介護保険制度導入目的の綻びをたどる:『自衛する老後』から介護政策・介護保険法を考える-3

自衛する老後―介護崩壊を防げるか』を紹介しています。
(新潮新書・河内孝著、2012/5/20刊)

<第ニ章 介護保険はどこへ行く 「在宅シフト」の矛盾> に入り
きたざわ苑の介護業務事例を2回にわたり紹介。
第8回から、介護政策と介護保険法に関する問題点を取り上げています。

第8回:在宅介護は要介護者・介護者全員が望む政策・方法か?:
:『自衛する老後』から介護政策・介護保険法を考える-1
第9回:2000年、介護保険制度導入の裏事情:
:『自衛する老後』から介護政策・介護保険法を考える-2

今回は引き続き、第10回です。

この書が発刊されたのは、2012年5月。
従い、今年2015年4月の改正介護保険法の内容とは多少の違い・矛盾が
あります。本来その内容を比較精査して、論じるべきですが、手抜きし
て、この書執筆時点での制度に基づく記述そのまま、転載させて頂くこ
とをお許し下さい。

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「在宅シフト」をめぐる介護政策と介護保険法の問題点-2
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<介護保険導入の裏事情>-2

前回からの続き

10年計画として年間2000億円の歳出増、これに比べれば訪問介護、
居宅事業と呼ばれるグループホームなどへの補助金は、単年度事業とし
てはるかに安上がりで済む。在宅介護への誘導を図る厚労省の狙いは、
ここにあった。

 しかし、この路線に、当社から疑問を投げかける人もいた。
 その一人が、自ら老人ホームを経営していた滝上宗次郎氏(故人)。
 厚労省の施設介護から在宅介護へのシフトが大きな誤りにつながる、
と早くから警鐘を鳴らし続けた。

 同氏は厚労省の皮算用をこう推定した。
「家族の介護は大ざっぱに見て平均が1回30分の家事や介護を1日6回し
て合計3時間。それに時給1000円を掛けて3000円。これで、在宅介護
費用は国全体で年間約2兆円になると計算」
 この論文が書かれた当時、利用者負担を含めた介護保険の総費用は
約4兆6千億円。この中で施設介護費用は62%(2012念現在は4割)を
占めていたから、施設から在宅介護への政策誘導を進めていけば、全体
のコストを抑制できると考えたのだろう。しかし、この計算は、あまり
にもずさんだと同氏は指摘した。

「ホームヘルパーが街に点在する家々を回るとなると、往復のロスタイ
ムなどの労働の経済性は失われてしまう。合計で3時間の介護を1日6回
に分けて訪問すれば、その費用は3000円以上の3倍以上かかる。従って
要介護者が今より少なかった93年時点でも、在宅ケアだけで6兆円を超
える財源が必要だ」。
 
在宅介護の事業者は、ヘルパーの移動時間に給与を払わない。ヘルパ
ーは数をこなすしかないが、地方では移動距離が長く、都市部では渋滞
で移動時間は延びる一方だ。時間に追われ出先から出先への回ることに
なるから交代者との引き継ぎ時間もとれない。つまり、介護の質低下と
いう問題が出てくる。

 それ以上に、施設整備のコストは1回限りだが、在宅介護は恒常的に
増加し続けるので、結果として大きな後年度負担をもたらす、しかも
在宅介護である限り家族の介護が欠かせない。

 一方、介護施設には、要介護者が1ヶ所に集まっていて介護職員も
24時間常駐しているので、はるかに能率もいいし安全、家族の負担も
軽減できる
 単純化すると在宅介護は「家庭教師型」であり、施設は「塾型」と
いえる。とりあえず優劣の議論はおくとしても、どちらがコスト高で
あるかは子供でも分かる。在宅介護推進は、逃れようのない家族介護と
予算の肥大化を覚悟しなくては選択できない。
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<的中した滝上氏の予言>
滝上氏の予言は的中した。介護保険総費用は、開始時(2000年)の
3.6兆円から11年間で8.3兆円と倍以上に増えている。

 居宅事業を含めた在宅介護費用は全体の6割に達した。これも、給付費
激増に驚いた厚労省が介護認定要件を厳しくし、二度も介護報酬を切り
下げ
るなど、必死に圧縮を図った上での数字なのである。

 2006年の介護給付見直しでは、要介護の下に、2つの要支援ランクを
設定。

 認定手続きが厳格になり、受けられるサービスが引き下げられた。
 要介護度1以下の車いすの貸与は60%カット、電動ベッドの貸与に至
って
は98%も削られた。

 介護報酬もさらに引き下げられ、施設における居住費と食費が自己負担
に、
2006年と2007年比較では、訪問介護ヘルパーへの介護報酬支払いは、
248億
円から187億円へと25%もダウンした。

 介護報酬切り下げのしわ寄せが人件費に行くのは当然で、介護の世界で
「ことぶき退社」は男性のものとなり、多くの有望な男性介護士が辞め
てい
った。残ったのは人手不足である。

(略)

問題が続出したため、厚労省は2009年度の3次改正で介護報酬を初めて
3%
引き上げた。しかしこれも40種類を超える加算を通じて支払われるも
ので、
介護報酬本体でなく、定められた要件を満たした場合のみ払われる
という
「抑制装置」付きであった。

(以下その内容、略)

 2012年度からの介護報酬は1.2%プラス改定とされるが、これまで補助金
して予算外に付いていた職員処遇改善交付金が、予算内に取り込まれた
ので
実質的には、0.8%のマイナス改定だった。

保険制度改正経緯
※次回に続きます。

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そして、今年2015年の改定に至ります。

施設から在宅へ」という基本方針のカンバンを降ろす気はサラサラない
ようで、今回の全体方針と給付条件の改定にも反映されています。

しかし、さすがに現場の人材不足と介護業界の賃金レベルの低さに対する
不満・批判を無視することができず、介護職員への給付額を引き上げました。

しかし、全体的には、介護サービスに対する給付額を抑制する方針も継続
しているため、中長規模の介護事業者において、すべてが賃金増に充当され
る保障はありません。

私の家の周辺にも、毎日のようにデイサービス利用者の自宅に迎えのマイク
ロバスがやってきます。狭い道を塞いで・・・。
街なかを走るデイサービス、訪問介護サービスの車の台数が、どんどん増え
ている光景は、そのための人手、ガソリン代、時間、そしてコストが、止めど
もなく増え続けることを暗示いしています。

本当に、高齢者の多くが施設ではなく自宅で家族介護と、デイサービスや
訪問介護などの人手とコストが掛かる介護サービスを受け、終末を迎えること
を望むのか・・・。

自分が反対の立場にあれば、どちらを望むべきか・・・。

自分が親や家族を介護する経験がなかった高齢者は、どうも他を思いやる
気持ちが欠如した、利己的な人たちが多いのでは、と思うのですが、いかが
なものでしょうか・・・。

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