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自分のサイフを持つようになった年金受給高齢者。年金制度の現状を確認:『おひとりさまの最期』から(16)

おひとりさまの最期上野千鶴子さん著・2015/11/30刊)
本書を紹介しながら、介護や医療と向き合うことが避けられない高齢者の、
人生の終末期に向かっての生き方、暮らし方、そして次の世代への橋渡し
などについて考えるシリーズです。

「第3章 在宅死への誘導」
第15回:社会学者の社会責任論の一面性・一義性への疑問

今回は第3章の第2回、通算第16回です。

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 3.在宅死への誘導?(2)
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年金がもたらした年寄りのサイフ

 高齢者の社会保障は次のような要因で成り立っています。
年金、医療、介護は3本の柱。
中心に居住があります。
居住福祉(住まいの確保)はとても大事ですが、それがこれまで語られて

こなかった理由と、重要性が浮上した要因についてはあとから論じましょう。

 年金、医療、介護は、いずれも日本では共済制度、つまり保険によってい
ます。
 国民年金保険、国民健康保険、介護保険です。
 介護保険だけ、「国民」とついていないことに注意しましょう。
 介護保険は最初から加入者を国籍条項で制限しませんでした。
 一定の条件を満たした定住外国人も、保険料さえ納めれば、介護保険の利
用者になれるように制度設計がしてあります。
 年金保険と健康保険とは、成立したときには国籍条項で外国籍の住民を制
度から排除していましたが、あとから条件が緩和されるようになりました。

 この3つの保険制度が整備されていることは、日本が諸外国に対して誇っ
てよいことのひとつです
 もちろん保険ではなくすべてを税で負担する、うらやむべき社会も外国の
一部にはありますが、それも高負担とひきかえ。
 相対的に見れば、日本の高齢者福祉の水準は決して低くはありません
 むしろ最近では、現役世代よりも高齢世代が厚遇されている、と批判を浴
びているくらいです。

 年金制度が整備されたことは、高齢者と子世代の関係を変えました。
 高齢者が子世代とは別のサイフを持てるようになったからです。

 それまでは家族というのは家計を共同すること(つまりサイフがひとつ)
が前提でした。

 戦前なら年寄りが家計を握って離さず、公然・隠然の権力を握っていたと
いうこともありましょうが、それもまだ元気なうち、50代や60代に死ねた
時代の話。
 こんな長寿社会になって、認知症になり寝たきりになってお世話を受ける
年齢まで長生きするようになると、子世代に実権をふるうなんてことはもは
やできません。
サイフがひとつなら家計管理権を子世代にゆずって隠居するのみ。
 つまり家のやっかい者になるほかありません。

 家計の共同とは、この場合、子どもの家計に依存することを意味します
同居していれば子どもの家計に組みこまれ、別居していれば子どもの仕
送りに頼る・・・・
 だからこそ頼る子どものいない高齢者ほど、みじめなものはなかったの
です。それがこれまでの高齢者でした。

 それに対して、年金制度とはいわば社会的仕送り制度です。
 これが個人的な仕送りだと考えてみましょう。
 毎月一定の金額が子ども名義の現金書留で届くと思えば、親は子どもに
頭が上がらなくなるでしょう。

 年金制度はそこに、子どもから独立した親のサイフをもたらしました。
 子どもに対して多少なりとも大きい顔をしていられるのも、孫に小づ
かいをやる楽しみを味わえるのも。ふじゅうぶんとはいえ、年寄りが自
分だけのサイフを持っているからこそ。
 中途同居の場合でも、親は年金という持参金つきで来てくれることに
なりますから、子世代にとって悪いことばかりではありません。
 それどころか、いまや親の年金にパラサイト(寄生)している子世代
すらいるくらいですから。
 親の年金がなくなると困るので、親が死んでも死亡届を出さないふら
ちな子世代がいるせいで、「消えた高齢者」のような事件も起きていま
す。

介護保険ができたときに、日本には「子が親を看る美風」があると言
って反対した政治家がいました。
 介護保険が日本の家族を壊す、というひともいました。
 自民党憲法改正草案にいうように「家族は、互いに助け合わなければ
ならない」としたなら、まっさきに年金を廃止すればよいでしょう。
 そうすればいやおうなしに、高齢者は子どもの家計に依存せざるをえ
なくなりますから。
 また家族をつくらなかったせいで、依存する子どものいない高齢者は
みじめな境遇に陥ることになり、それこそ保守系の人たちから「自業自
得」と言われるはめになるでしょう。

 ですが、高齢者福祉とは、歴史的に見てどの社会でも、現役世代が高
齢者にかかる負担を軽減したいという動機から発達してきたことは忘れ
ないでください。
 持ち重りのする老親の負担から、年金制度や介護保険制度の整備でよ
うやく肩の荷を下ろした、というホンネが、現役世代の政治的合意形成
のウラにはありました。

 この年金制度があるからこそ、医療保険も介護保険も成り立っていま
す。
 つまり高齢者に医療サービスや介護サービスを買う購買力がともなっ
ているからです。
 それがなければ医療保険も介護保険も成り立たなかったでしょう。

 この年金制度も人口構成の変化による財源問題や、世代間分配不公平
などの問題から、ゆらいでいます。

 これはこれで大問題なのですけれど、年金問題は専門家にまかせて、
ここでは医療と介護に問題をしぼりましょう。

4

次回に続きます。

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筆者は、公的年金制度全般を語るのではなく、国民年金保険にしぼって年金制度
とし、健康保険制度も国民健康保険制度に限定しています。
厚生年金保険や医療保険制度全般における一般の健康保険との違いについては、
何も触れていません。
そこに若干違和感を感じるのですが、女性高齢者の多くが、老齢基礎年金として
国民年金を受給し、医療保険も国民健康保険被保険者であろうという感覚で、述
べているのでは、と推察します。
年金受給で自分のサイフを持っている高齢者が実際どれだけいるのか?
平成25年の年金関連データから、以下をピックアップしました。公的年金加入者H25
↑ これは、ここ5年間の公的年金加入者数の推移です。
微減傾向が続くのは、若い世代の人口が減少していることと関係していると推測できます。
公的年金加入者H25(2)
↑ これは、平成25年度単年度における年金加入者数。
<第1号被保険者>が、いわゆる「国民年金保険」加入者ですね。
<第3号被保険者>が、種々問題になっている、夫(妻)が厚生年金加入し、その妻(夫)が
被扶養配偶者として一応国民年金保険に加入しているとみなされるケースの加入者です。
企業に勤務して厚生年金に加入する人と、公務員など共済組合に加入する人の<第2号被保険者>
の数が、<第1号被保険者>の倍近くいることがわかります。
公的年金受給者H25
↑ このグラフで、実際に自分のサイフ用年金を受け取っている高齢者がどれだけ
いるかがわかります。
◆公的年金受給者数(延人数)は、平成25年度末現在で6,800万人となっており、前年
度末に比べて179万人(2.7%)増加。
◆ 重複のない公的年金の実受給権者数は、3,950万人であり、前年度末に比べて8万人
(0.2%)増加。公的年金受給額H25
↑ この表は、年金給付の1年間の合計額の推移を示しています。
公的年金の支給総額(年金総額)は平成21年(2009年)度に50兆円に達し、
名目国内総生産(GDP)に対する割合が1割を超えました。
その多くが、何らかの形で消費に回るわけで、意義はそれなりにあるのですが、
その原資となる保険料を納める若い世代が減少していること、年金受給の世代間
格差が拡大していくことは現状間違いないことなど、問題は山積みです。
(参考)
◆年金制度体系については、こちらで
◆医療保険制度の体系については、こちらで
確認頂ければと思います。
やはりこれらのデータを見る限りでは、総体としては高齢者は恵まれている。
そう思います。

シニア2jpg

次回は、<医療・福祉改革のゆくえ> です。

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-『おひとりさまの最期』構成-
1.み~んなおひとりさま時代の到来
2.死の臨床の常識が変わった
3.在宅死への誘導?
4.高齢者は在宅弱者か?
5.在宅ホスピスの実践
6.在宅死の条件
7.在宅ひとり死の抵抗勢力
8.在宅ひとり死の現場から
9.ホームホスピスの試み
10.看取り士の役目
11.看取りをマネージメントする
12.認知症になっても最期まで在宅で
13.意思決定を誰にゆだねるか?
14.離れている家族はどうすればよいのか?
15.死の自己決定は可能か?
16.死にゆくひとはさみしいか?

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(投稿済みブログリスト)
「第1章 み~んなおひとりさま時代の到来」

第1回:
塊世代の高齢化プロセス・おひとりさま化プロセスの違い
第2回:ライフステージに必須のおひとりさまステージと予備軍ステージ
第3回:止めようもない「おひとりさま」急増社会
第4回:「子との同居」は余計はお世話
第5回:「超高齢社会で日常化した高齢逆縁、離別等おひとりさま形態の多様化
第6回:孤独・孤立背中合わせの高齢者の貧困独居生活
第7回:高齢者は、主観とエゴでなく客観と社会性をもつ暮らしを

「第2章 死の臨床の常識が変わった」
第8回:看取り、看取られ。悔いのないよう日々大切に
第9回:施設看取りの環境・状況の現実は?
第10回:死の臨床のあり方を自ら決めることができたらどうしますか?
第11回:嫁にとっての強制労働「選べない介護」と在宅介護の変化
第12回:救急病棟、ホスピス病棟、在宅ホスピス。臨床死のあり方を選択する終活?
第13回:老衰死させなくなった、しなくなった時代?
第14回:関連図書の変遷から見る、医療・看護・介護からの死の臨床


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(参考図書)

 






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