先に人生を終える高齢者世代の介護と終え方の責任:『もう親を捨てるしかない』から(6)

最新刊の
もう親を捨てるしかない 介護・葬式・遺産は、要らない
島田裕已氏著・2016/5/30刊)を紹介しながら考えるシリーズです。

「はじめに」
第1回:介護殺人?利根川心中事件が話題にならなかった背景を読む
「第1章 孝行な子こそ親を殺す」
第2回:家族による介護殺人事件への関心が薄れていく
第3回:減る殺人事件、増える介護殺人・心中事件、家族・親族間殺人事件
第4回:在宅介護推進政策は、介護殺人助長政策?
第5回:実刑判決も執行猶予判決も抑止力にはならない家族介護殺人・心中事件

と進み、今回は第6回。

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 第1章 孝行な子こそ親を殺す(5)
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介護に悩み、疲れ果てた膨大な人たちがいる

この事件の場合、母親を殺した男性は自分も死のうとして、それに失敗したわけだが、
殺した側が死んでしまうケースもある。
 あるいは、介護されていた人間を殺害はしなかったものの、介護している側が無理心
中をはかるような場合もある。
 この事件の2年後、2008年1月5日から7日にかけては、そうした事件が連続して起こ
り、世間に衝撃を与えた。

 まず1月5日には、奈良県で認知症の73歳の男性の介護に疲れた56歳の妻と31歳の娘が、
9歳の子どもとともに無理心中をはかり、3人とも死亡した。
 続く6日には、青森県でやはり介護に疲れた看護師の女性が82歳の寝たきりの母親を
殺害した。
 さらに7日には、宮城県で介護につかれた59歳の娘が病気で寝たきりの86歳の父親を
絞殺し、自らもその後を追って首吊り自殺した。父親は15年間寝たきりの状態だった。

 なお、青森県の事件では、看護師の女性は青森地裁で懲役9年の実刑判決を受けてい
る。
 女性は、母親から殺人の依頼があり、犯行時は心身耗弱の状態にあったと主張したが、
裁判長は依頼の事実を認めず、かえってそうした主張をするのは反省がないとして重い
判決を下した。女性が犯行の時点で老人介護施設の療養部長でもあった点も判決に影響
した可能性があり、介護疲れと職場での悩みから自暴自棄になったと見なされたのだっ
た。

 その後も、こうした介護殺人は頻繁に起こっている。
 ここまで見てきたのは、子どもが介護していた親を殺し、自らも死のうとするケース
だが、老いた夫が介護していた妻を殺したり、その逆のケースもある。
 いわゆる「老老介護」による介護殺人である。
 あるいは、障害のある子どもを介護していた母親が、自らの老いや病などに直面し、
子どもを殺害するようなケースもある。

 毎日新聞が、首都圏1都3県と近畿2府4県で2010年から14年の5年間に起きた介護
殺人事件44件について調べているが、そのうち20件で、加害者が昼間だけではなく真
夜中まで介護をしなければならず、深刻な寝不足に陥っていたことが判明した。

 認知症を発症した患者や、痛みを伴う病気にかかった患者は睡眠障害を起こしたり、
妄想状態に陥り、眠らずに介助を求めたり、大声を出したりすることが少なくないから
だ。

 これを伝える記事では、裁判所が介護疲れを殺人の主な原因としたケースの場合にも、
不眠が原因になっている場合がもっと多いはずだと推定している。(2015年12月7日付)

 このように、介護殺人はくり返されているものの、その数があまりに多いため、よほ
ど注目される要素がなければ、世間の関心を集めることはなく、詳しい報道もなされな
い。

 さらに、その陰には、介護殺人には至らないにしても、介護に疲れ、それに悩んでい
る人たちが膨大な数存在している。そうした人たちは、少しでも状況が変われば、介護
殺人に追い込まれる可能性がある。

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※次項に続きます。

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この図書では、当然、執筆前および執筆時に起こった事件を取り上げています。
実は、ここ数週間でも、介護殺人をめぐる実際の判決があったり、ネット上で
この問題を大きく取り上げている記事を頻繁に見かけます。

いま!
ということで、それらもすぐに紹介したいと思うのですが、過去となんら状況に
変化がないという事実を確認することも、この書を利用・紹介する目的なので、優
先しています。

ここ数日では、Yahooニュースが、ネット媒体として、精力的に配信しているの
が目立ちます。
その中で、昨日7月3日のNHKスペシャルで放送された「“介護殺人”当事者たちの告白」の一部を紹介した
◆ 7月1日(金)12時10分配信の「“介護殺人” 当事者たちの告白」
◆ 7月2日(土)11時59分配信の「母親に、死んでほしい…」介護者の葛藤
が、目に付きました。

当ブログで、いずれ紹介するかもしれませんが、是非、一度ご覧頂ければと思います。

ところで、今回の文中、一番インパクトが強いのが、56歳の妻、31歳の娘、9歳の子
どもの3世代の心中です。
 これは悲しすぎます。ここでは、56歳の母親の罪は大きいと思います。
 31歳の娘と9歳の孫の将来まで摘み取ってしまった。

成人としての社会性の欠如が、介護や貧困家庭に如実に表れるのが現代の特徴。

 これは、社会の成熟ではなく、社会の退歩・未熟状態への退化の象徴的な現象と思う
のです。
 若い世代を守るべき高齢者世代。
自分を差し置いてでも、明日がある、将来に生きる若い世代を励まし、強く、長く、
生きて欲しい、生き抜いて欲しいと願い、その道筋付けを少しでも支えるべき世代。

介護の問題は、介護をうける立場の人が、自らの残りの生をどのようにするのか、
どうすべきかを真摯に考え、対応方法を委ね、これからの時代を若い世代に引き継い
でいく役割と重なり合わさるものです。

自分が自分でなくなる前に、その意思と対応方法を伝えていくことが、先行して人
生を生き、先行して生を終える高齢者の責任でもあります。
死の在り方を介護の在り方とセットで考えることを、当然含みます。

そして、そこには、社会として、対応方法などを見直すべき責任もあります。

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次回は、<手間、時間、カネだけではない介護する側に重くのしかかる精神的負担>
に続きます。

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【『もう親を捨てるしかない 』構成】

はじめに
第1章 孝行な子こそ親を殺す
第2章 日本人は長生きしすぎる
第3章 終活はなぜ無駄なのか
第4章 親は捨てるもの
第5章 とっとと死ぬしかない
第6章 もう故郷などどこにもない
おわりに

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【島田裕已氏プロフィール】
1953年生。宗教学者、文筆家
東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了
放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、
東京大学先端科学技術センター特任研究員を歴任。
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(主な著作)
『日本の10大新宗教』『葬式は、要らない
『戒名は自分で決める』『八紘一宇』
0葬 ――あっさり死ぬ』『死に方の思想』

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