
川崎幸病院と杉山孝博医師の在宅医療への取り組み紹介:『長生きしても報われない社会』から(7)
『長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実』
(山岡淳一郎氏著・2016/9/10刊)を用い、
在宅介護と在宅医療について考えるシリーズです。
「第1章 在宅医療の光と影」
第1回:「看取り」でなく「あやめる」情動へ。在宅介護がもたらす社会病理?
第2回:愛情の在り方がもたらす在宅介護殺人事件
第3回:在宅介護政策が孕む介護苦殺人・心中事件リスク
第4回:「認知症の人と家族の会」をご存知ですか
第5回:厳しい在宅介護で魔が差すことがないように必要な「間(ま)」を
第6回:自治体、ケアマネジャー、NPO法人等、信頼できる相談先を!
今回は、その第7回です。
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笑ってやりすごせる空気
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認知症の介護現場にはさまざまな工夫やノウハウとともに破顔一笑の輝きも脈打っている。
人は、過酷な状況に身を置くと「笑い」を求めたがる。絶望と隣り合わせのどん底ゆえに
感情の振れ幅を広げ、泣き笑いの浄化作用の向こうに希望を見いだそうとする。
ここでは省略しますが、「家族の会」東京支部の代表、大野さんが同居したお姑さんの
エピソードが紹介されます。
(中略)
医療は介護の現場には、外からはうかがい知れない知恵が埋まっている。いわゆる「暗黙知」
といえるだろう。それを言葉に変え、「形式知」とすることで継承が可能となる。
本書では、いまや避けて通れない在宅医療、介護について、現場を起点に、地域、自治体、
国へと同心円状に課題を抽出し、何が必要で何を選択すればいいか考えていきたい。
まずは、在宅医療、介護の現場にスポットライトを当ててみよう。
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家にいながら治療を受けるために(1)
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神奈川県川崎市幸区。
さまざまな層の人が暮らしている地域で、40年にわたって在宅医療を切りひらいてきた先駆者が
いる。石心会川崎幸クリニックの杉山孝博院長である。
杉山医師は、東京大学医学部を卒業後、1975年に母体の川崎幸病院に内科医として入った。
川崎幸病院と杉山医師は、在宅医療の制度がなかった時代から自宅での「自己管理治療」を積極
的に採り入れてきた。糖尿病のインスリン自己注射や在宅の血液透析、人工呼吸器の導入などに先
進的に取り組んだ。
当初、これらの自己管理治療は「保険適用」されていなかった。法的に解釈すれば、保険適用外
の治療は「自由診療」とみなされ、患者は10割の医療費負担を強いられる。
※この項、次回に続きます。
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ということで、これから数回にわたって、同病院とその地域を舞台にした杉山孝博医師
の在宅医療の普及と拡充の実際の例を紹介していくことになります。
当然、在宅介護とと医療との組み合わせや障害者医療との組み合わせなど、個々に事情・
状況は異なりますが、それぞれの事例に多くの示唆が含まれています。
こうした書を用いて考えていくシリーズでは、極力省略することなく、原文をそのまま
転載させて頂いています。どの部分も、筆者の意図があると考え、忠実にお伝えすべきと
考える故です。
そして、できるだけ、その内容から考えた、浅薄ではあっても、自分なりの感想・考え
を記していきたいと思います。
実際の現場での経験がない身ですから、稚拙なものに止まりますが・・・。
※次回は、<家にいながら治療を受けるために>の残りです。
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【『長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実』構成】
はじめに
第1章 在宅医療の光と影
第2章 亡くなる場所が選べない
第3章 認知症と共に生きる
第4章 誰のための地域包括ケアなのか
第5章 資本に食われる医療
おわりに
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【山岡淳一郎氏・プロフィール】
◆1959年愛媛県生まれ、ノンフィクション作家、東京富士大学客員教授
◆「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマに近現代史、政治、医療、
建築など分野を越えて旺盛に執筆。時事番組の司会も務める。
◆著書:『原発と権力: 戦後から辿る支配者の系譜』
『インフラの呪縛: 公共事業はなぜ迷走するのか』『気骨: 経営者 土光敏夫の闘い
』
『国民皆保険が危ない』『後藤新平 日本の羅針盤となった男
』
『田中角栄の資源戦争』『医療のこと、もっと知ってほしい
』他多数。
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足掛け2年にわたってシリーズ化し、昨年末に紹介を終えたのが
『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から』(結城康博氏著)
政府・厚労省の介護政策において置く<在宅介護主義>。
これに非常に疑問を持つ私です。
今回の書では、在宅医療も在宅介護と一体のものとして考えることを基本としており、それ
は当然のこと。
とすると、一層在宅での老後生活と看取りについての困難さが浮き彫りにされます。
そのためということでしょうか。
「長生きしても報われない」という悲観的なタイトルが付いた本書。
が、「長生きすればみな報われるべきなのか?」、「報われるとはどういうことなのか?」。
このタイトルを目にしたとき、率直に第一に抱いたのが、この疑問でした。
お叱りを承知で、根源的なこの疑問を抱きつつ、加えて、先に述べた、在宅介護・医療に限
界とその政策への疑問をベースに、このシリーズを続けていきます。
◆「『在宅介護』から」シリーズ
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本書をシリーズ化する前に、昨年『もう親を捨てるしかない 介護・葬式・遺産は、要らない』
という書を紹介しつつ老後・介護・最期を考えるシリーズを投稿してきました。
その内容と、今回の『長生きしても報われない社会 ──在宅医療・介護の真実』のここまでの
展開の内容とニュアンスが類似しています。
新シリーズの方は、これから実際の医療・介護事例が具体的に数多く取り上げられるので、
実際には異質な書ですが。
『もう親を捨てるしかない』シリーズも今月から再開し、第3章に入っていく予定です。
並行して、見て頂ければと思います。
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