女性の社会進出と男性の家庭・地域社会進出をどう進めるか:「時間」がない男が「居場所」のある女に頼るミライ(43)

『「居場所」のない男、「時間」がない女』(水無田気流さん著)
を読むことで始めた <「時間」がない男が「居場所」のある女に頼るミライ>ブログ。
同書の流れに沿い、長々とシリーズ化してきています。

既に終えた『第1部 居場所のない男』、『第2部 時間のない女』は、
文末にリスト化してあります。

さて、いよいよ最終
『第3部 時空の歪みを超えるために』に入っています。
「第1章 不寛容な日本の私」
第1回(第39回):ダイバーシティ論よりも行動論への道筋作りへ
第2回(第40回):水無田さん、それで何を、どうします!?
「第2章 総合的な「生活者」を考える」に進み
第1回(第41回):水無田さん、法規範・社会規範、違いごとの対策が必要ですが
第2回(第42回):評論家に終わらないようにするために
今回は、第3回(通算第43回)。これをもって最終回とします。

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【第2章 総合的な「生活者」を考える 】から
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最終章で、外国の成功事例を持ってくることに、私は違和感を感じたので
<「オランダの軌跡」と政労使合意><合意形成を容易にした背景>の2項
を省略しました。
以下最後の3項から引用し、水無田さんの主張のまとめを確認したいと思い
ます。

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<危機を可視化する文化>
(略)
 少子化にしても、女性の就労と育児の両立問題にしても、男性の社会的
孤立にしても。いずれも「巨大すぎる」うえ、「解決策を施しても結果が
でるまでに時間がかかる」トピックである。
 現代の日本社会は、「時間」に弱い。
 すぐに効果の出るもの、現状に最適化したものを最も良きものとして考
え、それ以外を非効率、無駄と判断してしまう。
 だが、人はいつか年をとり、身体も無理が利かなくなっていく。
 出産期の女性は通常時のようには動けないし、育児や介護を抱えた人は
時間をとられる。
それらはすべて、「無駄」なのであろうか。
 近年は「就活」「婚活」、さらには葬儀や墓の手配も自分で考えようと
いう「終活」なども盛んに喧伝される。
 もちろん、ライフイベントを効率的にこなそうというこれらの言葉には、
一定のニーズも効果もあるのは分かる。
 だがこのように、ライフイベントの一点に集中し効率化をしなければ、
人生の重要局面が乗り越えられないという現状は、個々人の人生の自己負
担が高まっていることの証左であろう。
 本来、人間にとってもっとも大切な「活動」は、「生活」ではないのだ

ろうか。
 この「当たり前の生活」が脅かされているからこそ、人生の効率化に向
けた活動が奨励されているともいえる。
(略)
危機を正視し、その解消のためになし得ること。
 その第一歩は、性別に大きく偏った時空間の歪みである
 近縁推奨される「ワークライフバランス」も「ダイバーシティ」も、こ
の歪みを正すことを眼目としている。
 そのためにも、今日本社会に最も必要なのは、男性も含めた総合的な雇
用環境と社会保障の改善である。


効率的にこなそうという意図・目的を持つ「〇活」というとらえ方は、

どうでしょうか・・・。
困難な状況を克服するための行動をすべて効率性を重視したものとみる
のは、合理的ではないと思います。

また「当たり前の生活」の中にも、効率性を求めるものもあります。
 この項の意見には、やや無理があるような気がしますね。

事務
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<社会保障制度改革は個人単位に>
(略)
D・セインズベリーは、社会福祉制度における従来の「男性稼ぎ手モデル」
から「個人モデル」を区別することを主張した。
 そこから、資格付与の在り方を困窮など「ニーズによって」、扶養家族な
ど「妻として」、さらにケアする「母として」等の区別を行った。
 このことは、既婚女性に妻・母役割がすべて自動的に付加されるとみなす
従来の家族規範前提のあり方から、シングルマザーなど、ケア役割があって
も扶養されてはいない女性のあり方を包摂する社会福祉制度への道を開き、
福祉制度の個人化を提唱したのである。

さらに、この理論を分析し、家族社会学者・落合恵美子は、次のように
論じている。
 1970年代から2000年代までにヨーロッパを中心になされた制度改革は、
「『妻として』の派生的受給権から、就労やケア(育児・介護)という広義
の経済活動による社会への貢献や普遍的市民権に基づいた直接的受給権へと
いう、大きな流れの中にある」といえる。
 改革の眼目は、
① 育児・介護期間の評価 
② 非正規雇用者の包摂と低い年金額の是正
③ 離婚時などの年金分割 
④ 事実婚など多様な家族形態への対応 
⑤ 基礎年金などの普遍的最低保障 
⑥ 性中立的な制度設計 
⑦ 女性の就労率を高める労働政策
以上の7点である、と。
これらはまさに、必要だが評価されなかった無償労働を、評価枠組みの中
へ受容する試みといえる。

 女性の「家事・育児と就労の両立」が字句通り目指されるならば、それは
可能であると筆者は考える。
 だが、既存の雇用環境も家庭生活のあり方も変えなければ、それは「会社
人間でありつつ家庭責任を全うせよ」との要請になる。
これでは、多くの女性は選択できない。

 この項がこの書で最も具体的で、分かりやすい内容と感じました。
内容にも賛成です。
問題は、こうした政策をどう実現するかの道筋・シナリオ創りです。

仕事
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<結びにかえて>
現在必要とされているのは、男性も含めた労働と家庭生活のあり方の再編
である。
 単位時間当たりの生産性を高め評価し、就労インセンティブを保ちつつ生
活満足度を上げるためには、総合的な見直しが必要である。
 政府が述べてきた「女性活躍」は、スーパーウーマンが飛来して問題を解
決してくれることを待っていてはかなわない。
 そうではなく、今。就労の現場にいる普通の女性が、普通の男性と協業し
その能力を発揮するための環境整備こそが求められている。

 このためには、逆説的に「既存の男性の就労モデル」を疑い、問題を検証
する必要がある。
 「居場所のない男」。この観点は、現状の男性の社会的地位や経済的優位
性が、決して当の男性にとって幸福なものではないことを示している。
 
 だから、女性の社会進出と男性の家庭・地域社会進出をぜひとも推進する
ことから始めてほしい。
 女性を企業のメンバーに加えると同時に、男性を地域社会のメンバーに加
えることが必要である。
 このためには、旧来の「標準世帯のライフスタイル」を前提とした社会制
度を見直し、全方位的な雇用環境の改善を行う必要がある。
 それこそが、今日の日本社会の巨大な「リビングにいる象」を正視し、少
しずつ解体する方途であると信じる所以である。

 そこでの提案をどのように進めていくか、どう取り組むか。
そこに食い込む必要がありますが、だれが相手か、すっきりしないまま終わ
っています。
日本社会の巨大な「リビングにいる象」
この結びの表現に思いを込めたのでしょうが、却って私には、また抽象・
情緒の世界に引き戻されたように感じられたのが、少々残念です。

次回、この水無田気流論シリーズを終えて思うこと、
そして、これからこのシリーズをどう生かすか、展開していくか・・・、
まとめたいと思います。

若夫婦
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『「居場所」のない男、「時間」がない女』から考える
<「時間」がない男が「居場所」のある女に頼るミライ>ブログ
これまで掲載したブログのラインアップは以下の通りです。
『第1部 居場所のない男』
「第1章 男女の時空間分離がもたらした悲劇」
第1回:関係貧困と時間貧困、時空の歪みを歯噛みする
第2回:「亭主元気で留守がいい」から「亭主ピンピンコロリがいい」時代へ
第3回:粗大ゴミ・産廃・濡れ落ち葉男性の今昔とミライ
第4回:時間がある若い世代の居場所確保と疎外感克服法は?
第5回:「男は、女はこうあるべき」が崩れる社会に備える
第6回:時代で変化してきた夫婦の関係性の明日は見えるか
第7回:男性よ、愛情表現する勇気とスキルを持とう!
「第2章「弱音を吐けない」という男性問題」
第8回:愛情ビジネス結婚と損得感情・損得勘定結婚
第9回:弱音を吐かない強みと弱みへの対応法
第10回:夫婦・独り身の平均寿命の違いの原因は?
第11回:そして男性のまわりにはだれも居なくなる?!
第12回:女性が新しいコミュニティを創造してくれる!?:
第13回:孤独であること、ひとりでいることはいけないこと?
第14回:男子よ、自分の健康管理は自分で!
第15回:自殺統計から仕事と生活のあり方を考えてみる
第16回:平均寿命が短い男性には時間もない!?
「第3章 日本男性の「関係貧困」」
第17回:サラリーマンの定義・対象範囲が微妙です
第18回:自分流の労働観・家族観を持つ時代へ
第19回:リーマン小説・歌・映画は世に連れ、未来はネットに連れ?
第20回:関係貧困の象徴、孤独な男性はどこへ行く
第21回:新しい雇用環境創造のための基本認識
第22回:男性にもある、就労第一主義を形成する時間貧困
第23回:単身無業者を支援する「関係貧困」解決社会システム
第24回:居場所がないと生きては行けませんか?行き場所がある人生を

『第2部 時間のない女』
「第1章 既婚女性は家族の「時間財」」
第1回(第25回):水無田さんの出産・育児母体験から考える
第2回(第26回):日本の母親に求める役割と基準の高さが時間を削る
第3回(第27回):水無田さんの体験が示す日本の子育て・女性政策の欠陥
第4回(第28回):母の愛情は無償?有償?
第5回(第29回):時間貧困が論理貧困を招く?
第6回(第30回):すべての年代・世代の男性が女性の時間財を奪っている?
「第2章 日本女性の「時間貧困」」
第7回(第31回):社会生活基本調査から読み取る夫婦の生活時間の違い
第8回(第32回):「全国家庭動向調査」に見る夫の家事・育児分担状況から
第9回(第33回):家事の時給換算で有償化のシミュレーションを
第10回(第34回):日本女性の家事時間問題と時間貧困考察の視点、再考
「第3章 出産タイムリミットに追われる日本女性」
第11回(第35回):結婚至上主義は、女性自身が放棄したのでは?
第12回(第36回):「女の幸せ」新・実現プログラムをどう描くか
第13回(第37回):能力はあるが、時間がない女性の生き方は?
第14回(第38回):社会的不妊と家族規範を打破する役割は全世代に

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【水無田気流さん・プロフィール】
1970年神奈川県相模原市生まれ。詩人・社会学者
早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
著書:『シングルマザーの貧困』『無頼化した女たち』
『黒山ももこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望』
『平成幸福論ノート』(田中理恵子名義)など

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