地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性:『在宅介護』より(13)

介護業界の方々と、介護者・要介護者、介護に関心をお持ちの方々に是非とも
お読み頂きたい書。
在宅介護――「自分で選ぶ」視点から (岩波新書)
結城康博著2015/8/20刊)

このブログでは、本書をできるだけ引用し、私の狭く、少ない経験から
意見を添えさせて頂き、これからの介護を考えていきます。
<序章>の一部の紹介から始め、次に<最終章>の提言を紹介。
その後<第1章>に戻り、順に進めていきます。
長いシリーズになりますが、時々トピックスを挟みます。
第1回(序章):『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
第5回(最終章):多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題

第7回これからの混合介護のあり方を考える
第8回介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回複雑化する介護保険制度をシンプルに

今回は第13回

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 最終章 4.あるべき日本の介護システム(2)
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<平成の大合併を軽視しない>
 筆者は、国の「地域包括ケアシステム」構想は、その理念には賛同するとし
ても、恐らく多くの市町村では机上の空論に終わるであろうとみる。

 確かに、一部、先駆事例として紹介され、優等生ともいわれる市町村は実現
できるかもしれない。
また、大都市部の市町村ではマネジメントをしっかり行えば、市町村の区域
がそれなりに限られた範囲であるため、マンパワーも効率的に配置できて、
「地域包括ケアシステム」実現の可能性は高いだろう。

 しかし、平成の大合併によって、2002年4月には3218市町村だったのが、14
年4月には、1718市町村へと統合されている事実は無視できない。
 一部の都市部を除いて、多くの保険者である市町村は、広範囲にわたる区域
介護施策を考えていかなければならない。
 大都市部では、訪問介護・ヘルパーなどの介護事業所は、工夫次第で単体サ
ービスのみでも黒字化する可能性はある。
 それに対し地方では、ヘルパーが片道40分以上もかけて訪問するようなケー
スが珍しくなく、介護事業所はいくら努力しても赤字になるばかりで在宅サー
ビスの拡充は期待できない。

 それゆえ、多くの地方を中心に、現行の国の政策・施策は大きく転換して、
施設と在宅との両面での経常収支を考え、たとえ在宅部門が赤字であっても施
設部門の報酬を引き上げるなどして、施設と在宅とで調整できる介護報酬体系
にするべきである。

 全国的に「在宅介護を推進」するのだとしたら、地方に展開されている老人
保健施設や特別養護老人ホームを基盤としながら、それらに在宅部門を担うイ
ンセンティブを与えていく必要がある。
 老健や特養が、積極的に24時間対応の定期巡回訪問サービスや訪問看護
ステーションの事業を展開するのであれば、それに応じて施設報酬を上乗せさ
せていくのである。
 つまり、これらの介護施設の半径5~20キロ圏内の地域の高齢者全員のケア
を考えていくことで、地方においても在宅介護資源が見込める。

 なお、在宅医療においても、「総合医の力が不可欠であり、そのような開業
を増やすべきである。そのため、全大学の医学部でジェネラリストの医師教
育に
力を入れていくべきだろう。
 地域医療に明るい医師が増えれば、地域をマネジメントできる医師も多くな
り、
医療と介護の連携が活発化される。

 


<介護福祉士と准看護師の資格統合>

もうひとつ深刻な問題は、看護と介護の人材不足である。

 医療機器の発達などにより素人の家族などが「胃ろう」「インシュリン注射」
「喀痰吸引」などの医療行為を行っている。

 しかし、これらの医療行為は、実質的には生活の一部の療養(介護)と位置
づけられなくもなく、介護と看護の中間に属する行為といえる。
そこで「准看護師」を廃止して、介護福祉士と統合した「療養介護福祉士」と
いった新たな資格を創設してはどうかと提案したい。
(准看護師の資格と仕事についての記述、略)
給与面では准看護師を介護福祉士には、年収ベースでかなりの開きがあり、
その差約70~100万円・
しかも、介護福祉士は2根間で受験資格が得られ、国家試験に合格すれば国家
資格を有することになる。
一方で、准看護師も2年間の養成課程で受験資格が得られるものの、試験に合
格しても国家資格とはならない。
そのため、介護福祉士の養成課程に、准看護師のカリキュラムを取り入れて、
現在の介護福祉士における短大教育などの養成課程を2年から3年に延長すること
を提案したい。
そして、准看護師レベルの医療行為と、介護業務を一人の専門職ができるよう
に変更すれば、看護師不足もかなり解消され、かつ介護福祉士の賃金も「准看護
師」レベルに引き上げられると考える。
介護士の賃金引上げは必要不可欠であるが、ニーズの高い医療行為を可能とす
るシステム変革によって、社会的にも介護士の賃金上昇への認識が高まると考え
る。

なお、現在「介護福祉士」と「保育士」の資格も統合する議論が、国の介護士
人材不足を議論する場でなされている。
 同一の社会福祉法人が特養や保育園を経営しているケースも多々見られ、法人
内で人事異動が融通できる可能性が期待されている。
 しかし、「介護福祉士」と「准看護師」の統合は、現場ニーズにも有効と考え
られるが、「介護福祉士」と「保育士」の統合は、技術を身につけるといった養
成・育成の視点で課題があり、慎重に考えていくべきであろう。



「最終章 これからの在宅介護はどうあるべきか」構成
1.介護における格差
2.産業としての介護
3.これからの政策と財源論の方向性
4.あるべき日本の介護システム
5.介護は社会投資である

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平成の大合併からのデメリットに視点をあてると筆者の指摘が当たっている
と思われます。

しかし、それは、「在宅介護を推進する」からであり、広域化したがゆえに、
軸となる介護施設が、多様なニーズをカバーできるように多機能化、総合化を
図る契機となるべきことを意味します。
在宅介護・訪問介護機能を、特養や老健が担う。
実は、それも多機能化・総合化の具体化でもあります。

それとは別に、入所受け入れ可能な施設への拡充・拡張、デイサービス施設・
機器・サービスの拡充などを行うことで、在宅から施設への流れを促す。
家族が、可能な限りその施設を訪問し、外出などをサポートする。
介護スタッフの在宅介護業務の比率を下げ、施設介護の比重を高めていくこ
とで安定した運営と、スタッフの採用・定着・養成の安定化にもつなげる。
困難な家族介護の負担を減らし、プロの質の高い、安心できるサービスを施
設居宅で受けるわけです。

厚生年金基金受給の入所者が、その年金の範囲でできるだけ収まる費用で生
活できる施設運営モデルを構築することを目指します。
公営または社会福祉法人による経営が望ましいですが、同レベルで運営可能
な民間事業者の参加を推し進めることも可能とすべきです。

「療養介護福祉士」の構想は、既存の准看護師と介護福祉士をどうするか、
という問題の解決策・改善策を同時に提示する必要があります。
その方法が納得度、具体化度が高ければ、導入という流れになります。
ただ、統合により介護スタッフの賃金の引上げにつながる、ということは、
職務内容の変更に基づくものであり、その業務に携わらないスタッフには関係
ないことです。
疑問が残ります。

この項での筆者の提言には、合理性もありますが、全面的に正しいか、適切
かどうかとなると、やはり、疑問や課題が残ります。
もうひとつ、こうした改善をどのように実現していくのか、その方法を具体
化する必要が欠かせません。

そのプロセスのデザイン、ある意味、戦略を描くことが最重要課題です。

 

※次回は、最終章最終項の 5.介護は社会投資である 
になります。

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【結城康博氏プロフィール】
1969年生。淑徳大学社会福祉学部卒
法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)
介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として
介護系の仕事に10年間従事
現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)
厚労省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を4年間務める。
社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー有資格者
<著書>
『医療の値段ー診療報酬と政治』
『国民健康保険』『孤独死のリアル』
『日本の介護システムー政策決定過程と現場ニーズの分析』他
介護―現場からの検証 (岩波新書)』を

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【『在宅介護』からシリーズ・ラインアップ】
第1回(序章):『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
第5回(最終章):多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
第7回:これからの混合介護のあり方を考える
第8回:介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回:介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回:福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回:複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性

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