自然志向葬送の根拠・方法と自然を守る使命:『老い方上手』「自分らしい葬送を選ぶ」から-6

 

老い方上手』にある井上治代さんの第5章 自分らしい葬送を選ぶ
を紹介しながら、終活の一つ、葬儀・葬送について考えてきています。

第1回 ⇒ 変わる家族と葬送(1)核家族化の後
第2回⇒ 変わる家族と葬送(2)跡継ぎを必要としないお墓と自分らしさ
第3回⇒ 変わる家族と葬送(3)自由なデザインで自分らしいお墓
第4回⇒ 変わる家族と葬送(4)手元供養が人気
とお墓に対しての心の持ち方の変化などについて紹介。

その後自然葬の紹介に入り
第5回⇒ 自然葬志向の「散骨」の法律事情
を取り上げています。

そして今回は、自然志向の葬送が広まる要因などについて
同書の内容をお借りて考えてみました。

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<自然志向の墓の実際>から

(略)

私(井上治代さん)が発案してやっております「桜の木に眠る」という
桜葬墓地」が東京・町田市にあります。
特徴は跡継ぎを必要としないこと、また自然志向、つまり土の中に埋める
ということです。

2012年に意識調査を行ったところ、跡継ぎを必要としないお墓にもかかわ
らず、約76%の方に子供さんがいました。これはすごいこですね。
最近の方々は、子どもがいないから跡継ぎを必要としないお墓を買うとい
うわけではないんです。

桜葬を選んだ理由は、「自然に還ることができるから」が約74%で最多。
一般的なお墓は、特に都会のお墓は墓石の下のカロートがコンクリートで
囲まれていて、そこに骨壷が安置。いつまでも暗くじめじめしたコンクリ
ートの中に置かれたままになっているのはイヤ。
そうではなくて、土に還りたいという人たちが増えてきているのです。

2番目は、「後継者がいなくてもいいから」で58%
3番目は、「跡継ぎのことなど、子どもに負担がかかるので、自分の
代で終わりにしたいから」で40%
4番目は、「葬儀や死後のことを託すエンディングサポートがあるから」
が26% でした。

桜

2012年にNHKが無縁社会に関するドキュメンタリーをセンセーショナル
に関する放映しました。

無縁社会というのは、家族、地域、会社などにおける人との関係性が
薄れ、孤立する人が増えている社会をいいます。
それは単身者だけの話ではなく、家族があっても親と子家族が同居し
なければ、家の中には介護してくれる人も、看取ってくれる人もなく
なり、当然、家族機能が非常に弱まります。
そのために介護保険制度ができて、第三者のヘルパーさんが介護を
するというような介護の社会化が起きました。

それと同じように葬送も、家族を最大限に活かしながら家族で足りない
部分を、みんなで助けあっていこうという、生前からの縁を結ぶ組織
が必要となっています。
個を単位とした社会の到来です。

お墓では、1990年から、代々継いでいく継承性から脱していく
脱継承」という傾向と、それから「自然志向」が出てきました。

そして「個人化」です。◯◯家の墓というよりは自分あるいは夫婦を
単位とした墓という考え方が出てきたのです。

また「双方化」の傾向があげられます。夫婦が長男・長女同士ですと
妻方も、夫方も双方が墓を作らなければいけない。だとしたら、
ひとつにまとめてしまおういう両家墓などがはやってきています。

(略)※前回ご紹介した文章が続きます。

樹木葬というのは、墓埋法にもとづいて許可を得て墓地に作ります。
東京都はとくの許可が厳しく、大水によって土が流れたりしないこと
とか、そのために土の下に暗渠という水を捌かせる設備を設したりし
て、やっと墓地として許可が得られるわけです。

このように、同じ自然志向の奏法でも散骨は墓埋法の外でやっていて、
樹木葬は法の内でやっているため違いがあり、それによってそれぞれ
「埋める」と「撒く」という違いがあります。

(この項、終わり)

樹木葬

※次回、「桜葬」について紹介します。

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自然志向の葬送への意識の変化の根拠も、つまるところ家族形態の変化に
あることが確認できます。

しかし、それだけでなく、命や死後に関する意識の変化、宗教との関係の
変化など心の持ち方・精神性についての変化の方が、大きいのでは・・・。
そう思います。

一部の人は、それが人間性を失うこと、嘆くべきこと、と主張するかも
しれませんが、私は、それは優しさの変化の有り様であり、好ましいコト
と言っても良いのではと感じます。

人間の喜怒哀楽の基本的な精神構造は、古来から変わることなく、科学技術
などの変化・創造に比べると、残虐性・衝動性・凶暴性・排他性などの行動
が、現代においてもなんの変化をもたらすことな繰り返されています。

そうした負の変わらぬ行動様式に比べれば、葬送に関わる新しい優しさが
元になった行動の変化は、ある意味進化のひとつと考えていいのかな。
そう思います。

合理性も優しさの一つの現れ、という面もあるのですから・・・。

そして、志向する自然そのものの安全性や環境の保全などがあってこその
自然志向葬送であり、それを守ることも当然の使命であることは言うまでも
ありません。

eco水素

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その他、散骨などのサービスについてこのブログで紹介しました。
⇒ クラブツーリズムの終活講座:樹木葬と海洋散骨講座、納骨堂講座、エンディング準備講座

また、
NPO手元供養協会のサイトにある、手元供養で残ったお骨の処理フロー
というページで、遺骨・遺灰の取り扱いについて丁寧に説明しています。
参考になるかと思います。

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【井上治代さんプロフィール】(同誌より転載しました。)
東洋大学ライフデザイン学部教授、社会学博士。
認定NPO法人エンディングセンター理事長。ノンフィクション作家。
専門分野は社会学(家族変動・死者祭祀・ジェンダー論)で、「家族の社会学」
「生死の社会学」「いのちの教育」「総合Ⅳ」死生学ゼミ」などを教えている。
著書に『新・遺言ノート』『墓と家族の変容』『桜葬-桜の下で眠りたい』
『より良く死ぬ日のために』ほか。

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