施設介護と在宅介護の関係を考えてみる(1):『在宅介護』<施設と在宅介護>から(3)

良書 『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』(結城康博氏著・2015/8/20刊)
を紹介しながら、介護問題を考えるシリーズ。

前回から「第5章 施設と在宅介護」に入っています。
第1回(通算56回):地域包括ケアシステムの基本にある仕事以外の要素
第2回(通算57回):責任回避の自助・互助介護政策化。公的サービス責任が先

今回はその第3回(通算58回)です。

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 2.施設あっての在宅介護(1)
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<施設と在宅の対立軸は危険>

 「地域包括ケアシステム」といった在宅介護にシフトした施策は理想ではあっても、一
部の地域でしか実現できず、全国的に難しいと考える人も多いであろう。
繰り返しになるが、在宅介護の現場は本人や家族を含めて困窮しているケースも少なく
なく限界を感じている人も多い。

したがって、在宅と施設といった二分法的な考え方ではなく車の両輪として捉えるべき
であろう。
 実際、総合病院などから退院を余儀なくされた親の介護を在宅で担うか、もしくは施設
を探して入所を考える家族の中には、「いつでも施設で受け入れてもらえる環境があれば、
とりあえず在宅で看護をやってみよう」と考える人が多い。

 つまり、家族は在宅看る気があっても、「もし、難しくなったらどうしよう」という不
安から在宅介護を躊躇する。もちろん、独居高齢者の中に、何かあればすぐに施設に入れ
るといった安心感があれば、「とりあえず、ヘルパーさんを頼んで在宅で介護生活に送る」
という要介護高齢者もいるのである。

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とりあえず、という感覚・思いで在宅介護をまず選択し、やってみる・・・。
そういう状況が、介護離職した上でそうする、という場合と、ある程度、さほどムリな
く介護を日常生活に組み入れて始めてみよう、というのでは、かなり状況・条件が違いま
すね。
例えば、大手企業に勤務し、介護休業制度・介護支援制度が整備されていて、時短勤務
制度なども利用できる・・・。
しかし、こういう恵まれた方は、まだまだ少数ではないでしょうか。
分割して取得できる介護休業も、日数に限度があり、継続的な介護生活に充当するには
不十分です。というか、そのためのものではなく、何かの準備や一時的な対応のためのも
のと言ってもいい・・・。

パートタイマーをやめて介護する。これもよくあることです。
この場合、パートでの収入にそれまであまり依存せずに生活していたのでしたらよいで
すが、依存度が高かった場合は、介護しながら適切な別の仕事を探すことは困難ですし、
先が見えなくなるなど、困難が予想されます。

「危険」という表現ほどの切迫性のある内容でなかったのが少々気になるのですが、二
分法ではなく車の両輪として捉えるとするには、少々甘いかな、とも感じました。
現実は厳しいですから。

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<ショートステイの問題>

 都市部はショートステイのサービス資源が少ない。
過去に担当していたケースは、83歳の妻が、要介護者である89歳の夫を介護していた
ため、必ず二カ月に一度、施設に1週間程度預け家族の介護負担を軽減する必要があった。
しかし、毎月申し込んだとしても、必ず利用できるとは限らず、結果的に二カ月に一度
の利用しかできなかった。
本来なら、毎月1週間利用できれば、介護負担はかなり軽減さ
れたのだが。

 今でも都市部のショートステイサービス不足は深刻で、すでに述べた劣悪な「お泊り付
きデイサービス」やグレービジネスが代替しているという。

 一方で、都市から3時間程度離れた地方の特養や老人保健施設では、申し込んでから3
日~1週間程度でショートステイの利用ができる。
もちろん、その時の空き状況にもよるが、都市部と比べればはるかに利用しやすい。

 在宅介護を推進するといっても、家族や本人が急に体調を崩した際の施設入所が難しい
状況であれば、はじめから施設に入所させておこうとする施設志向は高まるばかりだろう。

040
 

※次項に続きます。
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 施設と在宅の併用。
 実際にそうしている高齢者と家族は多いでしょうが、やむなくそうしている、そうせざ
るを得ない、という人々も相当数に上ると思われます。

 様子を見て、とか、何とかなる、という思いからの在宅と、なんの問題もなく、在宅
介護を受け入れ、継続していける家族。
しかし、反対に次第に困難に追い込まれていく家族。
さまざまです。

いざというときに頼りにできる介護システム・制度。
理想をめざすべきですが、やはり必ずコストの壁が立ちはだかります。

すべてを国・自治体・社会に委ねることができる。
それも理想ですが、やはり・・・。

次善としての方策。
それは、国・自治体・社会が考え、対処していくべき課題ですが、同時に並行して、
個人、介護を要する本人と家族も考え、備えるべき課題と考えます。

わたし個人としては、当初から施設志向で、準備していければと考えています。

エクサ5

次回は、<施設と在宅の往復を>です。

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在宅介護――「自分で選ぶ」視点からブログリスト>>

「序章」
第1回:『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して

「第1章 在宅介護の実態」
第24回介護離職の根本原因としての在宅介護
第25回:親の介護と愛情の持ち方、表現の仕方
第26回:在宅介護を支える訪問介護・居宅介護サービス介護士の負担
第27回:実現困難な理想としての介護サービスは一面、非人間的
第28回:在宅介護が困難な場合の介護サービス付き高齢者住宅、サ高住
第29回厚生年金でほぼ賄える「サ高住」が理想
第30回:「小規模多機能型居宅介護」という名称自体、分かりにくい
第31回:(看護)小規模多機能型居宅介護事業は、小規模では成り立たない
第32回だれでも、どこでも、いつでもできる介護サービス事業か?

「第2章 家族介護の限界」
第33回:企業任せの政治、介護休業制度で介護離職を抑止できるか?
第34回:介護休暇制度を「介護休業制度」と呼ぶ矛盾
第35回:企業福祉と社会福祉の狭間で考える介護休業制度
第36回:パラサイトシングル介護者を生み出す親子関係の根深さ
第37回:介護虐待で考える、介護者・要介護者の人権
第38回:特養入所条件要介護度3以上で、待機高齢者はどうなった?
第39回:お泊り付デイサービスがグレー化するリスク
第40回:劣悪化する介護事業の原因の一端は、低所得高齢者政策の欠如に
第41回:住宅型有料老人ホーム事業がグレーからブラック化する前に
第42回:独居高齢者・高齢者夫婦世帯の増加で困難になる在宅介護・家族介護
第43回:国・自治体の介護行政無策のしわ寄せが介護事故・事件を招く

「第4章 在宅介護サービスの使い方」
第44回上がり続ける介護保険料。介護保険制度の基本を知る①
第45回:介護報酬・介護保険サービス料の基礎知識。介護保険制度の基本を知る②
第46回:要介護認定の仕組み・手続きと認定調査
第47回:要介護認定システムの客観性・信憑性問題による認定率格差と介護給付格差
第48回:要介護度レベルと認定方法の簡素化の余地がある介護保険法
第49回:ケアマネジャーが介護生活の質を左右する
第50回:生活援助サービスの短縮化・低下は已むを得ないか?
第51回:デイサービス、デイケア、ショートステイの利用法
第52回:介護サービスを受けるために欠かせない「地域包括支援センター」の役割
第53回:介護保険サービスの適用範囲、基準の難しさ
第54回:自費負担の介護保険外サービスが増えるのは、やむを得ない?
第55回:トラブルを避けるための介護サービスに関する「苦情」相談とコミュニケーション

「第7章 介護士不足の問題」
第15回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第16回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第17回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第18回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第19回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
第20回:外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて
第21回:元気な高齢者が介護業務を補完する
第22回:高齢者介護士活用のポイント
第23回:他産業との賃金格差、人

「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」
第5回:多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題

第7回これからの混合介護のあり方を考える
第8回介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性
第14回:介護制度コストと介護職賃金は社会投資か?

kai16

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