高齢者・家族、双方にとって有益な施設介護を:『失敗しない介護施設選び』から(3)
実際に20年間以上社会福祉法人での特養運営の経験者が書いた
『失敗しない介護施設選び』(横江金夫氏著・幻冬舎・2015/8/25刊)。
これまで取り上げてきた
『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』
(結城康博氏著2015/8/20刊)
を基にしたシリーズと対比させて
施設介護を推奨する視点で、紹介を始めました。
第1回:施設介護、在宅介護を比較する
第2回:高齢者自らが施設介護を選ぶ社会は?
今回が第3回
第5章
【施設入居は、人生の第二のスタート。追求すべきは「最期まで充実した人生」】
から、数回引用していきます。
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「年寄りは家族が看るもの」という社会的圧力
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介護施設への入居をためらう理由には、「年寄りは家族が看るもの」とい
う社会通念があります。
在宅死と比較して、病院死が圧倒的に多くなったのは1990年代のことです。
それ以前、特に1970年代頃までは、家族が高齢になったら自宅で介護をし、
看取るというのが一般的でした。
そのため、昔ながらの価値観が強い地域では、「家族がいるのに施設に入
れるなんて、世間体が悪い」とか、「施設に入れるのは家族の責任放棄」と
考えてしまう人もいるかもしれません。
しかし昭和の時代と今とでは、社会も家族の形も大きく変わっています。
現在、高齢者の家族形態でもっとも多いのが、子どもが独立して夫婦だけ
になった世帯です。
このような世帯で夫婦のどちらかが要介護になると、どうしても老々介護
になります。
そして在宅介護によって、介護する側の高齢者にも大きな負担がかかり、
高齢夫婦が共倒れになってしまうケースがあります。
また高齢者を家で看るのが当然という時代に面に介護を担っていたのは、
専業主婦として家を守っていた嫁や娘でした。
今は、嫁も娘も社会に出て仕事をしていますから、以前のように介護に
時間や労力を割くのは難しくなっています。
最近は、息子を含めた子ども世代が親の介護のために仕事を辞める「介護
離職」も、大きな問題になっています。
介護を理由に働き盛りの世代が離職してしまうと職場も痛手が大きいです
し、介護を終えたときに再就職をするのが難しいことも多く、経済的に行き
詰ってしまう場合もあると聞きます。
このように介護者が身体的・精神的に厳しい状態で介護を続けていると、
疲労やストレスが高じてしまい、高齢者虐待や介護放棄につながるなど、か
えって不幸な結果に陥る恐れもあります。
そうした事態になる前に、家族以外の「人の力を借りる」、つまり納得で
きる施設を探して介護を託すことは、高齢者本人にとっても家族にとっても
有益なことです。
むしろ、高齢者が介護施設に入居すると、高齢者と家族の間に適度な距離
が生まれ、「いろいろな面でゆとりができ、互いに相手に優しく接すること
ができるようになった」と話すご家族もたくさんおられます。
社会の変化に合わせて、介護のスタイルも変わっているのです。
それにしても「介護離職」が当たり前になってしまった社会は、どう考え
ても正常ではないような気がします。
介護自体にコストがかかるのに、その収益源である就労・仕事を辞める。
辞めたままの生活、介護生活がそのまま続くとすれば、貯金や資産がない
限り、生活が破綻するのは目に見えています。
それは社会が悪いからか、介護を必要とする親の責任か・・・。
その両方であると思います。
「年寄りは家族が看るもの」という社会通念。
それ自体、私は疑問を感じるのですが、仮にそれが社会通念であった時
代の平均寿命が今とはまったく違っていたはずです。
ということは、年寄りのとらえ方が違っていた・・・。
1960年時点での平均寿命は、男性が65.32歳、女性が70.19歳。
それが、2014年には、男性80.50歳、女性86.83歳と、まったく異次元に
伸びていると言えるのです。
15年間も年寄りを看る期間が長くなっているのです。
これはあくまでも平均的に見てのことですから、もっと長く看るべきお
年寄りが増加しているわけです。
そのことを「親」の世代は認識していないんですね。
年寄りの面倒は子どもが看るべきと、いつまでも子ども扱いしている。
その子どもにも子どもがいて、親でもあることをあまり真剣に考えては
いない。
まして、独身のままの子どもは、永久に親の面倒を看るべき子どものま
まの認識で、独立した人生を歩むべきという本来の親として子を支援し、
子に促すべき役割を喪失してしまっている。
果たして、団塊の世代の親の感覚は、どうなのでしょうか?
多くの団塊世代が、老老介護を担わざるを得ない人生を送っているので
は、と思います。
その世代は、自分が親の介護をしてきたのだから、子どもにもそれを
当然のこととして求めるのか、否か・・・。
果たして、どう社会は変わっていくでしょうか・・・。
否、それぞれの世代が、社会をどう変えていくのでしょうか・・・。
次回、<介護施設での生活を充実させるには>に続きます。