介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題:『「在宅介護」介護士不足の問題』から(2)

以前【『在宅介護』より】と題したシリーズで取り上げた
在宅介護「自分で選ぶ」視点から』。
(結城康博氏著2015/8/20刊・岩波新書)
その「第7章 介護士不足の問題」を参考に、
介護職の仕事・資格・賃金・労働環境と人材不足問題を考えます。


「第7章 介護士不足の問題」
第1回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
今回は第2回です。

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 2.介護士という資格
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<介護職員初任者研修から介護福祉士まで>
介護士の資格とは、どのようなキャリアパスになっているのか。

基礎的な資格として「介護職員初任者研修」という講習を受けること
で、介護士のはじめの一歩となる資格が取得できる。
 かつては、ヘルパー2級資格とも言われた。
この資格は在宅系であれ施設系であれ、介護の仕事に従事するので
あれば、まず取得すべき資格である。
通常、2~3か月ぐらいの期間で受講が終了し、費用は5万~15万円
が相場となっている。
なぜ受講料に幅があるかというと、自治体などの補助金が活用され
ているか否かで違っているから。
たとえばインターネットで「ヘルパー講習会」と検索すると、多く
の会社で資格講習会を催しているが、詳しくみると自治体主催の講習
会もある。

 さらに専門性が要求される「介護福祉士」という国家資格がある。
 これは介護士資格の中ではもっとも上級のもので、介護関係の専門
学校や短大を卒業する、もしくは介護業務に3年以上勤務し、既定の
講習を受ければ介護福祉士国家試験の受験資格が得られ、試験に合格
すれば取得できる。
以前は、実務経験3年以上のみで受験資格が得られたが、2016年度
の受験者から実務経験後、半年程度の講習を受けなければならなくな
った。
また、かつては専門学校や短大を卒業すれば同時に資格が得られた
のだが、16年度卒業生からは国家試験を受験し合格しないと資格が得
られなくなった。
なぜならば同資格の質の向上が目指され、併せて医療ケアの一部も
担えるようになったからだ。

 なお、一般的に「介護職員初任者研修修了者」「介護職員基礎研修
修了者」「介護福祉士(国家資格)」という緩やかなキャリアパスに
なっている。
 「介護職員基礎研修修了者」とは、「介護職員初任者研修修了者」
がされに講習を受けて得られる資格であるが、このプロセスを踏まず
に実務経験などをクリアして介護福祉士国家試験の受験資格を取得す
る介護士も多い。

 しかし、これらの資格の定義や社会的評価があいまいな側面は否め
ない。
 なぜなら利用者や家族らには「介護士」の資格制度について詳しく
認識されておらず、すべて同じ「介護士」と理解している人も多い。
 在宅介護現場では、アルバイト携帯(登録型)で「介護職員初任者
研修」を修了した資格のみで働き続ける人も少なくない。

 上級資格を取得してもさほど給与面でのアップが見込めず、特に
在宅ヘルパーの多くが非常勤職員であるため、無理して介護福祉士を
取得しない。
 実際、資格を取得しても100~150円程度しか時給がアップしないよ
うだ。
 もっとも、施設であれば介護福祉士を取得すれば月給が1万円アッ
プするのが一般的なのだが。
 いずれにしても講習を受けて国家試験を経る負担を考えると、介護
福祉士への途を躊躇する人も少なくない。 

<無資格でも施設では働ける>
 なお、法令上は施設の介護現場では無資格で働くことも可能である。
 3年以上の実務経験があれば、一定の講習後に介護福祉士の受験資
格を得ることができるため、しばらく無資格のまま働き続ける施設系
介護士も多い。
 高校を卒業した若者が無資格で施設で働き続け、実務経験を経て資
格取得するケースもある。
 ただし、在宅介護現場においては「介護職員初任者研修修了者」の
有資格者でないと現場では働けない。
在宅では一人で専門的な判断が迫られることもあり、有資格者が条
件となっている。

 つまり、必ずしも介護士は、資格がなければ介護の仕事に従事でき
ない「業務独占」的な資格ではなく、「名称独占」としての側面が強
い。
 看護師や薬剤師は資格がなければ業務ができないのに対して大きな
違いがある。

 これらが介護資格の社会的評価を高めていない要因でもあろう。


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介護職員としての就労の壁を低くして、多くの人たちが介護という仕
事に関心を持ち、この業界を仕事の場として選択しやすくする。
そういう意味では、無資格でも働くことができるメリットはあるかも
しれません。

ただ、簡単に雇用されることは、ミスマッチを引き起こす可能性も大
きい。
何よりも適性があるかどうか、現場の仕事がどういうものか経験して
みないとその大変さは分からないことなど、不安な要素は多々あります。

私の義母が入居しているサ高住は、当然ですが居宅支援事業も併設し
ており、介護福祉士も2人以上います。
その介護福祉士資格を持つ人は、管理職的業務の立場とされているの
でしょうか、土日・祝日は公休で、土日・休日も交替勤務シフトがあ
る他の介護職員の方とは異なる労働条件で就労しているようです。

私は現在、毎週末に施設を訪問しており、介護福祉士資格を持つ、担当
のケアマネジャーと直接話をしたいこともあるのですが、お休みなので
顔を合わせることができないのが不便・不満です。

「業務独占」的な資格ではなく「名称独占」資格。
という表現があることをこの書で知ったのですが、「名称独占」という
表現と意味は、どうもしっくりきません。
むしろ「名称」定義のあいまいさが問題であるように思うのですが。

それと、利用者や外部から見て、資格の種類と仕事の違いが分かり
にくいのは事実。
有資格者であるか、無資格の職員なのかの見分けもつきません。
信頼性の根拠が薄くなる要素と言えるでしょうか。

ただ、ハードな仕事であることは間違いなく、資格を持つ方々に、そ
の仕事をやって頂けることが、利用者や家族の安心感・信頼感を強くす
ることは間違いありません。

そのためにも、苦労して資格を持った方々が、少しでも優遇されるべ
きとも、当然思います。

なお、介護士資格制度のあり方について、筆者の結城教授は、本書の
最終章において
<介護福祉士と准看護師の資格統合>として改革案を提起しています。
それについては
地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性:『在宅介護』より(13)
で紹介しました。

次回は、「3.介護士養成の難しさ」です。
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【結城康博氏プロフィール】
1969年生。淑徳大学社会福祉学部卒
法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)
介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として
介護系の仕事に10年間従事
現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)
厚労省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を4年間務める。
社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー有資格者
<著書>
『医療の値段ー診療報酬と政治』
『国民健康保険』『孤独死のリアル』
『日本の介護システムー政策決定過程と現場ニーズの分析』他
介護―現場からの検証 (岩波新書)』を

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【<『在宅介護』>からシリーズ・ラインアップ】
第1回(序章):『在宅介護』は、介護業界と介護に関わるすべての方々にお薦めしたい図書
第2回:家族構成の変容が、家族による在宅介護を困難に
第3回:変わりつつある、介護施設・在宅介護への認識
第4回:結城康博教授の、これからの介護のあり方への提言に期待して
第5回(最終章):多重介護、年金受給額差、高齢者間経済格差にみる介護問題
第6回:介護保険制度と年金制度運用方法をめぐる課題
第7回:これからの混合介護のあり方を考える
第8回:介護事業の性質から考えるべきこと
第9回:介護事業がFCビジネスに不適な理由
第10回:介護保険料・公費負担・自己負担増。介護保険制度と財源めぐる課題
第11回:福祉循環型社会システムは景気回復につながるか?
第12回:複雑化する介護保険制度をシンプルに
第13回:地域の実情に応じた在宅介護・施設介護政策の必要性
第14回(第7章):介護制度コストと介護職賃金は社会投資か?
第15回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第16回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題

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