップが配偶者、二位が娘、三位がなんと息子です。
嫁より息子が上位に登場しました。
嫁はもともと赤の他人ですから、舅姑と嫁とは、互いに介護したくない/介護
されたくない関係。

とはいっても、在宅介護が可能なのは、家族に加えて他人の手が入る、という
介護保険があればこそ。
いまはプロの介護が受けられます。
必要なら訪問看護や訪問医療もあります。
昔の在宅とは、まったくちがうものになっています。

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※次回に続きます。

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「要介護になったときに望ましい「家族介護者」の続柄
は、トップが配偶者、二位が娘、三位がなんと息子です。」

とありますが、配偶者は当然のこととして、娘・息子が同居状態にあるのか、別居
状態でも望むのか、その状況について触れていないので、単なる願望としか言えな
い回答という側面があるような気がします。

在宅介護に関する記述なので、実際のところ単身独居高齢者と高齢者夫婦世帯を除
いて、その時の同居世帯状況によって、自ずと在宅介護の家族要素は決まることに
なります。

ただ、最近は、独身の息子・娘と同居する高齢者が多いため、現実的に、娘・息子
に介護をしてもらうことが可能であり、ある意味当然になりつつあることを、その
回答が物語っていると言えます。

子どもが形成した家族との同居が減れば、自ずとそうなるわけで、意外なことでは
ないと思うのですが・・・。

以下のグラフで、はっきりそうした世帯構成の変化が読み取ることができます。
そこから、嫁が介護を担当する世帯自体が、現実的に大きく減少していること、こ
れからも減り続けるであろうことも予想されます。
65歳以上世帯構成2013

65歳以上世帯構成推移

それよりも、65歳以上の親と未婚の子の世帯構成が増え続けていることから、別
のブログサイト<世代通信.net>でシリーズ化している『下流老人』で、いま紹介し
ている、だれもがなり得る「下流老人」リスクが浮かび上がります。
こちらを併せてチェックして頂ければと思います。
⇒ 『下流老人』の今と明日

次回は、死の臨床の常識が変わる です

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-『おひとりさまの最期』構成-
1.み~んなおひとりさま時代の到来
2.死の臨床の常識が変わった
3.在宅死への誘導?
4.高齢者は在宅弱者か?
5.在宅ホスピスの実践
6.在宅死の条件
7.在宅ひとり死の抵抗勢力
8.在宅ひとり死の現場から
9.ホームホスピスの試み
10.看取り士の役目
11.看取りをマネージメントする
12.認知症になっても最期まで在宅で
13.意思決定を誰にゆだねるか?
14.離れている家族はどうすればよいのか?
15.死の自己決定は可能か?
16.死にゆくひとはさみしいか?

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