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指導監査、人材不足などの問題に直面する御前崎市・灯光園(2):『自衛する介護』から地域介護の事例を知る-4

自衛する老後―介護崩壊を防げるか』を紹介しています。
(新潮新書・河内孝著、2012/5/20刊)

<第一章 日本の介護体質をぶち壊す 竹内イズムの挑戦>から
「『自衛する老後』介護事例紹介」として
第1回:竹内イズムによるピンピンコロリを作り出すおむつ外し・自力歩行
第2回:おむつ外しの源は1日1500mlの水。熱中症防止にも命の水を!
第3回:おむつ外しは、既存の介護体質変革覚悟で組織で取り組む
第4回:おむつ外しは、水分摂取と歩行能力向上ケアと職員意識の統一で
第5回:自力歩行訓練は、忘れている歩行を思い出させること
第6回:「きたざわ苑」のおむつゼロ運動が生んだ「トイレでふんばる君」
第7回:「きたざわ苑」の自立歩行回復の事例と努力が報われない介護制度

<第ニ章 介護保険はどこへ行く 「在宅シフト」の矛盾>から
「『自衛する老後』から介護政策・介護保険法を考える」として
第8回:在宅介護は要介護者・介護者全員が望む政策・方法か?
第9回:2000年、介護保険制度導入の裏事情
第10回:介護保険制度導入目的の綻びをたどる
第11回:施設介護か在宅介護かの本質

<第三章 地域介護の旗手たち 故郷を守る砦として>から
「『自衛する介護』から地域介護の事例を知る」として
第12回:おむつゼロ・下剤ゼロ実現のサンアップルホーム(1)
第13回:地域循環型高齢者介護をめざすサンアップルホーム(2)
第14回:おむつ外し、胃ろう外しを実践の御前崎市・灯光園(1)
と続けています。

今回は通算第15回で、引き続き、御前崎市の「灯光園」を紹介し
業界の課題を考えます。

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 静岡県御前崎市「灯光園」(第2回)
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<「歩けなくなって助かった」>

灯光園の悩み-1:県の指導監査)

 施設長の澤島さんの悩みのひとつは、年1回程度行われる県の指導監査
 毎月報告している入居者の要介護度もチェックの対象となる。灯光園
のように、おむつが外れて自分で歩くようになり、自分の口から食べられ
るようになると、入居者の介護度はどうしても下がる。ところが入居者の
平均介護度が下がると、重度加算(介護度4~5度の入居者が65%を超え
ると支払われる)の支給が止まってしまう。

 極端なケースだが、要介護度1から要支援に下がった人は、入居資格を
失い、退所を迫られる。入居者の自立度が高まり、介護度が下がれば、本
人や家族に喜ばれるだけでなく介護保険財政も助けているはず。にもかか
わらず、改善すると努力賞どころか損をしてしまうのだ。

 だから監査の時期が近づくと憂鬱なのだ。一生懸命、生活機能を改善し
てきた入居者に、心ならずも「明日は、あんまり元気出さないでね」など
と声をかけなくてはならないとしたら、こんな情けない話はない。

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ある施設で関係者が、職員たちが「あの人、歩けなくなって助かったね。

要介護度5より3,4の方が手間がかかるから」とささやき合っているの
を聞いてがく然としたことがある、という。
 入居者の要介護度が上がるほど高額の介護報酬を受け取れる。一方、重
度ほど寝たきり状態に近づくから世話が楽、というわけなのだ。このよう
な逆さまの理屈がまかり通るのも、介護の質、入居者のQOL改善に目を向
けない介護報酬行政のひずみからなのだ。

指導監査では、地域による基準のばらつき、行き過ぎも目立っている。
ある施設では予算執行上、10万円の差額が出たら、予備費処理が認めら
れず、補正予算の作成と理事会のやり直しを命じられた。
特養とケアハウスを併設する施設では、会計区分した上での同一預金
通帳による一括管理が認められなかった。地元敬老会への寸志の領収書が
不備として取り直しを命じられる。80歳近い理事長の海外出張でのビジネ
スクラス使用が「県の幹部も使っていない」とやり玉に挙がる。重箱の
隅をほじくるような監査で貴重な時間と労力がつぶされていく。

プリント

<離職率の高い施設、低い施設>

(灯光園の悩み-2:人手不足)
 澤島施設長を悩ませるもう一つの問題は、人手不足。
 灯光園の場合、ユニットケア、個別ケアを重視しているので、国の基準
より手厚い2人対1人を目安に介護職員を配置している。しかし、単立の施
設なので職員をやりくりする余裕がない。産休や病欠でたちまちローテー
ションが行き詰まる。

このあと、介護現場の人材について、概略以下のように述べています。
老施協総研の2006年の女性介護離職者の離職理由調査
①「職場の人間関係がうまくいかない」②「転職を希望していた」
③「結婚、出産のため」④「体調を崩した」⑤「賃金や処遇に不満」
◆改定介護保険制度調査委員会の2007年調査での離職・退職理由
①「賃金が低い」②「収入が不安定」③「精神的にきつい」

◆上記両調査の共通結果:全職員に対する退職者の割合・離職率19~20%
⇒介護職は5年間で全員が入れ替わってしまう計算。
(あまりこの例えは的確ではないですね)
⇒介護業界の人手不足の原因は定着率の低さ

◆老施協総研の調査:離職率10%以下の施設3割以上
⇒比較的規模が大きく定期採用、定期昇給、定期異動を実施。
勤続10年以上の職員が3分の一以上で、育児休暇など労働条件も整っている。
正規職員、特に看護師・介護福祉士・心理療法士など専門職の比率が高く
積極的に研修派遣、通信教育補助など職員のスキルアップに取り組んでいる。

つまり、良い施設にはよい職員が集まり離職者も少ない、という単純明快
な結果がでている。
一方、離職率30%以上の施設では女性退職者の40%が、「職員同士の
人間関係がうまくいかなかった」ことを理由に挙げている。この数字は
(略)管理者側に処遇以前ともいえる人事管理、組織運営上の問題がある
ことを示している。こうした施設に限って正面玄関に「理事長専用」と大書
された駐車スペースがあり、高級外車がドーンと鎮座していたりする。

遅かれ早かれ経営革新を進めている大規模法人に呑み込まれてゆくだろう
し、その方が従業員にとっても幸せである。

プリント

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筆者の河内孝氏は、全国老人福祉施設協議会の理事を務める方であり、
最後の個所などは、ある意味、内部告発に近いものと読めます。

これまで、このブログで介護業界の人材問題について何度か取り上げて
来ています。

⇒ 介護現場の理想と現実(介護福祉士調査)から考える、これからの介護事業人材対策
⇒ 介護現場でのカイゼン活動文化と風土作り:改善活動で得る仕事への誇りとやりがい
⇒ 介護福祉士の賃上げとその先:誇りとやりがいを持つことができる資格・仕事に!
⇒ 介護労働力不足改善策、3つの提案を考える:日経・経済教室4/6付<社会保障改革の視点>から
⇒ 介護職員の慢性的人材不足と獲得競争激化の先:介護事業の諸問題-4

お時間とご関心がございましたら、チェックしてみて頂ければと思います。

地方自治体の要請と認可により、早期から社会福祉法人として公共的施設
として介護施設を運営してきた特養や老健については、一部、その利権にあ
ぐらをかき、介助サービスの質や事業運営の透明性などで批判・非難を受け
ていることが知られています。
一方、この書で紹介されるきたざわ苑やサンアップルホーム、灯光園など
のように、明確な事業理念に基づき、公的事業として責務を全うしている事
業施設も多く存在します。

それらのモデルとなる社会福祉法人と、経営理念に基づくガバナンスとマ
ネジメントを確実に実践する民間介護事業者が、この業界を望ましい形、レ
ベルに改善・革新していってほしいと切に願っています。

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