
厳しさ増す小規模介護事業と介護業界の責務:東京商工リサーチ「老人福祉・介護事業」2015年1-10月期倒産状況から
前回、東京商工リサーチによる
<2014年度1年間の老人福祉・介護事業の新設法人数>動向を
◆2014年、老人福祉・介護事業の新設法人数減少:転換期にある介護業界を考える
として紹介しました。
同社による、2か月毎の【「老人福祉・介護事業」の倒産状況】を
⇒ 介護事業者倒産件数1-8月期、昨年1年間を上回り年間最多更新:新3本の矢で一層厳しく!?
⇒ 2015年1-6月、介護業者経営破綻、最多。介護事業経営の難しさも課題。
⇒ 2015年1~4月、老人福祉・介護事業者倒産件数過去最多ペース:小規模介護事業継承に警鐘
でこれまで紹介し、厳しい状況をお伝えしてきています。
その定例の2015年1-10月期版が、2015/11/11 に公開されていましたので
以下、引用させて頂きました。
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介護報酬が今年4月から9年ぶりに引き下げられたなか、
2015年1-10月の「老人福祉・介護事業」の倒産は62件に達した。
すでに前年の年間件数(54件)を上回り、介護保険法が施行された
2000年以降では、過去最悪ペースをたどっている。
(下のグラフ参照)
介護職員の深刻な人手不足という難題を抱えながら、業界には
厳しい淘汰の波が押し寄せている。
※グラフは、東京商工リサーチのHPで公開されているものを
利用させて頂きました。
これまでの状況の特徴として、以下を挙げています。
<2015年1-10月の倒産、過去最多を更新中で62件>
全体の企業倒産がバブル景気時並みの低水準で推移するなか、
2015年1-10月の老人福祉・介護事業の倒産は62件
(前年同期比34.7%増、前年同期46件)に達し、過去最多を更新中。
一方負債総額は、54億2,500万円(同17.3%減、同65億6,700万円)
と前年同期を下回っている。
負債10億円以上の大型倒産がゼロ(前年同期1件)だったのに対し、
負債5千万円未満が42件(前年同期比50.0%増、前年同期28件)と
増加し、小規模企業の倒産が大半を占めている。
<「通所・短期入所介護事業」の倒産が倍増>
◆「訪問介護事業」が25件(前年同期比19.0%増、前年同期21件)、
◆ 施設系のデイサービスセンターを含む「通所・短期入所介護事業」
が24件(同118.1%増、前年同期11件)と倍増。
<小規模事業所の倒産が約7割>
従業員数別でも5人未満が41件(前年同期比86.3%増、前年同期22件)
と増加をみせ、小規模事業所の倒産が全体の約7割(構成比66.1%)
を占める。
<設立5年以内の事業者の倒産が約6割>
2010年以降に設立した事業所が35件(構成比56.4%)と約6割を占め、
設立から5年以内の新規事業者が目立つ。
<形態別、事業消滅型の破産が9割>
◆破産の原因では、
1)販売不振(業績不振)の27件が最多(前年同期比8.0%増、前年同期25件)。
2)事業上の失敗が18件、
3)既往のシワ寄せが6件
の順。
◆破産の形態では、
1)事業所の解体・消滅が60件(前年同期比42.8%増、前年同期42件)
と全体の9割(構成比96.7%)を占め、
一方、
2)再建型の民事再生法は2件(前年同期2件)にとどまり、業績不振の
事業所の再建が難しいことを物語った。
同社は、以下のように分析。
老人福祉・介護事業は高齢化社会の有望業種として期待され、将来性
を見込んで新規参入が相次いだ。
だが、ここにきて倒産が増加している背景として、
1)介護事業への熱意はあっても、経営は全くの素人で経営能力に
欠ける事業者が少なくない
2)本業不振の穴埋めや経営多角化を目指し異業種から安易に新規
参入したが、過剰投資や勝手の違う業種で経営に苦慮する
ことなどが指摘される。
さらに、
3)景気改善と同時に人材が他業種に流出しやすくなったことで、
深刻な「人手不足」が経営基盤を揺るがし、人件費アップとして
経営を圧迫していることが推測される。
懸念される介護報酬のマイナス改定の影響には、タイムラグがある
とみられることから、収益改善が遅れている事業者の今後の動向から
目を離せない。
1)介護保険制度に基づく介護給付を主な収益源とするため、貸し倒れ
などの心配がなく、経験がなくても手掛けやすい事業と考えた。
2)高齢者数及び要介護者数が今後間違いなく、当分増え続けることが
見込まれ、利用者を容易に獲得できると考えた。
3)通所介護施設など、少人数のスタッフによる家族経営や小規模経営
を、少ない資本で開業でき、経営できると考えた。
4)介護という社会福祉事業で、社会的な貢献ができる、あるいはした
いと、誠意・誠実な動機ではあるけれど、比較的安易に考えた。
それらの感覚?で、未経験でも新規に参入する事業者・企業が多いので
は、と推測できます。しかし、モノを仕入れて販売する事業ではありません。
相手は人。
しかも、必要な支援・介助が皆、人によって異なる。
専門的な知識やスキルも必要で、身体的にも、精神的にもきつい。
施設によっては、交替勤務や夜勤もある。
訪問介護は、訪問先への移動時間や利用者宅により事情・状況が違う。
誰でも比較的簡単にできる、という仕事ではありません。
そして、一旦事業を始めたら、利用者がついたら、休めない。
営業活動も簡単ではありません。
事務処理手続きも多く、煩雑・・・。家業的に身内だけがスタッフならばその
範囲で事業を行えばなんとかなっても、
人を採用するとなると、規模が小さく、不安定ならば敬遠される・・・。
人は来ない。
自分たちもいつまで続けられるか、体がもつか・・・。ヨミが甘かった・・・。
こんなに大変だとは思わなかった・・・。いわゆる、「商売」、ショーバイの感
覚ではやれるはずがないのです。
本当に、淘汰され、業界上げて、その体質を改善・改革していくべき
段階に入っています。利用者数だけが急速に増えていくなか、施設と介護人材の
不足は一層厳しさを増します。
もちろん、その事業経営も・・・。
被害をこうむるのは利用者とその家族。
グレーな、ブラックな事業者がはびこることがないように・・・。
2016年に向けて、経営者・事業責任者と業界の覚悟と責任が問われます。
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