
生活援助サービスの短縮化・低下は已むを得ないか?:『在宅介護』<在宅介護サービスの使い方>から(7)
良書 『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』(結城康博氏著・2015/8/20刊)
を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。
現在は、「第4章 在宅介護サービスの使い方」。
第1回:上がり続ける介護保険料。介護保険制度の基本を知る①
第2回:介護報酬・介護保険サービス料の基礎知識。介護保険制度の基本を知る②
第3回:要介護認定の仕組み・手続きと認定調査
第4回:要介護認定システムの客観性・信憑性問題による認定率格差と介護給付格差
第5回:要介護度レベルと認定方法の簡素化の余地がある介護保険法
第6回:ケアマネジャーが介護生活の質を左右する
今回はその第7回(通算50回)です。
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4.在宅介護サービスのあれこれ
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<在宅介護ヘルパーに聞く>
具体的な在宅介護サービスといえば、「ヘルパー(訪問介護)」サービスである。
専門の介護士が自宅に来てくれて、「掃除」「洗濯」「買い物」「排泄介助」
「入浴介助」など、生活支援から身体介護まで担ってくれる。
これがいわば在宅介護の基本的なサービスだ。
掃除、洗濯、買い物、住環境整備などのヘルパー支援を受けることで、独居高齢者
や老夫婦世帯の在宅生活が維持される。
かつての経験からいえることは、「腰をかがめて風呂やトイレ掃除をする」「牛乳
・トイレットペーパーなどの大きな買い物」などは、身体機能が低下した高齢者にと
って非常に負担となることだ。
2012年6月10日、愛媛県松山市の某訪問介護事業所を訪ね、責任者と数名の現役ヘ
ルパーに話を伺った。
介護保険制度が始まる前の措置時代(行政主体の介護サービス)からヘルパーの仕
事に従事しているベテランである。
愛媛県は離島も多く中山間地域が大部分で、松山市は県庁所在地であるため都市的
機能を有した数少ない地域である。
ただし、街中で訪問介護事業を展開していても、家族や本人は重度となれば施設志
向が強いようだ。
その事業所でも要介護度4といった重度の高齢者もケアはしているが、大部分は要
支援1~2、要介護度1~2といった軽度者が多いそうだ。
軽度のうちは在宅で生活を送り、重度になったら施設系サービスに入所というケー
スが多いという。
<生活援助サービスの短縮化>
介護保険のヘルパーサービスは、身の回りの生活を支援する「生活援助(家事援助)
」と、直に身体の介護をする「身体介護」に大きく分類されるが、ここ数年「生活援
助」のケア時間の短縮化が顕著となってきている。
従来、「生活援助」というサービスは最大90分まで保険内で保障されていたが、
2012年度の介護報酬改定以降は60分程度までしか認められなくなった。
松山市内であっても在宅介護生活を送っている高齢者には軽度者が多いため、多く
の要介護高齢者が生活援助サービスを利用していた。
適正な訪問介護計画を作成したとしても、従来のサービス時間90分程度の生活援助
サービスが必要なケースもあったのだが、60分程度しか保険で認められなくなった以
上、その範囲で計画を見直すしかなかったという。
具体的には、週3日の生活援助サービスを利用していた高齢者は、1回のケア時間
が90分から60分程度に短縮されたため、掃除や住環境整備といったケア時間を削っ
たようだ。
※次項に続きます。
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独居高齢者、高齢者夫婦世帯が、今後も増え続ける超高齢者社会で、こうした生活
援助サービスを、一割自己負担とはいえ、介護保険で利用できるというのは、ある意
味すごい制度だと思います。
世帯を個別に訪問してくれるわけですから。
すごい(素晴らしい、というニュアンスです)と思う一方、それにかかるコストは
増え続け、大丈夫か?(財政が持つか、という意味合いです)とも思います。
そのサービスをしてくれる人の賃金は、介護保険とは無関係に想定するとどの程度
が望ましいか・・・。
90分が当たり前だったものが60分になる。
当たり前のレベルが下がっていくのは、だれでも気分はよくありません。
しかし、これからは、介護におけるサービスの量は、基準を下げていくばかり・・・。
どうやら前期高齢者組は、そのことをしっかり覚悟しておくべきです。
そして、そのことを理解できる世代と思います。
一方後期高齢者組。
こちらは、どちらかというと逃げ切り組と言えるかもしれません。
多少はサービスが減るかもしれませんし、不自由さが少し増すかもしれません。
しかし、そうしたサービスを受けることを恵まれていると感じるべきと思います。
とは言っても、要介護度が重度になれば、あるいは認知症が厳しくなれば、通常の
情緒的な感覚を失っていくわけですから、受ける介助・介護のレベルは軽くなるわけ
でなく、そういう面を考えれば、実質的に、逃げ切り組と言えるわけです。
要は、軽度の介助サービス、支援サービスは削減される方向に行かざるを得ない。
それを補うのが、雇用従事者に限ったことですが、働き方の改善や、企業の支援
制度の拡充などで、ケア度の低い介護のための時間を確保すること、日常生活のなか
でムリなく、家族がケアできる社会、風土、文化を形成していくこと。
一部なのですが、そう思います。
もちろん、地域社会におけるボランティアやNPOなどによる支援もあります。
しかし、わたし個人としては、そうした支援を、いつもあるものと固定できる
ものではないだけに、仕組みとして、計画として位置づけ、頼りにすることはどう
かな、と思っています。
次回は、<デイサービスとデイケア>です。
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