複雑化する介護保険制度をシンプルに:『在宅介護』より(12)

介護業界の方々と、介護者・要介護者、介護に関心をお持ちの方々に是非とも
お読み頂きたい書。
在宅介護――「自分で選ぶ」視点から (岩波新書)
結城康博著2015/8/20刊)

このブログでは、本書をできるだけ引用し、私の狭く、少ない経験から
意見を添えさせて頂き、これからの介護を考えていきます。
<序章>の一部の紹介から始め、次に<最終章>の提言を紹介。
その後<第1章>に戻り、順に進めていきます。
長いシリーズになりますが、時々トピックスを挟みます。

今回は第12回です。

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 最終章 4.あるべき日本の介護システム(1)
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<単純な仕組みに変革すべき>
介護保険制度が創設されて15年が過ぎ、かなり複雑な制度に変容して
きている。
高齢者やその家族が、初めてこの保険を利用しようとしても、
充分に
理解することは難しい。
現場の専門職でさえ、3年ごとに変わる介護報酬や法改正を把握する
のに時間がかかり、制度改正後の数か月は、新制度を理解する上で
残業続きの日々である。
そのため要介護高齢者と充分にコミュニケーションをとる時間が少な
くなっている。

しかも、同制度の事務作業は「コンピュータ化」されているため、
PC技術やPCソフトの改修なしには、法改正に対応できない。

また、介護サービスは本来、生活全般を支える仕組みでありながら、

日々、複雑な介護報酬における「加算」などの上乗せ収入を得るため
の記録や事務処理に追われており、これらの能力の高い専門職が、
”優秀な職員”として位置づけられる傾向がなくもない。

 このように、利用者が制度を理解できず、しかも専門職が事務作業
に追われる背景には、介護保険制度が複雑化していることが大きな要
因としてある。
 制度をシンプルにすることで、このようなシャドーコストは軽減さ
れるであろう。

<医療と介護の概念の違い>
 医療政策と介護政策は不可分ではあるが、これらを構成するにあた
っては、根本的に異なる概念であることは踏まえておくべきである。
 研究者や政策立案者の一部には、とかく「医療や看護政策はデータ
に基づいて政策が練られている。しかし、介護政策は、エビデンスが
曖昧なまま政策が練られている。現場感覚に依存する施策と見受けら

れる。」と比較する声がある。

 たしかに、政策を練るには一定程度のデータやエビデンスは必要で
ある。
 ただし、医療は「疾病」などデータ化しやすい事象を対象としてい
る一方で、介護は個々の環境、生活文化、家族関係などの「生活」に
基づいて対応するため、単純にデータ化できるものではない。

 介護政策を練るには、一定の普遍性に基づいた対応策は必要ではあ
るが、最終的には個々のケースに応じた施策が求められる。
その意味で介護政策は、「生活」という概念を念頭に置きつつ、個
性という考え方も重視しながら寝られるべきであろう。

「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」構成
1.介護における格差
2.産業としての介護
3.これからの政策と財源論の方向性
4.あるべき日本の介護システム
5.介護は社会投資である

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事務作業の複雑化・増大については、筆者の主張のとおりと考えます。
生産性の向上を介護現場でうたうことには、かなり無理があると思ってい
ますが(ただし、改善の積み重ねは必要であり、可能です)事務作業レベル
で現業トータルの生産性向上にブレーキを掛けることは、愚行以外のなにも
のでもありません。

今年4月の改正内容を見て、正直、どういうことかすぐに理解できません
でしたし、事務作業の煩雑化は、簡単に想像できました。
次回、2018年の改正時に果たして改善できるかどうか・・・。

医療と介護の違いも、その通りと思います。
データ化できないことはないのですが、
◆そのためには、時間・作業に相当のコストがかかること、
◆そのための作業は介護サービス実務ではなく事務作業になること、
◆そのコストに見合った報酬が介護事業において得られることには決し
てならないこと(医療では、システムコスト、処理コスト等が含まれる高い
診療報酬体系が存在する)
◆そのデータを活用することでさほどの効果を期待できないであろうと想像
されること
などの理由によります。

※次回、4.あるべき日本の介護システム(2)
<平成の大合併を軽視しない><介護福祉士と准看護師の資格統合>
に続きます。

そこで、「あるべき介護システム」として、従来にない視点での提言・
提案がなされるでしょうか・・・。

 

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【結城康博氏プロフィール】
1969年生。淑徳大学社会福祉学部卒
法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)
介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として
介護系の仕事に10年間従事
現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)
厚労省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を4年間務める。
社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー有資格者
<著書>
『医療の値段ー診療報酬と政治』
『国民健康保険』『孤独死のリアル』
『日本の介護システムー政策決定過程と現場ニーズの分析』他
介護―現場からの検証 (岩波新書)』を

 

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【『在宅介護』からシリーズ・ラインアップ】
第1回(序章):『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
第5回(最終章):多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
第7回:これからの混合介護のあり方を考える
第8回:介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回:介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回:福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?

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