
外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて:『「在宅介護」介護士不足の問題』から(6)
良書『在宅介護「自分で選ぶ」視点から』
(結城康博氏著2015/8/20刊・岩波新書)。
以前それを基に【『在宅介護』より】と題したシリーズを投稿しました。
今回はその書の「第7章 介護士不足の問題」を参考に、
介護職の仕事・資格・賃金・労働環境と人材不足問題を考えています。
「第7章 介護士不足の問題」
第1回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第2回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第3回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第4回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第5回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
今回は、第6回です。
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4.外国人介護士は切り札か
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<EPA介護士の養成に携わって>
昨今、介護人材不足が深刻化しており、外国人介護士の受入れ議論が活発
化している。
すでにインドネシア、フィリピン、ベトナムにおいてはEPA(Economic
Partnership Agreement)の枠組みの中で、少ないながらその受入れが実施
されている。
彼(女)らが介護現場で活躍しており、中には介護福祉士国家資格を取得
してかなりの原動力になっている者もいる。
筆者は、2013年3月から4回の訪越(ベトナム)を経て、実際のEPA介護士
候補者らの育成・養成に携わっている。
第1陣の約120名は、14年8月15日から日本の介護現場で働き始め、第2陣
約150名も、現在、日本で研修中であり間もなく働くことになり、さらに第
3陣も、16年から、日本で働く予定だ。
このEPAの枠組みによる介護士らは、現場での評価も高く熱心に働いている。
(略)ただし、3年後の介護福祉士国家試験に合格しないと日本で働く続ける
ことができないため、日本語教育と介護業務の両立が課題となっている。
<ベトナムの労働市場を垣間見て>
2014年3月、ベトナム北部にある某工業団地を訪ね、ベトナムの労働状況
を視察した。
同団地が実施したアンケート調査によれば、ホワイトカラー層の大卒初任
給は約3.1万円で、ブルーカラー層である高卒初任給は約1.6万円。
この近辺の工業団地は、ベトナム国内では賃金水準も高く、公募すると
多くの応募者が来るという。
一般的に同国内の最低賃金は高い水準でも1.2万円。
仮に、ベトナム人が介護士として日本で働くことになれば、EPA事業で
は日本人と同一賃金であるため、いくら初任給は低くても毎月15万~17万
円前後となる。
その中から居住費などの生活費を考慮しても、ベトナムの貨幣価値で考
えるなら相当な高収入になる。
ベトナムの労働市場と庶民の経済事情を分析すれば、自ずと日本で一生
懸命働く外国人介護士らの熱心さは理解できる。
彼(女)らは、自国の家族の生活も担っており、将来の夢ともいうべき
人生をかけて日本で働いている者が多い。
<在日フィリピン人介護士>
このほか、日本で働く外国人介護士の中には、EPA事業の枠組み以外に、
在日外国人として働く介護士もいる。
結婚によって来日したフィリピン人や、または離婚して母子家庭を支え
るために働く介護士も多い。
数年前から介護人材不足対策として在日外国人の介護雇用を試みている
都内の特養を訪問(2012年8月)
ある在日フィリピン人介護士は旧ヘルパー2級有資格者で、ここで働い
て4年目となる。
日本語も流暢で夜勤業務もこなしている。
日本人男性と結婚したが間もなく離婚。
シングルマザーとして小学校の子どもを育てているという。
定住権があるため他の仕事も選択できるが、フィリピンにいた時から医
療・介護関係の仕事に関心があり、日本で働くことになったので介護士
の仕事を選んだそうだ。
この施設は日本人スタッフが丁寧に教えてくれるので働きやすく、この
まま働き続けたいということであった。
筆者は、外国人介護士を受け入れること自体を否定するつもりはない。
しかし、安易に労働力不足を補う視点のみで外国人介護士を受け入れて
しまえば、「介護は外国人の仕事である」といった意識を日本人に根付か
せてしまい、結果的にはさらなる日本人の介護士不足を加速させてしまう
と考える。
今後、介護士を100万人増やしていく必要性があるが、多く見積もって
もそのうち3~5%を外国人の協力を得るとすると、10年間で3万~5万人
を受け入れることになり、毎年3千~5千人の外国人介護士候補者を育成・
養成しなければならないことになる。
その際、質を担保にしながら、どう受け入れていくかが大きな課題とな
る。
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「介護は外国人の仕事である」といった意識を日本人に根付かせてしまい、
結果的にはさらなる日本人の介護士不足を加速させてしまう。
という指摘には、なるほど、と考えさせられます。
主体は当然日本人なのですから、そういった風潮が広がるのは確かにま
ずいですね。
加えて、そう簡単に日本語を習得し、介護の専門知識・技能も身に付け
ることは難しい、と現実をイメージできます。
やはり、一部を協力してもらう、というスタンスですね。
そして、日本で学び、日本で就労し、日本で生活した経験を、本国で活
かしてもらえれば、大変意義があり、嬉しいコト。
もちろん、日本が好きになり、定住し、永住権をとってもらうことも大
歓迎です。
3年間で国家試験が受からなければ帰国させるなどという野暮なことを言
わずに、本人が望めば、何年か延長してチャレンジできるようにすべきで
すし、まずは「介護職員初任者研修」を修了すれば、介護現場で就労でき
るようにすることも考えるべきと思います。
グローバル化先進国であるためにも可能な限り、外国人介護士とその候補
者・希望者の受入れ、育成に、国・自治体・業界が協力・協調して取り組
んで欲しいものです。
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【結城康博氏プロフィール】
1969年生。淑徳大学社会福祉学部卒
法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)
介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として
介護系の仕事に10年間従事
現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)
厚労省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を4年間務める。
社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー有資格者
<著書>
『医療の値段ー診療報酬と政治』
『国民健康保険』『孤独死のリアル』
『日本の介護システムー政策決定過程と現場ニーズの分析』他
『介護―現場からの検証 (岩波新書)』を
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