
介護報酬・介護保険サービス料の基礎知識。介護保険制度の基本を知る②:『在宅介護』<在宅介護サービスの使い方>から(2)
好著 『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』(結城康博氏著・2015/8/20刊)
を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。
5月は、「第4章 在宅介護サービスの使い方」を紹介しながら考えていきます。
第1回:上がり続ける介護保険料。介護保険制度の基本を知る①
今回は第2回(通算45回)です。
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1.介護保険における負担(2)
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<介護にいくらかかる?>
介護保険サービスの値段は、「介護報酬」と呼ばれ、原則、国(厚労省)が決
めることとなっている。
介護事業所が勝手に決めることはできない。
ただし、これら公定価格以下の設定は可能であるが、そのような料金体系に設
定する介護事業所はないであろう。
たとえば、在宅でヘルパーに1時間あたりケアしもらう料金は、保険が9割利く
ために1割の自己負担ですむ。(一定以上所得者は2割)。
いっぽうデイサービスにおいても同様であるが、保険外である食事代やおやつ
代、レクリエーションに伴う雑費は別途かかり、要介護度にもよるが1日1000円
以上の自己負担が生じる。
また、特養の費用に関しては、1日単位で介護報酬が決まっているが、食事代
や部屋代、光熱費は自己負担となる。
月ベースの自己負担額は、相部屋では約4~9万円、個室となると約11~15万円
程度が相場となっている。
低所得者には「細く給付」といって助成金が支給される場合もあるので、自己
負担額には幅がある。
なお、「補足給付」の活用は、課税対象か否かで決定されるが、単身ではさら
に預貯金1000万円以上、夫婦で2000万円以上のケースで利用できないこととな
っている。
<「加算」という仕組み>
なお、地域によって同じサービスでも価値が異なることがある。
東京と地方では物価も異なり賃金水準にも差があるため、都市部の方が若干、
介護報酬は高く去っていされている。
つまり、自己負担額が数十円単位で都市部のほうが高く設定されている。
また、介護報酬には、各サービスに応じて追加項目の値段が「加算」されて
いる。
たとえば、同じ介護士でも介護福祉士(国家資格者)の割合が大きいと新た
な料金設定がなされ、数十円単位の自己負担が課せられる。
国家資格を有した介護士が働いている介護事業所は、専門性が高いことから
サービスの質も良いと考えられ、高めの値段設定となるわけである。
また、昨今、介護士不足が深刻で介護士の賃金上乗せ分として「介護職員処遇
改善」という名目の「加算」が介護報酬の項目に設けられており、その分も自己
負担が加味され数十円の自己負担増となっている。
これは、介護士鼻息が深刻なため、要介護者にも賃金上昇のためにいくらかの
協力を得るという意味である。
<介護報酬マイナス改定>
この介護報酬は、そのまま事業所の収入に直結する。
2015年度の介護報酬改定は全体で2.27%のマイナス改定となった。
ここまら介護士の処遇改善分(賃金アップ分)などを差し引くと実質はマイナ
ス4.48%と大幅な引き下げ幅となった。
なお、2003年度マイナス2.3%、06年度マイナス2.4%(一部前倒し改定含む)、
09年度プラス3.0%(さらに介護士賃金補助分として、公費負担によって2%相当
分上乗せ)、12年度プラス1.2%(ただし、介護士賃金補助分の公費負担2%相当
分が削減)、14年度プラス0.63%(消費税増税による調整分)といったように、
これまで介護報酬改定は数回為なされているが、09年度のプラス改定以外は、
実質マイナス改定が続いている。
伸びつづける介護保険給付費によって、介護報酬(介護の値段)は下がり続け
ている。
なお、介護報酬がマイナス改定になることで、要介護者が利用する介護保険
サービスの値段が下がることとなり、1割自己負担である利用料も値下げとなる。
たとえば、1回ヘルパーにケアしてもらう「生活援助」の場合、自己負担は
介護報酬の1割であるため、2015年3月31日まで236円であったが、4月1日から
225円と11円安くなった。
また、当初、65歳以上が毎月支払う介護保険料が標準で5000円から5800円に
上がるところが、マイナス改定によって5500円と引き下げ額が緩やかになった。
※次項に続きます。
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ちょっと長くなりましたが、関連していたので、3つの項目を続けて紹介しました。
介護報酬は、要支援・要介護度の違いによって、決められています。
下の表が、介護保険で利用できる一般的な介護報酬限度額です。
一般的な利用者の自己負担額は、その1割ですから、ある意味、非常に恵まれた
制度と感じます。
残りの9割が、公費と保険料で充当されるわけですから、このままいけばその負
担が無尽蔵に増えていくことも容易に想像できます。
昨年2015年の介護保険改定から3年後、2018年の次の改定までもう2年を切りました。
当然、また何かしらの方法で、介護給付を抑制するための改定、マイナス改定が行わ
れるのではと思われます。
現に、2015年3月から、<要介護1>でサ高住に入居した義母は、今年の再認定で、
<要支援2>と厳しく変更され、利用介護給付額が抑制されるように、すなわち、
利用できる介護サービスが削減されることになりました。
保険改定ごとに、介護事業者も事業経営が難しくなるわけで、何やら、買い取り価格
を当初高めに設定し、参入を促した太陽光発電をついついイメージ・・・。
多数参入し過ぎて、高い買い取り費用を負担できなくなるから、利用者負担が増える
からと、相次ぎ価格引き下げに走っているというバカみたいなお話・・・。
安定収益が得られると思って多数参画した中小介護事業者。
少しずつ梯子を外され、次第に経営が厳しくなってきている業界構図が見えます。
利用者にとっても、保険適用されるサービスの範囲が狭まったり、限度額が抑制され
たり、と、これからの改定にはあまり期待を持てそうにありません。
次回からは、「2.在宅介護サービスを受けるには」 になります。
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「序章」
第1回:『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
「第1章 在宅介護の実態」
第24回:介護離職の根本原因としての在宅介護
第25回:親の介護と愛情の持ち方、表現の仕方
第26回:在宅介護を支える訪問介護・居宅介護サービス介護士の負担
第27回:実現困難な理想としての介護サービスは一面、非人間的
第28回:在宅介護が困難な場合の介護サービス付き高齢者住宅、サ高住
第29回:厚生年金でほぼ賄える「サ高住」が理想
第30回:「小規模多機能型居宅介護」という名称自体、分かりにくい
第31回:(看護)小規模多機能型居宅介護事業は、小規模では成り立たない
第32回:だれでも、どこでも、いつでもできる介護サービス事業か?
「第2章 家族介護の限界」
第33回:企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第34回:介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第35回:企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度
第36回:パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ
第37回:介護虐待で考える、介護者・要介護者の人権
第38回:特養入所条件要介護度3以上で、待機高齢者はどうなった?
第39回:お泊り付デイサービスがグレー化するリスク
第40回:劣悪化する介護事業の原因の一端は、低所得高齢者政策の欠如に
第41回:住宅型有料老人ホーム事業がグレーからブラック化する前に
第42回:独居高齢者・高齢者夫婦世帯の増加で困難になる在宅介護・家族介護
第43回:国・自治体の介護行政無策のしわ寄せが介護事故・事件を招く
「第7章 介護士不足の問題」
第15回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第16回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第17回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第18回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第19回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
第20回:外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて
第21回:元気な高齢者が介護業務を補完する
第22回:高齢者介護士活用のポイント
第23回:他産業との賃金格差、人
「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」へ
第5回:多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
第7回:これからの混合介護のあり方を考える
第8回:介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回:介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回:福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回:複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性
第14回:介護制度コストと介護職賃金は社会投資か?
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