介護保険制度の持続可能性を保証しない多様な対策メニュー:『東京消滅-介護破綻と地方移住』介護保険制度は持続可能か?より(4)
人口減少と少子高齢化、超高齢化に伴う諸相を分析・予測して昨年ベストセラー
になった『地方消滅』(増田寛也氏編著・2014/8/25刊)
その一つの断面を切り取り、やはり話題となった、東京等首都圏の要介護
者問題予測から、高齢者の地方移住促進を提言する新刊
『東京消滅 – 介護破綻と地方移住』(増田寛也氏編著・2015/12/20刊)
東京・首都圏の介護問題と地方との関連を確認しながらこの書を紹介し、
介護問題を考えていくことにしました。
まず、初めに、第2章の「介護保険制度は持続可能か?」を紹介し、
介護保険制度面から見た持続可能性について問題と改善・解決法につい
て考えることにします。
第1回:2000年施行の介護保険制度の意義を再確認する
第2回:介護保険制度と財源、保険料・保険給付費について知る
第3回:介護需給バランスを崩す根本的要因とは?
今回は、第4回です。
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第2章 介護保険制度は持続可能か?(4)
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<首都圏問題と介護保険制度の今後>
2015年6月に日本創生会議・首都圏問題検討会が本書のもととなる
「東京圏高齢化危機回避戦略」を提言した。
東京圏は今後急速に高齢化し、とりわけ後期高齢者の増加が著しい。
また、2025年にかけて東京圏の慢性期医療・介護需要は急増し、介護
施設の不足が深刻化する。
こうした問題意識の下で、高齢者の地方移住を含めた早急な対応策を
取る必要があるというのが提言の趣旨である。
この提言を受けて、地方移住をめぐる報道や議論が目立っているが、
介護保険制度を考える上での重要な論点が見過ごされている懸念がある。
「危機回避戦略」では高齢者の地方移住のほかに、ICTやロボットの
活用、外国人介護人材の受け入れ、介護施設不足対応のための空き家の
活用、大規模団地の再生、さらには高齢者の集住化といった多様なメニ
ューを掲げている。
介護に関しては東京圏においてヒト(人材)、モノ(施設)とも不足が
見込まれている。
ヒトに関しては東京圏では国家戦略特区として外国人医師の受け入れや
家事代行での外国人の就労を認めるなど、多様な人材の確保が進みつつ
ある。
さらに介護人材に関してもEPA(経済連携協定)に基づく外国人の積極
的な受け入れを進めることが不可欠である。
モノに関しても、空き家の増加や小中学校の廃校などに合わせて効率的
に介護施設等の供給を進めることが肝心である。
もちろん、バリアフリー化などある程度の投資を覚悟しなければならな
いが、当たらな用地を探して建設を行うよりも早い対応が可能になるで
あろう。
こうした課題解決には自治体の枠を越えて、一都三県の連携・広域対応
が欠かせない。
本提言は、従来、社会保障制度や財政といった全国一律的な視点からの
課題に、改めて地域的な見方からアプローチするとともに、東京圏問題
といった地域構造に起因する課題が社会保障財政とも密接に関連してい
ることを再度明確にしたものである。
高齢者の急増は、東京圏において地域保健としての介護保険制度の運営
をますます難しくするとともに、介護施設等の供給に関しては市町村の
枠組みを越えた広域連携が必要であることを示している。
さらには介護保険財政の持続可能性も考慮し、何らかの給付抑制策を組
み込まないかぎり、東京圏での介護需要の急増に対応できないことも考
えておく必要がある。
介護保険制度からのアプローチと東京圏問題からのアプローチの共通解
として何が考えられるのか。
言い換えれば社会保障財政の改革だけでは、また東京圏問題への対応だ
けでは、急増する東京圏の高齢者問題の解は見つからないということで
ある。
なお、「東京圏の高齢化・介護問題は東京圏で解決すればいい、地方は
関係ない」といった批判もあるが、しかし介護保険制度は自己負担を除
き、保険料と公費(租税)で50%ずつ負担しており、国の負担割合も
全体の25%となっている、
東京圏での介護需要の増加と介護財政の課題は全国的なものであって、
地方は無関係というわけにはいかない。
高齢者の地方移住に関する提言について、筆者(増田氏)なりの考え方
も示しておきたい。
医療・介護のみならず、住みやすい地域や住みたい地域に移住するとい
う選択は高齢者だけではなく多くの人が希望するものと考えられる。
しかし、現状では東京圏に仕事や高等教育機関などが集中していること
で東京圏に移り住む、あるいは東京圏から移動できない、という状況が
生み出されている。
もし地方に仕事や教育、あるいは文化などに関して優れた環境があれば、
そうした地域を選択することも人生を豊かにする一つの手段ではないだ
ろうか。
高齢者の移住に関しては、すでにいくつかの地域で試みが進められてい
る。
として、東京都杉並区の南伊豆町への特養建設と「シェア金沢」について
例示しています。
この2件については
◆杉並区が南伊豆町に特養は、介護施設・地方移住・雇用創出対策、いいことずくめ?
◆高齢者の地方移住の可能性と課題②・移住事例と背景:<人口病に克つ>超高齢化を生きる(2)より
で既に触れていますが、この書の他の章・対談でも詳しく紹介しています
ので別の機会に再度取り上げたいと思います。
※後者は、わたしの別のブログサイト<大野晴夫.com>への投稿です。
しかし、すべての高齢者が移住に応じることは考えにくい。
自治体間での長期にわたる連携や移住先での包括的な生活プランといった
前提があったうえで、高齢者にとって住みたい地域があれば、そこに移住
するための選択肢を用意することが必要である。
地方の財政負担が増える、あるいは医療・介護サービス供給の増加が地域
産業の成長のネックになる、という批判もあるが、一方で消費や住宅需要
増といったメリットもある。
現在進められている地方創生の長期的なビジョンの議論の中に、高齢者の
多様な選択を後押しする方策を含める必要があると考える。
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介護問題の個別の処方を列記しただけの提言。
そんな印象です。
東京圏と地方の問題を、結びつけて考えることは、介護保険制度を考え
れば当然のことでもあります。
広域連携は大都市圏だけに限ったテーマではなく、人口減少・過疎化す
る地域においても、隣接自治体間で欠かせないものです。
問題の根幹は、財政要素と介護制度を運営していくための全体のマネジ
メント、諸課題を統合して改善・解決を図っていく機能にあります。
取り上げている個別政策は、もちろん可能ならば粛々と進めればいいの
ですが、それらのどれ一つとっても簡単にすまないのが現状です。
であるならば、官(=公)と民との役割・可能性・責任を明確にし、そ
の役割の中で行うべき課題を再度規定し直し、中長期と単年度の実行計
画を立案すべきです。
もちろん、線引きといいましたが、官民共同で取り組むべき課題もその
なかに含みます。
そして、その司令塔に能力があるかどうか、です。
その司令塔が、どこまで介護の現場と介護の家庭とそれに関わる人々と
組織・企業を分かっているか・・・。
掛け声をかけていればよい総理がそのマネジメントを行うことは端から
ムリなコト。
内閣改造ごとに代わる厚労省大臣もムリ。
では、だれが?
こうした政治・行政自体の構造改革が、本来先にあるべきなのですが・・・。
創生会議(こう言っては失礼かとは思いますが)がその旗振り役になる
こと自体、どだいムリなのですが・・・。
上記の内容も、タイトルで示す課題には、結局応えていないのですから・・・。
次回、<介護保険制度改革に向かって>、に続きます。
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<本書の構成>
第1章 東京圏高齢化危機の実態
第2章 介護保険制度は持続可能か?
第3章 東京圏高齢化危機を回避するために
第4章 全国各地の医療・介護の余力を評価する
第5章 ルポ・先行事例に見る「生涯活躍のまち」
対話篇1 高齢化先進国として何ができるか
対話篇2 杉並区はなぜ南伊豆町に介護施設を作るのか
対話篇3 高齢者の住みやすい町はどこにある