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失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題:『「在宅介護」介護士不足の問題』から(5)

良書『在宅介護「自分で選ぶ」視点から
(結城康博氏著2015/8/20刊・岩波新書)。
以前それを基に【『在宅介護』より】と題したシリーズを投稿しました。
今回はその書の「第7章 介護士不足の問題」を参考に、
介護職の仕事・資格・賃金・労働環境と人材不足問題を考えています。


「第7章 介護士不足の問題」
第1回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第2回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第3回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第4回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
今回は、第5回です。

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 3.介護士養成の難しさ(3)
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<失業した求職者の活用>
 2009年4がつから厚労省は求職者(離職者や失業者)を人材不足である
介護分野に労働移転する目的で、介護福祉士の資格取得を目指した2年間の
職業訓練事業を実施している。
この事業に応募した求職者は、ハローワークを通じて教材費や訓練受講
料が無料となり介護福祉士養成施設校に通うことができる。
その学生の1~2割は、このハローワークを通じた求職者である。

たしかに、こうして公費を用いて、資格を取得させる施策に意味がない
わけではない。
 しかし、実際にその学校の教員に聞くと、真面目に介護の途に再就職を
考える求職者もいるが、単に資格を取得するだけで介護分野に就職するか
は未知数な者もまずらしくないという。
 ただ、養成校としても定員割れが生じており、とりあえず一生懸命養成
して一人でも多くの求職者を介護分野への就職を促していくものの、実情
では学校経営上の観点から(受講)希望者はすべて受け入れているという。

実際に卒業した求職者を受け入れた介護施設の人事担当者に聞いてみる
と、再就職につながっている求職者がいる反面、とりあえず就職したもの
の1か月後には退職してしまう人も珍しくないという。

厚労省職業安定分科会雇用保険部会(第90回)-求職者支援状況につい
て」(2013年7月30日)によれば、介護福祉士資格を取得できる事業を受
した求職者は2011年10月~13年5月の期間で総計約3.4万人。
 しかし、その年齢構成は39歳以上が約4割で、40歳以上が5割以上を占め
ている。
 他の医療事務屋IT分野資格などを取得できる事業と比べると、介護分野
では圧倒的に40歳以上の占める割合が大きい。
 その中には介護業務に相応しい求職者もいるかもしれないが、やはり介
人材不足を解消するには、若い20~30代が中心となった労働移転を考え
いくべきであろう。

 介護という資格には一定のスキルが必要であり、資格取得後も技術を磨
ていく必要がある。
 やはり、新卒者を中心とした若い世代が介護労働分野に参入していかな
と、介護業界の活性化にはつながらない。
 その意味では、繰り返すが給与法面での改善は喫緊の課題であろう。

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失業者の訓練と資格取得支援による介護業界への就労促進策。
その後の成果には、そう大きな期待は持てないだろうなと、率直なところ、
思います。
いわゆるコスパは悪い。
でもやらないよりはいい・・・。
そんな感じです。

実習も事前に経験するでしょうが、実際に仕事に就き、毎日その仕事をす
ることになれば、受け止め方・感じ方も違ってくるでしょう。
一般的に持つ以下のようなイメージが、現実のものになる可能性が高いわ
けです。

 

新卒者が介護労働分野に参入する環境を、と筆者は述べていますが、元々
若い世代は、他の仕事を経験した上で介護分野に入ってくる方が望ましいと
思っている私としては、それより先に行うべきことがあると思っています。

それは、第1回目で述べた、「潜在介護士」が介護の現場に戻ってくる、
労働条件・労働環境を整備・強化する方が先、ということです。

 

先輩資格取得者が魅力を感じず、離職率が高い職種・業務という現状から
改善することが先決です。
それなしで、新卒者に介護業界を選択することを促すのはおかしいですね。

 

現状は、人手が足りないから労働条件が悪化し、現場の仕事の負担が大きく
なっていくという面はあるでしょうが、以下にそれを断ち切るか・・・。

うまくいっている事業所を参考にする、真似る、など業界内において学び合
う、切磋琢磨する活動が必要です。
日本の製造業や流通サービス業は、そうしたプロセスを必ず経てきています。
そういう意味で、介護業界は、まだまだ未熟なのでは、と考えています。

だから、私は、若い世代には、そうした改善や創造・開発を日常業務で求め
られる他業種、一般企業での経験を持つべきと考えるのです。

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【結城康博氏プロフィール】
1969年生。淑徳大学社会福祉学部卒
法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)
介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として
介護系の仕事に10年間従事
現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)
厚労省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を4年間務める。
社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー有資格者
<著書>
『医療の値段ー診療報酬と政治』
『国民健康保険』『孤独死のリアル』
『日本の介護システムー政策決定過程と現場ニーズの分析』他
介護―現場からの検証 (岩波新書)』を

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