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介護需給バランスを崩す根本的要因とは?:『東京消滅-介護破綻と地方移住』介護保険制度は持続可能か?より(3)

人口減少と少子高齢化、超高齢化に伴う諸相を分析・予測して昨年ベストセラー
になった『地方消滅』(増田寛也氏編著・2014/8/25刊)

その一つの断面を切り取り、やはり話題となった、東京等首都圏の要介護
者問題予測から、高齢者の地方移住促進を提言する新刊
東京消滅 – 介護破綻と地方移住』(増田寛也氏編著・2015/12/20刊)

東京・首都圏の介護問題と地方との関連を確認しながらこの書を紹介し、
介護問題を考えていくことにしました。

まず、初めに、第2章の「介護保険制度は持続可能か?」を紹介し、
介護保険制度面から見た持続可能性について問題と改善・解決法につい
て考えることにします。

第1回:2000年施行の介護保険制度の意義を再確認する
第2回:介護保険制度と財源、保険料・保険給付費について知る

今回は、第3回です。

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 第2章 介護保険制度は持続可能か?(3)
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供給不足と地域的ミスマッチ

もう一つの課題は供給不足の問題である。
介護保険制度の創設は、介護市場そのものの拡大につながったが、介護
職員の数も倍増している。
厚労省の推計では2000年度の制度開始時点における介護職員数は55万人
だったが、12年度には149万人まで増加したとしている。
しかし要介護認定者数の増加は急速であり、団塊世代が75歳を超える
2025年度には全国で約38万人不足するとされている。
東京都だけを取り出しても、2025年度における介護職員の需要は24.4万
妊とされるのに対し、供給は20.8万人にとどまりおよそ3.6万人の不足が
見込まれている。
以上は一つの試算であるが需要に供給が追い付かないという状況が懸念
されているのである。

もしこれが一般の民間市場であれば、供給不足にある介護職員の賃金が
上昇し、市場メカニズムが働いて不要不急介護需要が抑えられるはずで
あるが、介護報酬制度の枠組みの中で賃金が決まることを考えると、
こうした調整は期待できない。
実際、介護職員の賃金(常勤労働者)の水準は他の産業と比較して低く、
政府も2015年度の介護報酬改定では処遇改善加算を行うとしたが(一応
行ったが)、これは需要増に柔軟に対応できる仕組みではない、
これに加えて、雇用形態が不安定である。
キャリアパスが見えにくいなど、介護職員を目指すインセンティブは
必ずしも高いとは言えない。

介護需要の増加で不足するのは人材だけではない。
厚労省によると、2014年度で特別養護老人ホームへのいわゆる待機老人
(入所申込者)数は全国で52.4万人にのぼり、うち東京圏(一都三県)
では10.7万人(東京都だけでは4.3万人)となっている。
人材だけではなく施設不足も急速に進んでいる。

こうした介護供給の不足は高齢化とそれに伴う需要増によるものである
が、その度合いは全国一律ではなく、地域的に大きな差がある。
後期高齢者は今後急速に増加する。
2025年度までには東京圏で約175万院増加し、これは全国の増加数の
3分の1を占める。
これをもとに、2013年度から25年度までの13年間で75歳以上の要介護
認定者数がどれだけ都道府県別に増加するか試算した結果もある。
(略)
これによると全国で増加数は、195.1万人にのぼり、2013年と比べると
1.4倍近くになる。
ただし、その増加は都市部を中心に生じている。
東京圏での合計はおよそ60.6万人、三大都市圏全体でも116.5万人とな
り、今後13年間で増加する要介護認定者のほぼ6割は都市部に集中する。
このことから介護保険の供給不足の問題はきわめて地域的な問題で
るともいえる。

ちなみに大阪圏でも同様な課題が発生する。
実は2013~25年度で要介護認定者数が最も増えるのは大阪府でおよそ
20.3万人、大阪圏(二府二県)では38.6万人であり、東京圏と同じ課
題を抱えることになる。

C
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この章自体、『中央公論』2015年8月号に掲載の加藤久和明治大学教授に
拠る著であることからも、既に一般に開示されている内容であり、特に
新鮮味があるわけではありません。

介護需給バランスが取れていない理由自体も、ほとんど根本に触れること
なくさらっとやり過ごしています。
「民間市場ならば」と、あたかも民間にすべてを開放すれば問題が改善さ
れるかのような含みを持たせていますが、職種自体、労働生産性が低く、
単純に民営化すれば職員待遇がよくなる保証などありません。

かといって当然、介護保険をなくし、介護サービス事業を自由化すること
など、一層論外なのですから、そうした現実をもとに、改善・解決策を提
案・提言するのが研究者の役割であり、創生会議の責務と考えます。

東京圏の実情については、第1章でテーマとしており、後日詳細を見たい
と思いますが、より根本的な介護保険制度に関する見識者の意見を先に確
認しておくことが参考になると思い、この第2章から始めたのです・・・。

結局「介護保険制度は持続可能か?」とあるように「?」=クエスチョン
マークを付けただけで、終わってしまうのでしょうか・・・。

それで終わるということは、「持続不可能」と結論付けることを意味する。
そのくらいの覚悟での執筆であるならば、やはり対策に踏み込むべきです。

大都市と地方との関係性を取り出し、一時の解決策に目を向けさせること
で、綻びを繕うのかと、穿った見方をしてしまうのは私の悪い癖でしょうか
・・・???

 

041

次回、<首都圏問題と介護保険制度の今後>、に続きます。

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<本書の構成>
第1章 東京圏高齢化危機の実態
第2章 介護保険制度は持続可能か?
第3章 東京圏高齢化危機を回避するために
第4章 全国各地の医療・介護の余力を評価する
第5章 ルポ・先行事例に見る「生涯活躍のまち」
対話篇1 高齢化先進国として何ができるか
対話篇2 杉並区はなぜ南伊豆町に介護施設を作るのか
対話篇3 高齢者の住みやすい町はどこにある

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