保育所急増・待機児童増状況での保育士問題を考える:『ルポ 保育崩壊』から(1)
2015/11/19 付日経
「定員増でも待機児童 保育所急増のひずみ 人材育成間に合わず」
と題したレポートが掲載されました。
以下、引用します。
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<保育所急増でも、再び増加した待機児童>
政府は子育て支援を重点政策の一つに掲げるが、待機児童解消のめどが
たたない。
各自治体とも対応を急ぎ、保育定員は1年間で約14万人増えたが、需要
の高まりに追いつかない。
待機児童数は2万3167人と5年ぶりに増加した。(4月1日時点)
厚生労働省の調査では、認可保育所などが2万5464カ所と4%増。
定員は247万人と、前年同期より14万人近く増えた。
<保育士の経験不足と質低下>
2014年の保育所の増加数の約3倍にのぼり、保育所急増のあおりを受け
る形で保育士育成の遅れ、どうしても経験の浅い保育士が多くなり質の
低下も懸念されている。
「散らかっていて走り回るスペースはないし、保育士はオムツを替える
時に手袋もしない」。
東京都新宿区の認可保育所で働く40歳代の看護師は片付けや衛生管理が
不十分な実態を打ち明ける。
掃除が行き届かない保育室にはモノがあふれかえる。
外出できない雨の日は子ども同士がぶつかって転び、ケガをする。
母体が相次いで新設していることもあり、新人が多い。
0歳児が泣くと「個室が好きよね」と、抱っこして寝かせず、ベビーベ
ッドに入れてしまう。
暑い日に水を飲ませ忘れたり、うんちがついたオムツを素手で取り換え、
手を洗わなかったりする。
「保育士が教育されていない。こんな環境で育つ子どもはどうなるか」
と、この看護師は危機感を抱く。
それでも保育士を確保できる施設はいい方かもしれない。
不足は危機的状況だ。
9月の東京都内の保育士の有効求人倍率は5.44倍にのぼる。
重労働の割に賃金が低いとされ、平均月給は全産業を約9万円下回る
20万9800円。
行政は待遇改善に取り組むが、人材確保は容易ではない。
東京都の調査(14年)によると、就業年数が3年以内の保育士は約半数
を占める。
「保育はチームプレー。経験の浅い保育士ばかりだと連携がうまくいかず
に負担感が増し、質の低下を招くケースは珍しくない」と保育園を考える
親の会の普光院亜紀代表は指摘する。
東京都板橋区の認可保育所に勤めていた職員(49)は振り返る。
定員60人のうち半数が土曜日も通うため休日出勤が常態化。
子どもが嘔吐したシーツを保育士が洗うなど間接的な仕事も降りかかる。
若手が多く、時間通りに保育をこなすだけで精いっぱい。
0歳児を早く昼寝させたいあまり、頭まで布団をかぶせることもあると
いう。
<保護者にも不安・不満が>
東京都大田区で昨年新設された認可保育所に娘(2)を通わせていた
女性会社員(34)。
牛乳アレルギーのため豆乳を飲んでいるはずの娘が「たくさん牛乳を
飲みました」と言われ、一瞬耳を疑った。
実際には言い間違えただけだったが、本当だったら、子どもの命に関
わるところだった。
<10年間に、事故で163人死亡>
同省のまとめによると、04~14年に保育所で起きた事故で死亡した子
どもは163人。
施設数では約3割の認可外保育所での事故が7割にのぼるが、認可で
も50人が亡くなっている。
自治体に保育所の安全対策の条例化を求めた。
04年に区立保育所で死亡事故が起きた世田谷区は指針を定め、安全管
理を保育所に促している。
同区の認可保育所、烏山杉の子保育園では年齢ごとに気をつけるチェ
ックリストを作成。
ぬれた床で転びそうといった「ヒヤリハット」事例や防止策を1カ月
ごとに共有する。
「現場の意識は低い。このままでは事故は繰り返されるばかりだ」と
強調する。安倍晋三首相は新たな「3本の矢」の一つに、合計特殊出生率1.8を
目指す子育て支援を盛り込んだ。
そのためには単に待機児童を解消するだけでなく、安心して子どもを
預けられる環境整備が欠かせない。
保育士の負担を軽減し、教育システムを見直す時期が来ている。
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並行して、ブログサイト、介護相談.net で取り上げている「介護施設」
「介護業務」「介護士」問題と同質の問題を抱える「保育所」「保育
業務」「保育士」問題です。
子育て・保育・保活問題を考えるカテゴリーを設定している当ブログ。
お薦め図書の一つ、『ルポ 保育崩壊』
を始める時期を以前から考えていました。
掲載されたことをきっかけに、始めることにしました。
「保育の現場は、今」と題し、保育所の困難で厳しい現状をレポートし
た第1章から始まっている本書。
その章は
1)地獄図のような光景
2)エプロン・テーブルクロス
3)「ほいくえん、いや。せんせい、こわい」
4)失われる生活の質
5)三週間、お散歩ゼロ
6)転園して赤ちゃん返り
7)オムツかぶれ
8)保護者の立場の弱さ
9)密閉状態の中で
10)定員オーバーの公立保育所
11)この保育所に預けて良いものか
12)怖くて入れられない
13)子どもの代弁者になれるのは誰か
と構成されています。
これを読むだけでも、それとなく保育所の現状が思い浮かび、さすがに
この章から始めることをためらってしまいます。
『ルポ 保育崩壊
第1章 保育の現場は、今
第2章 保育士が足りない!?
第3章 経営は成り立つのか
第4章 共働き時代の保育
第5章 改めて保育の意味を考える