社会と個人が作る、男性介護者が孤立しない社会:『男性漂流』<第3章・介護がこわい>から(10)

中年男性が苦悩の淵に追い込まれている数々の問題の中から、
「結婚」「育児」「介護」「老い」「仕事」という5つのテーマを取り上げた
男性漂流 男たちは何におびえているか』
奥田祥子さん著:講談社+α選書・2015/1/20刊

その<第3章 介護がこわい>を引用紹介しながら、男性も親の介護を担う
ことが当たり前になり、避けられなくなり、義務化していく今とこれからを
考えるシリーズ
第1回:ケアメン、男性介護が当たり前の時代
第2回:悠々自適な「中年パラサイト」から介護生活へ暗転
第3回:増えるシングル男性介護者。男性よ家事力を!
第4回:家事力強化、介護知識、介護休業制度。介護生活への備えを
第5回:介護不安を取り除くために、聞く、調べる、知る行動力・社会性を
第6回:介護生活が予想される人に必要な備え
第7回:家族介護における高齢者虐待の側面
第8回:「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」(男性介護ネット)に参加を
第9回:男性介護者の誰もが持つ深い悩み。男性介護ネットを利用して!
今回は、第10回、最終回です。

転載部分が長くなりますが、ご容赦ください。

---------------------
 家族介護者支援が急務
---------------------

 同居する親を一人で介護する中年の独身男性たちは、苦悩を共有できる
家族がいないばかりか、 仕事に大半の時間を費やしてきたために近所付き
合いもなく、孤独な無縁社会を強いられている。
 孤独なだけであれば、まだ自らの力で周囲の人間を頼るなど、明日への道を
切り開く方法は残されている。
 だが、 孤立したケースでは、 本人だけの力 ではどうすることもできな
い限界点を示しているように思う。
 紹介した事例以外にも、 孤立した介護を続ける過程で、うつ病を発症して
自殺未遂に至ったり、要介護者である親の虐待に陥ってしまったケースが少な
くなかったのには、衝撃を受けた。

 孤立のきっかけの一つが、介護を理由とした辞職なのではないか。
 介護離職の背景には、職務への責任感の強さから介護によって仕事が中途半
端になることを受け入れ難い傾向にある男性の特性もあるが、特にシングル男
性介護者は、養っていかなければならない妻や子供がいない分、無職の道を選
びがちだ。
 その先には、貧困というさらなる苦難がまち受けている。

 本来は介護者を支援すべき介護保険制度は、様々な問題点を包含している。
 最も指摘したいのは、家族の誰か一人だけに介護の負担が集中する場合、非
使い勝手が悪いという点だ。

 例えば、働きながら一人で介護を続けていくためには、食事の準備などの
家事支援が必須だが、同制度では要介護者に同居者がいる場合、それが一人で
あろうと複数であろうと、仕事をしていようがいまいが関係なく、訪問介護サ
ービスのうち生活援助(家事援助)が保険の枠内では利用できない
 介護者が疾病や障害によって家事をおこなうことが困難な場合など例外もあ
り、厚労省は「一律、機械的に判断しているわけではない」というが、大半が
要介護者が一人暮らしかどうかで判断されているのが実情だ。
 つまり、仕事に就く者が一人在宅で介護する場合、保険だけではとてもカバ
ーしきれないのだ

それに対し、種々の施設に入ればいいのではという意見に対して
◇介護者にある「家族に孤独を味わわせたくない」という気持ち
◇施設に入れることに対する隣近所の偏見に対する気持ち
◇要介護者自身の、在宅介護希望
◇特養等入所希望者数に対する入居待ち状況
◇民間施設などの設備やサービスに対する不安
などの例を上げた後、こう状況を説明します

その結果、介護サービスを利用した世帯のうち、施設入所にあたる「居住系
サービス」はわずかに3.9%。
 「介護の社会化」をめざし、2000年度からスタートした介護保険制度だが、
利用割合が断トツで高い上位2つのサービス「訪問系サービス」54.0%、
通所系サービス」48.1%のいずれも介護の拠点は自宅。
 要介護者に一番 長い時間付き添って世話をしなければならない、すなわ
大きな負担を背負うのは家族なのだ。

きたざわ苑

今最も求められているのは、家族介護者への支援である。
(略)
介護者が嫁の時代が終焉を遂げ、働き盛りの息子が中心的な介護者として台
頭してきた今こそ、自身の働き方やケア能力に応じて、必要な身体介護や家
事援助などのサービスを自由に選び、 組み合わせることが可能な現金給付
を選択肢に加えるべきである。(略)

さらに、孤立した男性介護者には、悩みを受け止め、解決への道をアドバイ
スする社会的な支援が欠かせない。
高齢者総合支援センターや地域包括支援センターなど相談に応じる機関はあ
る。
しかしながら、介護者が自分からそうした情報を入手して出向いていくのは
むずかしく、近隣住民や民生委員らが窮状を察知して関係機関に援助を求め
る可能性も低いのではないか。
外部から介護者に働きかける、巡回、訪問しての 相談事業の展開など、な
おいっそうの支援策を早急に進める必要がある

いつの日か、介護をしてこそ充実した人生、と家族介護者が心から実感でき
るような社会が訪れてほしい。
誰しもが家族の介護を経験する可能性がある時代、孤立化したケアメンたち
の苦境は決して他人事とは言えないだろう
現在、介護をする人もそうでない人も、皆が介護をめぐる動向について目を
光らせ、考え、少しずつでも 声を上げていくことが、社会を動かす力にな
るのではないだろうか。

159300
-----------------------------

動かすべき「社会」とは何か?
ここを明確にしておく必要があると感じます。

弱者をどのように支援するか。
これが社会保障制度の原点と思いますが、その保障を行うには、財政的な
資源、国や自治体に豊かさが必要です。
従い、動かすべき社会は、そうした社会保障制度を運用していくことがで
きる社会であることが前提となります。

私は、その社会の前提は、個々人が社会人としての役割・責任を果たすこ
とにあると考えています。
それがないと、社会保障制度は成り立ちません。

加えて、社会保障制度を享受する人には、感謝の念が必要とも思います。
受けて当然ではなく、受けるべき人が安心して受けることが可能な社会の
一員として望ましい行動を常日頃から心がけている・・・。

そして、だれしもが介護を担う可能性があるが故に、そうした厳しい状態
を迎える可能性があることを想定し、それに備える生活を日頃からしている。
 それが、非常に厳しいこともイメージでき、介護について、制度や介護サ
ービスの内容や施設や必要な費用等、種々調べ、知っておく必要があります

国や自治体の啓蒙・PR活動も必要であり、ひとり一人が自分で調べ、備え
る必要もあります。

私は、「自宅介護」よりも介護施設での「居宅介護」を進めるべきと考え
る立場です。
自分よりも若い世代には、まず自分の子供・家族を大切にした生活を送り、
社会の一員としての役割・責任を 果たしてほしい、と願っています。
親である私たち夫婦は、できるだけ、長く自分たち夫婦での生活を送り、
必要になれば、可能な範囲で介護しあう。
それが無理になったら、経済的に可能な範囲・条件内で介護施設のお世話
になる。
そうありたいと思っています。

今後期高齢者の方々の多くは、ご自身の親の介護の経験がないのではと思
います。
 受給している年金も、収めた保険料を大きく上回る額を、生涯に受け取る
ことができます。
 素直に感謝すべき、またできる年代と思うのですが、意外に「当り前のこ
と」としている方が多いのでは、とも・・・。

独身の息子や娘が親の介護で苦悩する社会よりも、結婚して家庭を形成し
た息子や娘が、自分の子供たちを育て、皆が社会の一員としての役割を果た
し、孫の世代へと引き継いでいく・・・。
 そういう社会が望ましいのでは、と思う者です

親子の関係。
多様なあり方を否定せず、より幸福であることを願うだけです。

三世代

関連記事一覧