
特養入所条件要介護度3以上で、待機高齢者はどうなった?:『在宅介護』<家族介護の限界>から(6)
介護業界の方々と、介護者・要介護者、介護に関心をお持ちの方々に是非
ともお読み頂きたい書。
『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』(結城康博氏著・2015/8/20刊)
本書を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。
2月は、「第2章 家族介護の限界」をテーマに。
第1回(第33回):企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第2回(第34回):介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第3回(第35回):企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度
第4回(第36回):パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ
第5回(第37回):介護虐待で考える、介護者・要介護者の人権
今回は第6回(第38回)です。
「第2章 家族介護の限界」
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3.施設は利用しづらい(1)
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<待機者問題>
よくマスコミ報道を通して特別養護老人ホーム(特養)の待機者が、全国で
52万人と耳にする。
あえて在宅介護を選択している高齢者や家族がいる反面、特養に入所待ちし
ながら在宅介護を余儀なくされている要介護者や家族も多い。
特養は、数ある介護施設の中で介護保険制度が適用され比較的経済的負担も
軽く、一度、入所すれば重篤な病を患わない限り一生施設で生活できるため、
非常に人気の高い介護施設となっている。
筆者は、大学で福祉人材の養成に携わっているが、毎年、実習生指導のため
千葉県、埼玉県、東京都といった地域を中心に十数カ所の特養を訪問する。
その際に学生指導と併せて職員に入所待機者の状況を聞くのだが、名簿上は
200人から300人が待機者リストに載っているという。
もっとも、順番が回ってきて施設での入所判定会議を経て入所が可能になっ
たとしても、入所を見送る高齢者や家族も少なからずいるという。
「今は、在宅で頑張れるので、次の人に譲る」「今、高齢者住宅で落ち着い
ているので、暫くして考える」「すでに有料老人ホームに入所したので、特
養の入所はやめにする」といった理由で、入所が可能であったも断るのだ。
厚労省の補助金事業である医療経済研究機構による「平成22年度特別養護老
人ホームにおける入所申込の実態に関する調査」によれば、「現在の生活は
困難であり、すぐにでも入所が必要11.3%、入所の必要があるが最大1年程度
現在の生活継続可能28.2%」という結果が公表されている。
先の約52万人という統計と照らし合わせて考えると、すぐにでも特養の入所
が必要な要介護高齢者は、約5万人程度と推計される。
また、同じく補助金事業である野村総合研究所による「特別養護老人ホーム
における入所申込者に関する調査報告」によれば、入所申込者がもっとも多
いのが自宅であり、その次に老人保健施設となっている。
また、新規の入所申込者が実際の入所に至る平均期間は1年3か月となって
いる。
特養の入所にあたっては要介護度や家庭環境などが考慮されるため、一概に
申込み期間を評価することはできないが、少なくとも申し込んでから一年程
度の期間は必要となる。
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2015年4月から、特養への入所要件が、要介護3以上と改定されたため、2014年
以前の特養関係の調査は、やや意味がないものになってしまった感があります。
上のデータは、厚労省が発表した、2014年3月末時点での集計です。
昨年の改定をこのデータで適用すると、要介護2以下の人数を引きますから、
全体合計が、約34万5千人と、一気に減ります。
それにしても、要支援レベルでも入所ができた方は、非常に恵まれていたわけ
ですが、改定後もそのまま入居していることは可能なんでしょうね?
要介護3以上という条件については、やむを得ないかな、と思います。
ただ、要介護度の数字は、個人個人で実際の介護の程度、困難なレベルは違う
ので、そのまま見過ごすことには問題が残ります。
数字にあるように、在宅で介護をしている家族介護者の一部には、介護離職を
余儀なくされた方も多々いるのではと推察されます。
介護離職を防止するための最良の策は、軽費で利用可能な居宅型介護施設を増
やすこと、というのが、私が一貫して主張しているものです。
ところで、文中の医療経済研究機構による「平成22年度特別養護老人ホームに
おける入所申込の実態に関する調査」報告の中に、以下のデータもありました。
家で介護を受けている高齢者の意見を聞く質問に対する回答です。
一般的には、高齢者の多くが施設に入ることを嫌い、自宅で介護を受けたい
と思っている、とされている感じがしていたのですが、そんなに極端ではな
いではないことがこの数字から読み取れます。
家族の負担を懸念・心配する人も多いんですね。
(もちろん自身の体を気遣っての回答も多いですが)
それから、こんなデータも。
ここからも、同様の傾向、意向が読み取れます。
ですから、あとは、経費面を含め、適切な施設があるかないかが大きな要素に
なってくるわけです。
(なお、野村総研の調査は、医療経済研究機構の1年前のもので、古過ぎるので
引用することはやめました。)
次回、<地域間格差> に続きます。
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