介護保険サービスの適用範囲、基準の難しさ:『在宅介護』<在宅介護サービスの使い方>から(10)
良書 『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』(結城康博氏著・2015/8/20刊)
を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。
現在は、「第4章 在宅介護サービスの使い方」。
第1回:上がり続ける介護保険料。介護保険制度の基本を知る①
第2回:介護報酬・介護保険サービス料の基礎知識。介護保険制度の基本を知る②
第3回:要介護認定の仕組み・手続きと認定調査
第4回:要介護認定システムの客観性・信憑性問題による認定率格差と介護給付格差
第5回:要介護度レベルと認定方法の簡素化の余地がある介護保険法
第6回:ケアマネジャーが介護生活の質を左右する
第7回:生活援助サービスの短縮化・低下は已むを得ないか?
第8回:デイサービス、デイケア、ショートステイの利用法
第9回:介護サービスを受けるために欠かせない「地域包括支援センター」の役割
今回はその第10回(通算53回)です。
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5.利用しにくい介護保険サービス(1)
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<制約されるサービス>
介護保険サービスは保険料や公費(税金)が基になっているため、サービス価格(公定価格)
の1割の自己負担(一定以上の所得者は2割)で利用できる。
もっとも、その使い方には制約がある。
たとえば、ヘルパーサービス(訪問介護)であれば、「同居家族の食事をヘルパーが作ること
はできない」「同居家族の部屋を掃除することはできない」「日中、健康な同居家族が居住して
いる場合は、ヘルパーは利用できない」「庭の手入れをすることはできない」「車椅子などの
要介護高齢者を病院へ通院介助した場合、院内での介助は病院側が行うため保険サービスは使え
ない」。
また、余暇活動として「映画に行く」「友人と食事に行く」といった目的のために外出する際
にヘルパーを利用することもできない。
しかし、在宅介護は生活を支えるため、保険が利くか否かのルールを決めても境界線を明確に
することはできず、これらの判断で介護現場では混乱が生じることがある。
しかも、法令では文章化されてはいるが、具体的な案件は市町村の介護担当者が決めていくた
め、その解釈をめぐって地域格差が生じている。
同じ市町村であっても担当者が変わっただけでも判断ニュアンスが異なり、ケースによって
差が生じることもある。
これらは介護現場では「ローカルルール」と言われ、介護保険サービスのデメリットとして挙
げられる。
<買い物難民>
また、デイサービス(通所介護)においては、たとえ隣がスーパーマーケットであっても、
昼休みに介護士の介助のもと簡単な買い物に付き添ってもらうことは、原則、認められない。
一人の要介護者のために施設を外出したら、施設内の介護士が手薄となり決められた人員配
置を下回ってしまうからだ。
そのため、近所にお店がない要介護高齢者で、デイサービスに来たついでに買い物をしたい
と思う人がいるが、難しいのが現状だ。
昨今、介護現場では「買い物難民」という言葉が浸透しており、近隣の商店街などが
「シャッター街」となるなど、要介護高齢者が徒歩圏内で買い物をすることが難しく苦
慮していることが珍しくない。
ヘルパーに頼むこともできるが、掃除や洗濯などに稼働時間が費やされてしまうため、
遠く離れたスーパーまで買い物に行く時間がないケースもある。
「買い物難民」は、地域社会の変容が要介護高齢者に大きく影響を及ぼしている一例である。
※次項に続きます。
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サ高住に入居して生活している義母。
昨年の認定時には<要介護1>で、週1回の買い物介助サービスが、保険サー
ビス内で利用できたのですが、今年の再認定で<要支援2>と変更になり、保
険サービスの利用ポイントが一気に下がり、かつその利用方法にも制約が生じ
たため、買い物買い物介助サービスは、保険外サービスの有償となりました。
訪問介護機能を併設したサ高住としては、保険給付収入が大きく減ったため、
その一部でも有償のサービスで補填したいのは当然です。
こちらとしては、介護保険サービスで利用する負担費用が減るので、この有
料サービスを加算しても、1年目の費用総額とほとんど変わらないため、利
用しています。
この週1回の外出は、本人にとっても楽しみのひとつ、なくすわけにはいきません。
幸い、施設からさほど遠くないところにあるスーパーへ、車椅子でヘルパーさんに
付き添ってもらって行っています。
最近、施設の目の前にコンビニができ、本人に気力があれば、歩行器で行けない
距離と道路状況なのですが、さすがにひとりでは外出させてくれないでしょうね。
要支援2レベルなら、ひとりで行ってもいいような気がするのですが・・・。
家族の付き添いがあれば、多分許可が出るのではと思います。
今回の内容にある、サービスの境界の問題。
線引き、ルール化は已むを得ないと思います。
要介護高齢者にヘルパーさん一人。
サービスを認める範囲を広げていくと、そういう状態におのずとなっていく
可能性が高い。
これが無償で提供されるとなると、その人件費コストはだれが負担するのか。
結局現役世代が負担するか、税や保険料などの高負担社会システムを取らな
ければムリです。
それが困難なため、一層在宅・自宅で家族が介護を、と推し進めることになる。
それが介護離職や介護殺人の要因となる・・・。
堂々巡りというか、悲劇のパターン化です・・・。
無償が善意で行われるとしても、善意を要求するコトが当たり前になってし
まう可能性が高いですね。
サービスを受ける立場の人は、それをエゴとは考えず、権利と考えるように
なるかもしれない・・・。
人にはそういう部分があります。
だから、線引きをしておかなければ・・・。
善意がいつでもどこでもある理想の社会ではあり得ないのですから。
利用者自身が、それまで善意で満ち溢れた生き方であったはずがなくても・・・。
社会システム、社会保険制度、どうしても根本的な改革は不可欠なのですが、
多数の同意・合意を得ることが困難ゆえ、だれも、どこも実際に手を付ける
ことなく、時間は経過していくでしょう。
高齢者数が大きく減少する数十年後を待つだけなのでしょうか・・・。
次回は、<自費によるサービスの活用>です。
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「序章」
第1回:『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
「第1章 在宅介護の実態」
第24回:介護離職の根本原因としての在宅介護
第25回:親の介護と愛情の持ち方、表現の仕方
第26回:在宅介護を支える訪問介護・居宅介護サービス介護士の負担
第27回:実現困難な理想としての介護サービスは一面、非人間的
第28回:在宅介護が困難な場合の介護サービス付き高齢者住宅、サ高住
第29回:厚生年金でほぼ賄える「サ高住」が理想
第30回:「小規模多機能型居宅介護」という名称自体、分かりにくい
第31回:(看護)小規模多機能型居宅介護事業は、小規模では成り立たない
第32回:だれでも、どこでも、いつでもできる介護サービス事業か?
「第2章 家族介護の限界」
第33回:企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第34回:介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第35回:企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度
第36回:パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ
第37回:介護虐待で考える、介護者・要介護者の人権
第38回:特養入所条件要介護度3以上で、待機高齢者はどうなった?
第39回:お泊り付デイサービスがグレー化するリスク
第40回:劣悪化する介護事業の原因の一端は、低所得高齢者政策の欠如に
第41回:住宅型有料老人ホーム事業がグレーからブラック化する前に
第42回:独居高齢者・高齢者夫婦世帯の増加で困難になる在宅介護・家族介護
第43回:国・自治体の介護行政無策のしわ寄せが介護事故・事件を招く
「第7章 介護士不足の問題」
第15回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第16回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第17回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第18回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第19回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
第20回:外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて
第21回:元気な高齢者が介護業務を補完する
第22回:高齢者介護士活用のポイント
第23回:他産業との賃金格差、人
「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」へ
第5回:多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
第7回:これからの混合介護のあり方を考える
第8回:介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回:介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回:福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回:複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性
第14回:介護制度コストと介護職賃金は社会投資か?