
高齢介護士が介護業務を補完する:『「在宅介護」介護士不足の問題』から(7)
良書『在宅介護「自分で選ぶ」視点から』
(結城康博氏著2015/8/20刊・岩波新書)。
以前それを基に【『在宅介護』より】と題したシリーズを投稿しました。
今回はその書の「第7章 介護士不足の問題」を参考に、
介護職の仕事・資格・賃金・労働環境と人材不足問題を考えています。
「第7章 介護士不足の問題」
第1回:介護士有資格者の大半が潜在介護士化する現状
第2回:介護職員初任者・介護福祉士。介護士資格・キャリアパス課題
第3回:福祉系学卒者のキャリアパスと介護業界の責任
第4回:介護職は人生設計上適切な選択か?学生にとって厳しい現実
第5回:失業者・新卒者・潜在介護士。介護業界が自ら変わるべき課題
第6回:外国人介護士候補者・希望者の受入れを国・自治体・業界上げて
今回は、第7回です。
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5.介護人材に秘策はあるのか?
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では、賃金水準改善以外に介護人材不足の秘策はあるのだろうか?
ここでは、元気な65歳以上高齢者で介護人材不足を補う試みと、離職率
が低い職場環境について考えてみる。
<60歳過ぎてヘルパー資格を取得>
2012年11月に、船橋市内の訪問介護事業所を訪ねた。
この事業所では70歳代のヘルパー2人、60歳代ヘルパ5人が非常勤(登録
型)ヘルパーとして働いていた。
しかも、旧ヘルパー2級資格を取得したのが60歳を過ぎてからという。
最年長76歳の女性ヘルパーMさんは、63歳でヘルパーの仕事を始めて10
年以上続けていた。
87歳の独居高齢者宅に週1回訪問して、掃除、買い物、オムツ交換の介助
を1時間程度行っているという。
Mさんは親の介護経験が長かったこともあって看取った後に、経験を活か
してヘルパーの仕事に就いた。
しかし、ベッドから車椅子への移動介助や入浴介助などの身体介護は体力
的に難しく、限られた介護業務に専念している。
取材当時、担当ケースが一人なので収入は月1万円程度しかない。
しかし、75歳を過ぎて収入が得られること自体が幸せと感じ、しかも仕事
を続けることでMさん自身の生活全体に緊張感が生じ、自身の介護予防にも
極めて有効だということだった。
<若いヘルパーには負けない技術>
たしかに、65歳を過ぎたヘルパーは20~40代のヘルパーと比べて体力的
には限界がある。
しかし、人生経験といった側面でカバーできる。
たとえば、在宅ヘルパーとしての仕事としては、オムツ交換や車椅子への
移動介助と言ったほかに、食事作りや家族対応、高齢者の話し相手などとい
った業務を軽んじてはならない。
特に、認知症高齢者と戦争体験や昭和時代の芸能話などの会話ができるこ
とも介護の一部として重要である。
話を合わせることができると、自然と信頼関係を構築でき、介護業務も
スムーズに運ぶ。
このような技術面は、多くの若いヘルパーには弱い部分である。
また、要介護高齢者の中には、掃除や洗濯、介助方法などに細かい注文を
つける人も少なくなく、ヘルパーが苦情(愚痴)を聞き流すぐらいの精神的
なゆとりがないと在宅介護を続けることは難しいこともある。
若いヘルパーは高齢者の「小言」を直に受けとめてしまい、感情的となっ
て仕事を続けることができなくなることもある。
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一口に高齢者と言っても、健康度や外見など個人差が非常に大きいですね。
65歳定年制をとる企業が随分増えました。
年金受給開始年齢が次第に遅くなっていく現状と、労働力人口の減少対策。
どちらが先か議論してもあまり意味はありませんが、高齢者という括り方
は、この個人差を見る限りでは、一律ではないのではと感じます。
健康年齢の高まりを考えてもそうです。
記事のように介護経験から、高齢になっても自身の健康にある程度自身が
あれば、介護士を目指す。
一つの流れにはならないかと思いますが、事例は増えてきそうな感じはし
ます。
ただ、話し相手的な存在としての活動なら、地域にある高齢者のためのカフェ
などでボランティア的に活動する事例は多いですね。
こうした活動に貢献して頂ける高齢の方々や、介護現場で介護業務を補完し
て頂ける高齢の方々自身が要介護になり、介護サービスを受ける必要がうま
れた時、何かしらの優先権やメリットがある制度があってもよいのでは、と
思ったりもします。
私自身がそうした活動に参加する気持ちを今は持ちえないので、それらの
ボランティア活動に取り組んでいらっしゃる方々や、高齢者介護士として介
護現場でご尽力頂いている皆さんには頭が下がります。
故に、その方々の活動が報われる制度やシステムがあればと考えるのです。
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【結城康博氏プロフィール】
1969年生。淑徳大学社会福祉学部卒
法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)
介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として
介護系の仕事に10年間従事
現在、淑徳大学教授(社会保障論、社会福祉学)
厚労省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を4年間務める。
社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー有資格者
<著書>
『医療の値段ー診療報酬と政治』
『国民健康保険』『孤独死のリアル』
『日本の介護システムー政策決定過程と現場ニーズの分析』
『介護―現場からの検証 (岩波新書)』他
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